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第60話
目の前では、勝野さんが美味そうにビールを飲み続けている。
その姿を見詰める俺の胸のうちは、スッキリとはしていなかった。
箱根の温泉地、下品な中国人投資家達を接待する場所。そこに行けば、確かに後は成るようにしか成らないだろう。それに俺自身も、不安な気持ちと一緒に得体の知れない何かに期待する自分がいる気配を感じているのだ。それは決して、仕事に関する何かではない。まだ見ぬ沙紀の真実と、俺の奥底にある渇望の正体を知りたいのだ。
「ふふふ、砺波さんはやっぱりまだ若いよね、羨ましい」
「へ、どう言う意味ですか」
「いやいや、見ていて何となくそう思っただけだから。まあ、あまり気にしないで。それよりせっかく来られたんだし、ちょっと余興に付き合って下さいよ」
「え、余興ですか?」
「ええ、そうです。私達が言う余興とは、どんなものか分かるでしょ。ふふふ」
その瞬間、まさかと閃くものがあった。沙紀からも聞かされた事のある、勝野夫婦の交尾の姿だ。
「そうです、今頭に浮かんだでしょ。沙紀さんにも見せたんだから砺波さんにもね」
そこまで云い終えた時には、勝野さんは立ち上がっていた。
「俺はシャワーを浴びてくるけど、百合子は」
「私は済ませてますよ」百合子さんは云って、そして俺の方に例の怪しい視線を向けてきた。
俺はその眼差しに射すくめられながら、百合子さんの姿態を改めた。百合子さんは紺色のジーンズに上は白い上品なカットソーだ。間違いなくブランド物だろう。そして、シャワーを浴び終えてると言う事は、その中の下着もブランド物で見繕っているのか。
「直ぐに出て来ると思うから、待っててね」
百合子さんの落ち着いた声に、俺の思考は我に帰った。
「主人のシャワーは早いのよ、温泉はゆっくりなのにね」
百合子さんが一人呟いてから、もう一度その怪しい眼差しを俺に向けた。そして微笑む。その意味深な笑みで、俺の意識に何かを刷り込もうというのか。
やがて勝野さんが戻って来た。見るからに上品そうな薄手のガウンを着ている。
「やあ、お待たせ。百合子、あっちは冷えてるのか」
「ええ、大丈夫ですよ」
百合子さんが薄く笑って立ち上がる。
「さあ砺波さん、いらして下さい」
俺を呼ぶ百合子さんの声は、透き通ったものだった。が、頭の中には修善寺の温泉旅館で聞いた懇願の声が甦った。『お願い、女に恥を掻かせないで下さいね』
再びあの時の心情が蘇ってきて、俺はコクリと唾を飲み込んだ。そしてフラリと立ち上がった。
一度廊下に出て少し行くと、夫妻が足を止めた。おそらくここが、夫婦の寝室だ。いや、秘密のプレイルームか。
部屋入ってみると、そこは想像したよりは小ぶりに感じたが、それでも我が家の寝室よりは遥かに広い。
2カ所の窓には濃い色のカーテンが引かれ、外からの光が遮られていた。照明はメインのものではなく、細いスポットライトが照らすだけで、部屋全体が淫靡な空気に覆われてる感じだ。
一瞬、俺はブルルと身体を震わせた。
「寒い?」俺の気配を感じ取ったか、それでも百合子さんは楽しげに続ける。「直ぐに心も身体も熱くなるから心配ないわ。こんな所で夏風邪でもひかれたら申し訳ないしね」
そう云って百合子さんが、勝野さんの顔を覗いた。
見つめ合った二人が頷き合う。アイコンタクトで、何かを確認し合ったのか。
「今日はこっちの部屋でね」
勝野さんの呟きは意味が分からなかった。
だが「スマホで撮ってくれてもいいけど、綺麗に映るかな。前に沙紀さんに撮ってもらったのは向こうの部屋だったからね」勝野さんのその言葉で、沙紀の証言を思い出した。
この夫婦は沙紀に夫婦の営みを見せた時に、動画に記録する役目を沙紀に担わせているのだ。
「どうしたの砺波さん、さあそこに座って」
我に帰ると、百合子さんがベッドの前の一人掛けのソファーを指していた。俺は導かれるようにそこに腰を降ろした。
座ればちょうどいい具合に、ベッドの様子を見る事が出来る。こまるで監督席のようだ。
「さてと」勝野さんが百合子さんに声を掛ける。
百合子さんが頷いて、ジーンズのファスナーに手をやった。
それから二人が裸体を曝すのは、あっと言う間の出来事だった。百合子さんは上下真っ赤なランジェリー姿で、扇情的なポーズを決めるでもなく、それを自然な素振りで脱ぎ去ったのだ。
勝野さんは百合子さんの様子を満足げに眺め、それから自ら肌を曝した。
薄明かりのライトの下に浮かび上がって見える二つの裸体。中年夫婦であるのは間違いないが、あの温泉地で目にしたイメージ通りで、勝野さんは胸厚のある立派な体格だ。
そして百合子さん。臆する事なく俺に曝すその裸体は美しいの一言だった。一度は俺が抱いたからそう思う?いや、そんな理由は関係ない。ただただ圧倒される美しさがあるのだ。
「じゃあ」短く云って、勝野さんが俺の覚悟を測るように見詰めてくる。
「撮影はいいよね。カメラ越しに見るより生で網膜に、そして記憶に焼き付けた方が後々の妄想にも繋がるだろうからな」
勝野さんの静かな声は、妙に俺の心に納得の二文字を落とし込んだ。
「百合子、始めようか」
黙ったまま百合子さんが頷いた。
二人が口付けをした。
二つの唇は最初は静かに、やがてネチャネチャと粘着音を響かせた。
あぁッッ、甘い声が紅い唇から漏れ始めると、口付けしたまま勝野さんが百合子さんの背中に回った。
俺の目に、扇情的な曲線が曝される。
勝野さんの両腕が百合子さんの胸元を抱きしめ、そして尖り立った突起を捻り上げた。
甘い声を零して身体をくねらせる百合子さん。
俺の目が百合子さんの胸房から下腹へと進んだところで、アッと声が上がった。
百合子さんの胯間には毛が無く、そこに薔薇のTATTOOを見たのだった。