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第34話


 思わぬところからパーティー会場に招かれる事になった俺。
 金田さんの後ろに付いて歩き、入口の扉を通って真っ先に目に入ったのはカラフルな色だった。会場の中を赤、臙脂、青、緑、色んな色の蝶が舞っている、と思えたのがチャイナドレスを纏った女達だった。
 俺は暫しその様子に見惚れていたが「じゃあ、砺波さんはあちらのテーブルで」金田さんが一番後ろのテーブルに俺を誘導した。
 そこから周りを窺えば、同じようなテーブルが10台ほど。一つのテーブルに男が4、5人程度と、チャイナ姿のコンパニオンが二人といった配置だ。会場内の人は全部で70人前後か、この手のパーティーにしたら少ない方かもしれない。
 俺が案内されたこのテーブルにも男が4人に、チャイナドレスの女が二人いる。男達の胸には名刺型の名札プレートが付けられてある。そこに書かれてあるのは名前だろうが、文字は中国語だ。そんな男達は、俺が来た時から何か夢中になって話し混んでいる。日本の不動産の話なのか、コンパニオンの品定めなのか、中国語はさっぱり分からない。
 早くも俺は、居心地の悪さを感じていた。同時に、沙紀のチャイナ姿を一目見れれば直ぐに帰ろうかと思った。
 そんな考えに至った時に、再び金田さんが近づいて来た。手にはグラスを持っている。


 「砺波さんは水割りで良かったですか」
 「すいませんお気遣いを。でも、車なんですよ」
 俺と金田さんの僅かな会話に、それまで喋っていた周りの男達の口が止まった。チャイナドレスの女の動きも止まったように感じた。
 訝しげな視線を感じて、気まずさが増して来る。日本語を喋ったら悪いのかよ、そんな気持ちになってきた。
 そんな俺の気持ちを知らずか、金田さんが続けて来る。
 「じゃあ、ソフトドリンクをとってきましょう」
 「いや、大丈夫です。自分で行きますから」俺は云うなり、その場から逃げるように足をふみ出そうとした。
 そのタイミングで「わたし、とって、きます」片言の日本語が聞こえた。見れば臙脂色のチャイナ姿のコンパニオンだ。
 それでも俺は「いや、いいですよ」と、前方のバーカウンターの方に行く事にした。


 カウンターでウーロン茶を貰ったが、元のテーブルには戻らず近くの壁にもたれて、それに口を付けた。そこから会場の様子を改まって眺めて見れば、やはりカラフルな色に目がいく。コンパニオン達の髪型はイメージ通りで、耳の上辺りでお団子に髪を丸めた者が殆どだ。長髪の娘(こ)はごく僅かだ。
 俺は、さてと息をついて沙紀を探す事にした。
 しかし、目を凝らしてチャイナ姿を追いかけても、それらしい姿は見当たらない。皆がみんな同じような背丈に同じような身体付きなのだ。衣装の色くらいは訊いておけばよかったと、今更ながら思ってしまう。
 胡散臭そうな男達の姿も目に留まる。ブレザーを着てTPOを弁(わきま)えてる者もいれば、アロバシャツのような服を着てる者もいるし、何故か料理人のような格好の者もいる。
 そんな男達の口からは、矢継ぎ早に中国語が発せられている。その相手をしてるのが、いわゆる営業マンだろうか。彼等が勝野さんが云ってた外部スタッフかもしれない。
 俺は自分の出で立ちを改まった。この服装に気付いた客なら、俺にも話し掛けて来るかもしれない。
 そんな考えに首を振った俺の目は、客の一人に目がいった。既に出来上がった顔の男が、隣のチャイナドレスのスリットから手を突っ込んでいる。相手の女性を見れば、大して嫌がった素振りではない。沙紀でなくて良かったと思ったが、このパーティーの質を疑ってしまう。
 そういえばと、主催者の勝野さんは何処だろうかと顔を振った時だ。


 「あのぉ、お料理、お持ち致しましょうか」
 声の方を向けば、先ほど声を掛けてきた女の娘(こ)だ。この彼女のイントネーションには、違和感はさほど感じない。
 彼女の胸元を見れば『冬子』のネームプレートが付けられている。
 「あの、君は中国の人だよね?」俺は小声で尋ねてみた。
 「はい、中国人です」
 耳に届いた小さな声は、響きの良いちょっと鼻にかかった声だ。


 「そうなんだ、日本語上手だね」
 俺の言葉に、彼女の頬がポッと朱くなった気がした。そんな小柄な彼女が俺を見上げた。
 「お客様は日本人ですよね。他の方と全然違います」
 言葉の意味をどう解釈すれば良いのか分からなかったが、悪い気は全くしない。


 「うん、正真正銘の日本人だよ。だからか、ここは場違いな感じがしてる」俺は会話が周りに聞かれないようにと、彼女の耳元に唇を寄せて呟いた。その瞬間に嗅いだ事のない香水の匂いがした。
 彼女を見れば、その目はパチリと拡がっていて、その雰囲気は幼く見える。唇は朱く塗られているが、背のびしてる気がしないでもない。思わず歳を訊きそうになったが、セクハラと間違えられても困ってしまう。


 「あのぉ、それで、お料理、とって来ますが…」
 朱い唇の動きに「いや、食事はいいや」俺は首を振った。
 その俺の肩口から覚えのある声が聞こえてきた。
 「冬子ちゃん、仲良くしてるわね。でも、この方には奥様がいらっしゃるのよ」
 俺は声の主を振り返ると「あっ!」と、驚きの声を上げたのだった。