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第53話
沙紀との電話が切れてから、2時間近く経った頃。
いつもなら寝る体制に入ってる筈の俺は、動画サイトを開いたり閉じたりしていた。そんな俺に、新しい動画の投稿が来てしまった。
今の俺の心配は一点。沙紀はゲームに勝ったのか。まさか負けて、局部を曝して写真に撮られたのか。
俺はゴクッと息を飲んで、その動画をタップしたをした。
映像が現われる。
しかし、今度の動画は俺の覚悟を嘲笑う、と言うか拍子抜けしたものだった。
画面に拡がったのは、キムさんのアップの顔。又も自撮りの映像なのか。
『ええっと、ゲームはお開き…』いきなり喋り出したキムさんの顔がやけに朱い。
『沙紀ちゃんは、まぁ…へへへ』呂律も可笑しい。周りからは別の声、意味の分からない中国語が聞こえてくる。
『服をね、脱いだんだけど、アソコもね…ぐふふ』
キムさんの下品な笑い声。その声を掻き消すように、中国語が大きくなってきた。その陽気さにイライラが沸き上がってくる。
『まあ、明日…ん、明後日か…日本に帰るから砺波さん、沙紀と会ったら直接聞いて下さいよ、ゲームの様子とかね、それ以外の事も。ね、そう言う事で私もね、結構たいへんで…』
呂律の怪しいキムさんの語尾は、途中で切れてしまった。動画は又もあっさり終わってしまったわけだ。
スマホを手に持ったままの俺は、安堵の気持ちと何処となくか白けた気持ちを感じていた。
それから暫くして布団に潜り込んでみたが、沙紀の身に起こったであろう事を妄想してしまう。
先だっての後輩の妄想とはちょっと違うが、俺の頭の中にも沙紀の痴態があったのだ。沙紀の相手は脂ぎった中国人の不動産投資家達。間違いなくその連中が、沙紀が前の動画で言ってたゲームの相手だ。
やったのは王様ゲームか。それに負けた沙紀は、奴等の前でストリップをさせられたのではないだろうか。そして剃毛の跡を晒され、ソコを品評されたのだ。それは蒼い剃り跡と、その下で膨らんだクリトリスだ。そして、その局部を写真に撮られたのだ。
奴等の中には、不遠慮に沙紀のソコに指を挿れる奴だっていたのではないか。それが罰ゲームによるものであっても、沙紀は快楽に身を任せてしまったのではないだろうか。そしてその様子を見守るキムさん。保護者でありポディガード役だったキムさんにしたって、奴等の前ではその役目も失くしたに違いない。
嫌よ嫌よと首を振る沙紀。それこそ、もっとして下さいの懇願の表現なのだ。
沙紀の吐き出す日本語を理解出来る客などいなかった筈。だから沙紀の表情は良いように取られ、客の一人は沙紀に更なる羞恥を…。また別の客は、快楽の渦へと…。そして沙紀の反応に不満を示す客は、キムさんにも連帯責任を。そう、それから二人は夫婦の寝室を再現…卑猥な男女の契りを大衆の前で披露するのだ。
くそッ、俺のこの妄想は高い確率で当たっていたりして。
沙紀が上海から帰国したのは土曜日。
昨日の夜には、帰国を知らせるLINEがあったし、夕方には羽田に着いたと連絡も受けていた。
俺の方は、仕事の関係でマンションに着いたのは、夜の9時を少し過ぎた頃だった。沙紀は既に帰っている筈だ。
マンションのエントランスでインタフォンを鳴らす時は、指が震えてしまった。
暫く間があったが、返って来た「はい、今開けるね」の返事には、ホッとするのと同時に武者震いを感じていた。
エレベーターの中では、さて沙紀にはどう言う風に聞きだそうか…勿論、パーティーの接待の事や罰ゲームの事だと、頭の中で色んな事を巡らせていた。
はたして沙紀は、正直に話を…いや、それはキチンと話してくれる筈だ。当然、俺にも聞く権利がある。
玄関の鍵は掛かっていなかった。
あれ?っと思いながらドアを開けると、直ぐに気が付いた。見慣れない…そう、男の靴があるのだ。
その瞬間、いつかの様子がデジャブのように湧いてきた。
「ただいま、沙紀」声が微妙に震えている。
いつも通りに靴を脱いで、自分専用のスリッパに足を通す。
廊下を進めばガラス扉の向こう、リビングが明るくなっていた。
しかし、そのリビングは冷房は効いているが、人の気配を感じない。
俺は嫌な予感がして、寝室の前へと足を進めた。ちょうどその時だ。
寝室のドアが開いて男が出て来た。それはなんと、バスローブ姿のキムさんだった。
「おかえりなさい砺波さん」
落ち着いた声で告げるキムさんの顔は、いつものベリーショートの髪型だが、どことなく怠そうな感じだ。
「いやぁ疲れましたわ。羽田から真っ直ぐココに来て、いきなり2発ですから」キムさんがいきなり、訊いてもいない事を告げてきた。
その言葉に、俺の方が足が竦んでしまう。言うべき事がある筈なのに、口が開いてくれない。そんな俺を察したか、キムさんが続けてくる。
「ああ沙紀ですか。沙紀は砺波さんが帰って来たんで、慌ててシャワーに行きましたよ、ほら」
キムさんが視線を向けた方、確かにシャワーの音が鳴っている。
「二人はひょっとして…」
「ええ、そうですよ。私とオメコやった後の沙紀の方が、砺波さんも燃えるでしょ」
ううッ!
「久しぶりの夫婦の再会やし、ハッスルして下さいねぇ」と云って、キムさんがクククと笑う。
「あれ、どうしたんですか砺波さん、お疲れ?まあ、突っ立ってないで座って下さいよ、自分の家なんやから」
云いながらキムさんが冷蔵庫へ寄って行く。勝手知った家とは誰の家なのだ。
キムさんが缶ビールを1本だけ持って来て、テーブルに置いた。そしてソファーに腰掛ける。俺もそれを見て、ローテーブルを挟んだ対面のソファーに腰を降ろした。
「沙紀の奴、遅いなぁ。オメコだけ洗えばエエやろって云うたんですけどね。まあ、そんな事より飲んで下さい、私は車ですから」
俺はビールを勧められるまま手に取った。その時、ギギギと浴室のドアの開閉の音が聞こえて来た。
ビールを片手に、視線を向けた先からバスタオルを巻いた姿態が現われた。
「せ、聖也くぅん、お疲れ…」
俺は声の主、バスタオル姿の沙紀を見詰めた。その肩には水滴が着いたまま、急いで出てきたのだ。
沙紀の髪は、あの動画の時よりも少し伸びた気がする。シャワーで濡れたせいかもしれないが、髪が長く顔も面長になった感じがした。
「どうしたの、何か顔に付いてある?」
「あ、いやいや…うん、沙紀こそお疲れだったよな」
立ったままの沙紀が、俺の言葉に素直に頷いた、ように観えた。だが、俺はどこかよそよそしい空気を感じてしまっている。
「なんやなんや二人とも、そんな他人行儀に。沙紀も突っ立ってないで座ったらエエやん」
一人リラックスした様子で、キムさんが尻をソファーの端にずらして、空いた所を掌でパンパンと叩いた。
その空いた場所に沙紀が腰を降ろした。
何だこの二人の妙な間は。
身体の中を嫌な汗が流れ落ちていく気がするではないか。