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第66話


 宴会場の中央に敷かれた布団。
 俺は少し離れた所から沙紀を探した。布団に上がるのが沙紀ではないかと、ソワソワしているのだ。
 すると、布団を取り巻く男共の後ろに沙紀を見つけた。
 沙紀の表情は、ここからでは暗くてよく分からないが、取り敢えず俺は胸を撫で下ろした。
 視線を布団に戻すと、その横にキムさんが立っていた。手にはマイクを持っている。
 「○○、今○○ホスト○○○張○○○」
 キムさんが発したのは中国語だった。それを聞いた酔っ払い達の口から『おおっ』と、感嘆の声が上がった。その歓声に応えるようにか、大柄な男が履き物を脱いで布団に上がった。それはなんと周さんだった。
 周さんは回りの視線を浴びながら、帯の具合を確かめるようにギュギュっと締め直す。そして襟元に手をやって器用に上半身を露にした。その姿は、古いヤクザ映画の主人公のような出で立ちだった。


 薄い暗がりの中を、良く見える位置へと俺は足を運んだ。
 近づくにつれて、周さんの姿も鮮明に見えるようになって来る。俺が声を上げそうになったのは、周さんの背中に見えたTATTOOのせいだった。
 灯りの具合でキメ細かいところまでは分からないが、虎がこちらに向かって牙を剥いていたのだ。客の男達も口を閉じて、ソレに魅入られている。


 沈黙を破ったのは、司会を務めるキムさんの声だった。
 相変わらず中国語は分からなかったが、言葉の中の『ドンディー』と云う響きが耳に付いた。それが『冬子』の事だと直感した。
 俺の勘が当たっていた事は直ぐに分かった。冬子が布団の上に、着物姿のまま上がったのだった。


 それからの俺は、二人が織りなすショーに釘づけになった。それは周さんが冬子を甚振る調教ショーだった。
 周さんは友人の張さんの愛人冬子の着物を乱暴に脱がし、そして縄で縛ってムチ打ちを始めた。
 ショーを見守る張さんの気持ちも気になったが、見る限りは平然と、そして不気味な笑みを浮かべて観覧していた。
 司会のキムさんは、時おり解説を入れていたようだった。おそらくだが、縛りの名前を観覧者に告げていたのだ。


 周さんの縛りは素人の俺から見ても、男が女に対して快楽を引き出すと言うより、家畜の肉厚を確認する感じのように窺えた。縄緊縛された冬子の肢体は所々に膨らみを保たらされ、淡い光線によって、凹凸にエロチックな影を浮かび上がらせていた。
 その身体を襲うムチ打ちも、遠慮と言うものが全くなかった。
 悲鳴を上げる冬子の素振りにも、やらせは全く感じられない。それどころか、冬子の様子からはキャリアを感じたのも事実だった。二人は…いや、ひょっとして張さんを交えて3人は、以前から目の前のようなプレイをして来たのではないだろうか。
 最初、声を失くしていた男達も、徐々に身体を前に、縄に絡まれる冬子を抉るように近づいていった。


 客達を煽るようにムチが撓(しな)り、若い身体を打ちつける。
 バチッバチッと肉音が鳴るたび、冬子の口から絶叫が轟き渡る。口から涎を流し、ヒィーヒィーと悲鳴を上げる。しかし瞳は、何かを誘い込むような暗い輝きを浮かべていた。
 ツゥーっと、俺の頬に汗が流れ落ちた。
 会場の冷房は効いてる筈だが、それを上回る熱が放射されているのだ。
 俺はゴクリと息を呑んで、汗を拭った。
 沙紀が上海で打たれた時も、こんなにも激しかったのか。
 やがて冬子が、それまで以上の雄叫びを上げて倒れ込んだ。俺の身体が、思わず助けに行こうかと浮いてしまう。しかし周さんの背中の虎が、待ったを掛ける。
 その周さんが、乱暴に冬子の髪を鷲掴んで持ち上げた。背中で手首を縛られた冬子の、痣だらけになった身体が曝される。目は虚ろで、口元からは涎が垂れ流しだ。
 周さんがもう一度冬子を強引に引き上げれば、釣った魚を自慢する漁師のようではないか。


 「○○ドゥーイー○○…」
 周さんが何事か発した。男達が顔を見合わせる。何を云ったのだ。
 周さんが続けざまに男達に声を掛ける。客を煽っているのか。
 すると一人の男が手を上げた。
 周さんの表情がニヤリと歪む。悍ましい笑いだ。


 布団に上がった男が立ち小便をする時のように浴衣の裾を捲って、パンツを降ろした。
 男の顔の前、髪を釣り上げられた体勢のまま、冬子が相手の股間に顔を近づけた。
 「○○○!」
 まさか、シャブれと云ったのか!
 俺の勘は当たっていた。
 冬子は手首を背中で縛られた不自由な格好のまま、男のペニスを咥え込んだのだ。


 男が冬子の幼い唇を容赦なく汚していく。
 沙紀もひょっとして上海で…。
 俺の思考などお構いなしに、男が射精すると次の男へと持ち場が譲られていった。
 結局、冬子の精飲ショーは、4人の牡精を飲み干したところで終了となった。
 布団の上でグッタリとなった冬子を、他の女が手を貸して連れて行く。女達の顔には驚きの色など全く観られない。彼女達にも見慣れた光景だったのか。


 冬子がいなくなった布団の上では、キムさんが布団を整えていた。周さんは乱れた浴衣を整え、牙を剥いていた虎は隠された。
 囲んでいた男の一人が、気が付いたように拍手をした。それに連れて拍手の輪が広かった。
 男達は近くの者と感想を云い合っているようだった。見れば冬子の口に射精した者は満足の表情を浮かべているようだし、恩恵を受け損ねた者は残念な笑みを浮かべている。
 この後はまだ何かあるのか、俺がそう思った時、キムさんの声がした。
 男共の視線を受けながら、今度はキムさんが布団に上がった。そして中国語で短く、強い口調で叫んだ。
 何と云ったんだ!?
 キムさんの視線の先を、男共が振り返った。そこにいたのは沙紀だ。
 沙紀が俯き気味に足を踏み出す。沙紀はキムさんの言葉が、自分に向いたものだと分かっていたのだ。
 男達の間を抜けて、布団に上がる沙紀。俺の背中に、嫌な汗が流て落ちて来る。
 息を飲む俺を窺うように、大柄な男が近づいて来た。


 「ふふっ、小姐とキムのショーだな」
 渋くて低い声を俺に吹き掛けたのは張さんだった。
 俺を見る張さんの目も又、爬虫類のような薄気味悪い眼をしている。縛られ、ムチ打たれた愛人の事は気にならないのか。
 布団の上では、中国語でキムさんが何かを語り始めていた。まさか、これからこの女とオマンコして見せます、などと告(い)ったのか。


 「どうしたんですか砺波さん。二人が夫婦の寝室を再現して見せますよ」
 ああッ、まさか本当に。張さんの言葉に、身体が震え出す。
 「でも、さすがにここでは見るに耐えられないでしょ」
 「………」背中に流れる汗の勢いが増して行く。
 「なので、貴方には別の仕事をお願いしますよ」
 張さんの言葉に被さるように、向こうでは男達の歓声が上がった。覗けば、沙紀が着物の帯に手を当てている。
 「ふふっ、貴方は超が付く変態なんだってね。愛人とのセックスを妻の口から訊いて、暗い悦(よろこ)びを感じるんでしょ」
 「………」
 「だからこの場はやり過ごして、冬子の様子を見て来て下さいよ」
 そう言うと張さんは、部屋番号を口した。そしてカードキーを手渡してきたのだった。