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第18話


 朝ーー。
 目を開けた瞬間、瞼の重さを感じた。もう一度目を瞑ろうと思ったが、首だけ回して掛け時計に目を向けた。時刻は6時少し前。
 欠伸をしながら横を見れば、沙紀の寝顔にホッとした。
 それから暫く、横向きになって沙紀の顔を見ていた。やがて「んむむっ」沙紀が唸ったかと思うと、ゆっくりと目を開けた。


 「やあ」
 俺の声に沙紀が、ニコリと微笑んでから「おはよぉう」と欠伸と一緒に呟いた。
 それから沙紀の布団に潜り込み、ギュッと抱きしめた。そして浴衣を脱がすと、俺も帯を解いて沙紀に覆い被さっていった。
 沙紀は自分が、下着を着けずに寝ていた事にも気付いていない様子だった。
 夕べの深夜、赤身を帯びてた沙紀の身体も、今朝は既に本来の白い肌に戻っていた。俺はその肌艶を確認するように唇をあちこちに廻し続けた。時おり情痴の証拠、と云っても、勝野さんの説明通りなら、二人に過ちはなかった事になるが、それでも俺は、それらしい口付けの跡などがないか探していたのだ。俺に沙紀を追求する資格がないのは分かっていたが、それ以上に沙紀の疑いに嫉妬していたのだ。そんな俺の脳が沙紀を求めている。
 昨日は正常位と騎乗位で交わった俺達。今朝は後背位から誘った。
 沙紀はセックスに貪欲で、これまでも色んな体位を試してきた。この宿でも、部屋からの景色に気づいた時には、あの眺めを見ながらの立ちバック、そんなイメージも膨らませた俺だった。しかし今は、隣の部屋に声など聞かせられない。勿論、百合子さんとの事も忘れていない。
 やがて沙紀が、昨日よりも激しく絶叫を上げた。窓が開いてれば、間違いなく木霊になって返ってきたはずだ。


 「す、凄かったな今朝も」
 荒息を吐きながら俺は、沙紀の様子を横目で窺った。沙紀は目を瞑り天井を向いて、荒い呼吸を続けている。
 「ねぇ、聖也くん…」目を瞑ったままで、沙紀が呟いた。
 「ん?」
 「アタシのアソコ…締まり具合…どうだった」
 「ヘ?なに、どうしたの」
 「うん、どうだった、アタシのオマンコ」
 「いや、それは、良いに決まってるよ、うん」
 「本当?」沙紀が薄目を開けて、こっちを向く。
 「ああ、勿論」云って俺は、沙紀の肩に手を回した。
 暫く沙紀の肩を抱いていると、心の落ち着きが戻る気がした。
 沙紀を見れば、二度寝をしそうな雰囲気だ。俺はその頬を軽く叩いてやった。
 「ん~~」沙紀が瞑りかけた目を開ける。
 しかし突然「なんか量が少なかったみたい、精子の」
 寝言なのか何なのか、それでもまさかのその言葉に、息が止まりそうになってしまった。
 沙紀を抱きしめる俺の心臓が、ドクドクと鳴り始めた。その鼓動が気づかれませんようにと、思わず祈ってしまう。
 その時。
 「聖也くんさぁ、朝ご飯いっぱい食べて精力つけようね」と、沙紀が萎んだアレを握って微笑んだ。


 俺は時刻を確認した。朝食は何時からだったか。食事処で百合子さんを見たら、俺は平然としていられるだろうか。再び不安が押し寄せて来る。
 「聖也くぅん」
 その声に再び、鼓動が鳴った。
 「ご飯、いつ行く?」
 「そうだな、でも、もうちょっとこうしていようよ」俺は沙紀の肩を抱く手に力を入れたのだった。


 7時半になったところで、食事処に行く事にした。
 夕べと同じ部屋の前に着いたところで、気付かれないように深呼吸した。
 普通を装って、中へと入って行く。
 しかしそこには、一組のテーブルしか用意されていなかった。


 「あれっ、アタシ達だけみたいよ」
 俺も虚を突かれた気持ちで席に付いた。
 直ぐに宿の人が、2人分の御膳を持って来てくれた。ご飯や味噌汁などはお代わり自由で、端の台に用意されている。
 お茶を一杯口に付けたところで、女将がこちらにやって来た。手には丸い木網皿、魚の開きを何尾か持って来たのだ。
 女将さんがテーブルに小ぶりな七輪を置いて、選んだ魚をその場で焼いてくれる。
 俺は準備を始めた女将さんに「あの、勝野さん達は」と、何気なく尋ねてみた。
 女将さんは、手際よく魚を焼きながら教えてくれた。
 早めの朝食を摂って、ドライブに行ったのだとか。何でも早朝にしか見れない絶景ポイントがあるらしい。女将さんは、勝野さん夫婦がここに来た時の恒例だと教えてくれた。
 沙紀を見れば、どことなく浮かない顔つきだ。あの夫婦に会いたかったのだろうか。ひょっとして、野天風呂での礼を云いたいのか。
 そこで俺は、改めて尋ねてみようと思った。
 「あのさぁ」俺は箸を止めて、沙紀の顔を見詰めた。
 「夕べの事、覚えてるよね」
 「ヘ、なに?」
 「ほら、夜中に一人で風呂に行っただろ」
 俺の言葉に、沙紀の箸が止まった。そして暫く、固まったようになって「ああっ」と、小さな驚きを漏らした。
 「どうしたんだよ」
 「そうだった…うん、アタシ、野天風呂に行ったんだった」
 「ああ…やっぱり覚えていなかったのか」
 「え、ちょっと待って」云うなり、沙紀は難しい顔になって黙り込んでしまった。


 左手に茶碗、右手で箸を持ったまま沙紀の動きが止まっていた。だが「思い出してきた。うん、アタシ行ったんだ、間違いないわ」と沙紀の目が拡がった。
 「だろ、それで何を覚えてる?」
 「ええっと、そう、夜中に目を覚ましたのよ」
 そして沙紀が、深夜の出来事を話し始めたのだった。