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第70話


 俺と沙紀は、それぞれベッドに腰掛け、まさに膝と膝を突き合わせていた。
 キムさんが沙紀の肩に廻していた手を離して畏まった。
 「じゃあ砺波さん、オマンコショーの様子は沙紀ちゃんから聞くと言う事で。私は、お客が暴れてないかパトロールにでも行って来ますわ」ニヤリと笑って、キムさんが部屋を後にした。


 部屋が二人だけになると、妙な空気が漂った気になった。俺の前に座る沙紀は、俯き気味で口を結んでいる。
 黙り込んだ沙紀を見詰める俺の想いは、沙紀が上海から帰って来たあの夜に飛んだ。そう、異国の地でキムさんとしたセックスショーを俺に話したあの夜の事だ。
 上海では、沙紀は酒とムチ打ちの痛みで朦朧とした状態で、キムさんとセックスしたと告った。そしてその様子をお客達に披露したと。
 あの時の沙紀の告白は、時間が経ってたせいもあったか、それに記憶の曖昧さもあったか、リラックスして話していたと思われた。しかし今夜は、アルコールの力もなく、言わば冷静な状態でセックスを披露したのだ。それに、いつ俺に見られるか分からない状況での交わりに、精神が圧迫されていたかもしれない。その事実が今も沙紀を追い込んでいるのではないか。


 「あ、あのさぁ、沙紀のショー…俺は見てないからね」
 小さな俺の声に、沙紀の顔が少しだけ上がった。
 「あ…うん、それは分かってた。…二人で布団に上がった時に、彼が耳元で囁いたから」
 「そうか、そうだったんだな…」
 それにしても、又『彼』なのかと、苦い想いが胸の辺りを過っていく。
 「聖也くんはやっぱり、聞きたい…わけよね」
 「いや、嫌ならいいけどさ。でも、沙紀が告うって言うから」
 「ううん、嫌じゃなく告っておかなきゃいけない気がするから…」
 見れば沙紀は、両手を腿に置いて畏まってる感じだ。まるでこれから、懺悔を始める囚人のようにも観えてしまう。


 「とにかくね、上海でした時より変な感じだったのね」
 「変?」
 「うん、上手く言えないけど見世物にされてるのに、彼にキスされたり揉まれたりしてると、もっともっとって気持ちになっちゃってさ…」
 「そ、そうなのか」
 「そう。でもね、アタシ結構冷静だったの。お酒をあまり呑んでないせいもあったと思うけど」
 「そうだよな」と、俺はコクリと同意した。
 「布団を取り囲んでるお客様達の顔も凄くよく見えてさ。その人達の視線がギラギラしてて、アタシに厭らしい事を訴えてて。でもアタシって、きっとこういうのが似合う女だって気がしたのね」
 その瞬間、ううッと俺の息が詰まった。


 「でもね、羞恥心って言うのかな。オッパイの先を摘み上げられたり、アソコを拡げられたりした時は本当に恥ずかしかったの。彼もアタシの身体が震えているのが分かったと思うのに止めてくれなくてね、耳元で『オマンコ濡れ濡れだよ』とか『早くコイツが欲しいんだろう』とか言うのよ」
 俺は息を詰めたまま、沙紀を見据えている。
 「アタシが涙目で頷くと嬉しそうに、唇を吸ってくるの。そんなアタシ達を、お客様はヒューヒューって囃し立てるのね」
 「何だそれは…」
 「でも、アタシも恥ずかしさを紛らす為に夢中に吸い返してさ。唇が離れたら、もっと頂戴、早く頂戴って口走ってたのね」
 「そ、それで」
 「うん。でも彼は冷静でさ、アタシを煽るのね。お客様を煽る為にアタシを煽る感じで、焦らしに焦らしてアタシに懇願させるの」
 ううッ、分かる、と云い掛けて俺は、その言葉を飲み込んだ。
 「気付いたらもう言いなりでさ。彼のアレにお支えして夢中にシャブったり、お尻の穴に舌まで入れてたの」
 いつの間にやら何かに取り憑かれたように、沙紀は語っていた。それを聞く俺の方も、気づけば反応をおこしていた。股間が膨らみ始めていたのだ。


 「ねえ聖也くぅん、3Pって分かるでしょ」
 「ああ、エロビデオで視た事あるよな」俺は小声で呟いた。そして「やった事ないけど」と、言い訳するように付け足した。
 「気づいたら二人とも素っ裸でさ。彼が犬の格好でお尻を突き上げてたの。そこにアタシもメス犬になってね、彼の肛門をシャブリまくったわけ。舌で彼の穴を抉りながら、アタシもお尻をグーって突き出したの。心の中では、見て、見て、いっぱい見て、そしてアタシのオマンコに太いの突き刺してって思ったの」
 「あぁッマジかよ」
 「うん、だから3P。とにかくお口と後ろの穴も全部塞いで欲しい気持ちだったの。ううん、穴を犯して罰して欲しい気持ちだったのかな」
 そこで息を継いだ沙紀を窺いながら、俺の中には打ちのめされた気持ちと、確かな興奮も覚えていた。そんな俺の口は「それから」と、震える声で話の続きを促していた。
 そんな震え声に、沙紀が目を向ける。俺を見詰めた表情は、呆れの顔かそれとも同情の念か。
 沙紀が、ふふっと軽く鼻で笑う。「うん3Pはね、結局やってないから。でも、気持ちはこの身体を大勢の人にむちゃくちゃにして欲しいって想ってたのよ」
 「ああ…」
 「だから彼には激しくしやってほしくて、逆におねだりしてたと思う」
 「逆おねだりか…」
 「そう、アタシも唾をジュルジュルにして彼の隅々を舐めまくってね、挿れて貰ったらこっちから腰を振ったわ。彼のアレもね、アソコでギュッと締め付けたりしたわ」云うと沙紀が「へへへ」と自嘲気味に笑った。
 「百合子さんの特訓」
 「え?」
 「百合子さんとマンションでアソコの閉まりが良くなる特訓したでしょ」
 「あ!」
 「へへ、あの成果が出たのかなって、今思ったの」と、沙紀が笑った。


 「それでさ、彼のを噛んだり緩めたり繰り返したのよ。でも彼は強くて、なかなか逝かなくて。勿論、早く射(だ)して欲しくないんだけど」
 その時、俺の脳裏にあの文字が浮かんだ。沙紀はちゃんと『避妊薬』を呑んでるんだよな、思わず聞きそうになる。そう、早めに確かめておかなくては。
 しかし俺の口は動かなかった。それよりも話の続きを聞きたくて、身体全体が耳になってる変態がここにいたのだ。


 それからも沙紀の口からは、キムさんとのセックスショーの様子が赤裸々に細かく細部に渡って語られた。いや、途中からはショーはショーでなくなり、二人の愛の交わりだったのかもしれない。
 話が一通り終わりを迎えた時だ。沙紀がふうっと溜め息を吐くと俺の目を覗いた。
 「ごめんね」云って沙紀が頭を下げる。
 その様子にも、俺の方は曖昧に頷くだけだ。
 しかし「聖也くん、それで明日の事だけどさ」と、沙紀が苦笑いを浮かべた。幾分かリラックスした様子に、俺は「なに?」と訊く。
 「ほら、明日ってアタシ達の披露宴でしょ」
 「そうだったな」
 「うん。でも何か変だよね。アタシ達みたいな夫婦が改まって披露宴だなんて」
 「そうだよな、可笑しいよな」
 俺が云うと二人の目があった。同時に二つの口から小さな笑いが起こった。
 「どんな披露宴になるか分かんないけどさ…」
 「そうだね、想像もつかないよね」と、沙紀が云ったところで、又も同時に笑いがおこった。
 「そうそう、キムさんが言ってたけど明日は夕方頃まで自由なんだって」
 「そうなの?俺もかな」
 「そうだよ。だからね、二人で箱根の名称にでも行ってくればって言ってくれたのよ」
 「本当かよ」
 俺が首を捻った丁度その時、部屋のドアが開かれた。キムさんが帰って来たのだった。
 「あらま砺波さん、まだおったんかい」と云ってキムさんがわざとらしく鼻をクンクンと鳴らした。
 「ふ~ん、ザーメン臭くないなぁ。二人でシッポリやれるように出て行ったのに」キムさんが笑う。
 俺はそんなキムさんに明日の披露宴の事を訊こうとした。
 しかし「あかんあかん。今日はもう疲れたわ。沙紀とオマンコやりまくったし、お客の相手で疲れてるし。沙紀、今夜はもうオマンコはやらんぞ」
 沙紀を見れば神妙に俯いていた。結局俺は、後ろ髪を引かれる想いで部屋を後にした。
 自分の部屋に帰る俺の頭は、明日の披露宴の事でいっぱいになっていた。冬子と過ちを犯した事など、忘れていたのだった。