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第12話
見事にライトアップされた庭に面した食事処で、俺は百合子さんの足に、沙紀はご主人の勝野さんの股間辺りに、顔を向けたまま暫く固まっていた。
そんな時間が止まったような静寂を「あなた、そろそろ」と、百合子さんの声が動かした。
「ああ、そうだな、若い人はやる事がいっぱいあるだろうからな」
勝野さんの声に俺の顔が上がった。沙紀を見れば、どこかバツが悪そうにまだ俯いている。
「ふふっ、沙紀さんすいませんでしたね。野天風呂も私が妻を無理やり誘ったんですよ。百合子も満更じゃなかったけどね」
「あなた、まだその話を続ける気ですか」
「んっ、いくつになっても夫婦には刺激が必用って事だよ」
「あなたっ、だから」
「分ってるって」
そこでやっと、勝野さんの腰が上がり始めた。
合わせるように俺も腰を浮かせたが、酔いを感じる頭の奥では、野天で交わるこの夫婦の痴態が消えていなかった。
「そうだわ、砺波さん達はいつまでこの宿に?」
百合子さんの声に我に帰った。
「ああ、僕達は明日の昼前にはここを発ちます。次の宿、奥の湯船集落でもう一泊なんです」
「ああ、あそこね、あそこも良い所よ」
「そうですか。あの、勝野さん達はいつまでこちらに」
俺の問いには勝野さんが「私達は明後日に帰ります。実は明日、さっき云ったお得意様がこの宿に来るんでね」
「えっ、接待ですか」
「そうです、私の仕事仲間の一人が客を連れて来るんですよ」
「それは…ご苦労様です」
俺がそう云った時には、勝野さんは百合子さんに腕を引かれていた。俺と沙紀は、二人が部屋を出るのを暫く見送ったのだった。
食事処を出てからは、庭を散策する事にした。春先の夜だが、酒を飲んでるせいか肌寒さはそれほど感じない。
「流石にここまで暗くなると、景色は分からないな」
そう云って俺は、そこにあったベンチの一つに腰掛けた。
沙紀が隣に腰を降ろすと「ねぇ聖也くぅん、さっき百合子さんの首筋とかお尻とか見てたでしょ」呂律の怪しい口調で窺って来た。
「なに云ってるんだ、沙紀も旦那のアソコ見てただろ」
俺は冗談で云ったつもりだったが、沙紀の返事は意外なものだった。
「えっ分かってたのぉ、でもね、勝野さんが自分から浴衣を捲ったんだよ」
「なにっ、本当に見たの!」
「うん、野天風呂の話になった時、隣で何かゴソゴソしてるなと思って見たら、毛深いスネが見えてね、アタシが気づいたのが分かったのか、浴衣の裾をそのまま捲り上げたのよ」
「マジか…」
「うん、パンツ穿いてなかったみたい。それでね、見えちゃったの」
「向こうは見せる気だったのかな」
「たぶん」
「そ、そうか、それで…」
「うん、やっぱりゴツゴツしてたわ。それにね、ダランてしてたけど、大きかった…」
「ああ…」
頭の中にもう一度、あの夫婦が野天で交わる姿が甦ってきた。
その時。
「聖也くん、あそこ」
「ん?」
俺は沙紀の視線の先に目をやった。少し距離はあるが、宿の2階に灯りの点る部屋がある。俺達の隣の部屋だ。
「勝野さん達、隣の部屋だったんだな」
「うん、それで今ね、覗いてた。勝野さんか百合子さんか」
「ああ、でも、こっちは暗いから見えないよな」
「そうだね、でも」
「ひょっとして若い夫婦が、野外で露出セックスしてないかチェックしてたとか」
「いゃん!」
沙紀の甘ったるい声に笑ったが、直ぐに逆の妄想が働いた。勝野夫妻が部屋の灯りを点けたままで、窓際で立ったままセックスしていて、そのシルエットを俺達に見せ付けようとしていたのではないか…。