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第79話



 横浜の自宅に戻ってからは、自然と俺と沙紀は別居になった。

 勤務先の不動産会社には体調不良、有給などを合わせて長い休みをもらった。

 時間の流れも分からなくなり、暑さだけを感じる日々が続いた。そんなある日、動画が送られて来た。

 それは沙紀が上海にいる時に、キムさんが使っていたアドレスからだった。

 そこには俺が知る…そう、このマンションで何の不安も感じず、慎ましく過ごしていた頃の沙紀が映っていた。

 沙紀はカメラを向ける誰か…おそらくキム、と会話をしていた。

 『…子供が生まれたら、名前をアソコに彫ろうかな』

 これはパロディなのか、張さんの俺に対する怒りの続きを代弁しているのか、俺には考える気力もなかった。そう、俺は現実逃避に意識が働き、動画を単なるエロビデオの一つとしてか視れなかったのだと思う。

 その証拠に、動画の続きは沙紀に似た女と、標準語と関西弁を使い分ける在日の男のセックスシーンで、俺はそれを視て若い頃のように大きくなった一物を扱き、白濁の欲液を飛ばしていたのだった。





 「ああ、どっかに良い女はいないかな」

 動画の続きを視ながら独りごちる俺は、いつかの職場の後輩の言葉を思い出した。

 『…全員人妻ですよ』

 『…半分は旦那公認みたいですよ』

 ぼんやりし始めた俺は、動画の場面が代わってハッと我に返った。

 そこに映るのは見覚えのある建物、山手の実家だった。

 映像はその佇まいを映しながら、時おり揺れたかと思うと誰かの足元を捉えたりした。

 動画を撮る隣には身重(?)の女。

 女の手には紙袋。そこには温泉地と旅館の名前。袋の中身は温泉土産だ。

 その時、あの日の事が頭の中を走馬灯のように巡り始めた。

 修善寺の温泉宿ーー。あの時、勝野夫婦なんかと出会わなければ…。

 ああ、俺は田舎に帰った方が…。

 しかしその思考は、スマホの着信音で遮られた。





 出ると記憶にある男の声が聞こえてきた。

 「先輩、会社辞めるんですか」

 職場の例の後輩だった。

 何故か肩の力が抜けていった。

 そう言えばコイツも、バツイチだった。そして今は、デリヘルに凝ってるただの男。

 思わず俺は、電話口で笑っていた。

 「あらら、元気なんすね。何だ、心配して損しましたよ」

 俺は薄い笑いを続けた。

 「会社じゃ、奥さんに逃げられて落ち込んでるって噂ですよ」

 その言葉にも、俺は薄い笑いを返しただけだった。





 「じゃあ先輩、ここだけの話ですけど呼んじゃいますか。ほら、デリヘル。最近良い店見つけたんスよね。本物の人妻がいるんですよ。うん、沙紀さんに似た人も。そう、その人って何でも犯(や)らせてくれるんスよ、夫婦でも絶対ヤラせてくれない事を。それとね…」

 後輩の言葉は延々と続いた。それでも俺は、苦痛を感じなかった。

 いつしか俺の頭は『女』を呼ぶのもいいなと考えていた。

 何でもヤラせてくれる人妻。なら、股間にでも俺の名前を彫らせて貰おうかな。

 そんな事を考えながら、俺は暑い暑い時間を過ごすのだった。









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 みぎわの沙紀ーーーおしまい。

 『みぎわ』とは、海や湖などの水と陸が接地している際(きわ)の所。

 沙紀の『沙』は、「水辺にある細かな砂」を意味する。『水』を意味するさんずいと『散らばっている細かい粒』を表す『少』が組み合わさって出来た漢字で、砂という意味の他にも、細かい物を洗い、悪い物を捨てさって良い物を選び取ると言う意味もあるらしい。





 ちゃんちゃん(*^_^*)