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第17話
野天風呂から逃げるようにして部屋に戻った俺は、途端に罪の意識が拡がって行くのを感じていた。
あの幻想的な時間の中で、俺は間違いなく他人の妻を抱いてしまったのだ。そう、その証拠に股間には射精の後の倦怠感が残っている。
そして沙紀。
裸のまま勝野さんの足元に横たわっていた原因は何だろうか。やはりあれは…いや、ソレを想像する資格が俺にあるのだろうか。問い質す権利だってあるはずが無い。
暫くの間、そんな思考に迷い込んでいる時、コツン、コツンとノックの音がした。
俺はハッと我に返り、立ち上がった。
「ごめんなさい、夜分に」
ドア越しに聞こえたのは、勝野さんの小さな声だった。俺はゴクリと唾を飲み込み、震える手をドアノブにやった。
ドアを開けると勝野さんが、後ろから沙紀の両肩を抱えて立っていた。
「いや、実はですね」と、どこか申し訳なさそうに勝野さんが口を開いた。「私が野天風呂にいると、奥さんが入って来られましてね」
その声を聞きながら俺は、沙紀の様子を窺った。沙紀は俯いて、虚な様子で意識がどこにあるのか、あきらかに湯当たりの症状をみせている。
「お互い直ぐに相手に気づいたんだけど、やっぱり気まずいじゃないですか。湯船に浸かってたとはいえね」
そうですよね…と、俺は心の中で呟き返す。
「それでね、先に私が出れば良かったんだけど、私も変に意識したのか、互いに長湯になりましてね」
ああ…と、今度は心の中で唸りが上がる。
「アルコールが入ってたのが大きな原因なんだろうけど、奥さんの顔が真っ赤になってきてね、さすがにヤバいって気付いて声を掛けたんですよ」
「そうだったんですか」
「ええ、それで、反応はしてくれたんだけど鈍いもんだから、手をやってね、それでね」
「勝野さんが風呂から上げてくれたんですね」
「まぁ、そう云う事です。それでずっと、タオルで扇いだり、水を用意したりで時間が掛かってしまったんです」
「それは色々とすいませんでした」と云って、俺は頭を下げた。
「んっと、砺波さん、落ち着いてますね。あまり驚いた様子がない」
「えっ、い、いえ」と、その指摘に俺の方が驚いてしまった。
「奥さんの戻りが遅いから心配してたでしょ?」
「え、まあ、でもウトウトしてまして、今しがた目が覚めたばっかりなんですよ」
俺を見る勝野さんの目が、どこか不審がってる様にみえてしまう。
その時「でも良かったですよ。大事には至ってないみたいですから」と、勝野さんの大柄な身体の後ろから、百合子さんが顔を覗かせた。その瞬間も又、俺の中にビリっと電気が走り抜けた。
「若いし横になってたら、直ぐに良くなると思いますよ」百合子さんが俺の目を見詰めていた。その目がニヤッと笑った気がして、背中がゾクリと震えた。
「じゃあ」勝野さんが沙紀の身体を俺に預けてきた。俺は抱え受けて「すいません」と会釈した。
「それと」今度は百合子さんが前に出て「これを」と、ミネラルウォーターを出してきて床に置いてくれた。
俺はそんな百合子さんから、目を反らしながら「すいません」と頭を下げた。
「じゃあ、後はよろしくお願いしますね」勝野さんが、軽く頷くと背中を向けて部屋を後にする。
二人を見送った後は、沙紀を布団に運びそっと寝かせた。
浴衣の裾が捲れて、太腿の辺りまでが剥き出しになった。白いはずの肌が、まだ赤見を帯びている。俺は浴衣を剥いで沙紀の裸を確認したい、そんな衝動に駆られた。両腿を拡げて、秘密の部分を確かめたいのだ。もし、中(ちつ)に男の跡があったら。
しかし直ぐに、自分に資格のない事を思い出した。
それから沙紀の裾を直してやり、隣で横になる事にした。明日、いや日付けが変わっているから今日だが、昼前にはここを出発するのだ。そんな事を考えているうちに、眠りに落ちて行ったのだった。