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第77話


  敷かれた布団の上には、ウェディングベールを被り、ガーターベルトだけを残して下半身を曝す沙紀が、その横には正式な夫とされたキムさんが、微動だにせず立っている。
 「では」と、勝野さんが一つ畏まって、プリントアウトされた俺の顔写真を洗面器の中に置いた。そして「さあ」勝野さんが促すと、沙紀は一瞬俺を見た…が、そのまま洗面器を跨いだ。
 おいっ、まさか!
 呆気に取られる俺を横目に、沙紀が屈み込んだ。それは和式便所で用を足す時のウンチングスタイルだ。
 布団を囲んでいた男達が腰を浮かせて、沙紀の側へと忍び寄っていく。しかしそのタイミングで、張さんが何かを云った。途端に男達が、俺の視界の妨げにならないように隙間を開けた。


 「ほらッ小姐ぅ!」今度は周さんが片言の日本語で言い放った。
 沙紀が眉間にくっきりと皺を寄せて、俺の方に虚な目を向ける。
 「早っくっ!」又も周さんの変な日本語が轟いた。
 すると横から、張さんがキムさんに目配した。
 キムさんが沙紀の横に立って、カチャカチャとベルトを鳴らしながらズボンを脱ぎ落とす。そして、続けざまにパンツまで脱ぎ取った。
 露になった中年男の尻(ケツ)は、ボディビルダーのような引き締まったものだった。
 キムさんが屈む沙紀の横顔に、自身の股間を向ける。そして一物を握って、ニヤリと笑う。
 一物は勝野さんの物と変わらない大きさだ。ひょっとしてソコにも、真珠が埋め込まれているのか。


 頭の中に、いつかの我が家の寝室の様子が浮かんできた。
 あの日マンションに帰った俺は、沙紀とキムさんの情痴の場面に遭遇したのだった。と言っても、二人がリアルに交わっていた場面ではないし、ペッティングをしていた場面でもない。交わり終えた余韻の様子を、二人の会話で知ったのだ。
 だからーー。
 直ぐそこにある場面は、まさに生の情事が始まるところで、俺にとって初めての遭遇なのだ。


 ウンチングスタイルで洗面器に屈む沙紀。その沙紀の表情からは、牝の匂いが湧き立ってきそうだ。
 キムさんが牡の象徴の先っぽを、沙紀の鼻や唇に擦りつける。
 ソレを沙紀が、ペロリと舐めた。そしてングリと咥え込んだ。
 俺の視界は、今やエロビデオの一場面のように切り取られている。
 ガニ股開きで屈んで、男根をしゃぶる変態人妻。やがて女の鼻から、フンフン牝の声が聞こえて来るのもエロビデオそのものだ。


 「イジれや」
 関西弁のイントネーションで、キムさんが声を荒げた。
 二人の様子を凝視していた男達が、ゴクリと一斉に唾を飲み込む。
 沙紀の手が股間へと蠢き出し、そして己の痴豆を弄り出した。


 誰もが息を飲んで静まり返った中を、モゴモゴと沙紀の口元からは舐る音が、股間からはクチュクチュと泥濘を掻き回す音が聞こえて来る。
 時おり沙紀が嘔吐(えづ)いて目を見開く。それでも、構わずにキムさんのソレが喉奥を襲う。
 沙紀の表情が歪むのと比例するように、股間の指は激しくなっていく。
 やがて「プハッ」と、巨棒が吐き出された。紅い唇からは、涎が零れ落ちていく。


 「ンハハハっ」
 突然、張さんか周さんか、どちらかが嬉しそうな嗤いを立てた。
 「キムっさんっ、早くっぅ、その女にっいぃ」
 周さんがキムさんを囃し立てた。それを張さんが通訳すると、男共が喚き出した。
 「尿尿~尿尿」
 「尿尿~尿尿」
 男達の耳障りな声が響き渡る。
 連中は何を云ってるのだ!?


 キムさんが少し屈み、沙紀の顎に手をやった。沙紀がすっと顔を上げると、キムさんが口付けをした。
 それは初めて見る沙紀と他人の口づけだった。俺の胸に、キツい痛みが走り抜ける。
 唇が離れるとキムさんが沙紀の後ろに回って屈む。沙紀の肩口からキムさんが顔を出すアングルは、そこだけ見れば記念写真の一部のようだ。
 ウンチングスタイルの新婦と、それを後ろで支える新郎、完全なる変態カップル。
 キムさんが沙紀の耳元で囁いた。
 するとーー。
 沙紀の恥毛が揺れた。チョロチョロと雫が垂れた、かと思うと、勢いよく水流が迸(ほとばし)った。
 バシャバシャと洗面器がソレを受け止める。
 呆気に取られる俺。これは現実なのか…。
 放尿はやけに長く、まるで観覧者を少しでも楽しませようとしているようだった。
 最後に沙紀は、股間を…アソコを突き出した格好で踏ん張り、残りの一滴をピュッと捻り飛ばした…。


 会場の空調など、全く効いていなかった。俺の身体全体に嫌な汗が湧いている。
 変態新婦のお披露目の会。
 そう、俺の妻の筈の沙紀は、正真正銘の変態だったのだ。
 沙紀の目を見れば、その目は虚に彷徨っている。その視線が後ろで肢体を支えているキムさんに向く。
 そして、見つめ合った二人の唇が再び重なった。
 その時、パチパチと小さな拍手が起こった。そして大きくなっていった。
 俺は呆然としたまま、身体の力が抜けていくのを感じた。
 今のがケーキカットの代わりに行われた二人の儀式なのか。
 それにしたって、再び冬子と過ちを犯した俺へのペナルティが、これほど屈辱的なものとは。


 「まだっ、まだっ!」
 沈み行く俺の身体が、その声で跳ね上がった。周さんが又も声を張り上げたのだ。
 「キムっさん、次ッ次だょッ!」
 声を荒げて、周さんが俺を睨みつけた。周さんの日本語は変なイントネーションだが、その歪さは俺の胸を抉って来る。
 その激しい声にも落ち着いた素振りで、キムさんが背筋を伸ばすと、沙紀の手を取った。
 布団の真ん中辺りで畏まる二人。その横でホテルの従業員が、汚れた洗面器と新聞紙を回収していく。それを確認して、キムさんが沙紀を裸にする。
 息を飲む男達。そして俺。
 沙紀を一糸も纏わない姿にすると、続いてキムさんがシャツを脱ぎ始めた。
 新郎新婦が揃っての全裸姿が出来上がったのだ。
 俺は二つの身体を見詰める。これから二人は、男女の交わりまで披露するのか。そうだ、衆人の前で初夜としてショー行うつもりなのだ。
 沙紀の肢体を上から下へと見廻せば、それは間違いなく俺が抱いてきた身体だ。しかし、沙紀の表情は虚ろなままで白痴の様相だ。沙紀の瞳に俺は映っているのだろうか。


 キムさんが客達を見廻した。
 「では、今から私達夫婦の営みをお見せします!」
 日本語での宣言は、俺にだけ聞かせればよかったからだ。その証拠か、キムさんは俺に向かってウインクしたのだ。
 そう言えば、上海から送られて来たこの二人の営みの動画は音声だけだった。
 あぁ、遂に決定的な場面を見る事になってしまうのか…。