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第48話


 俺の晩酌の筈だった時間は、キムさんの登場で重苦しい時間に変わっていた。沙紀は週末に、目の前のキムさんと上海に出張に行くと言うのだ。しかも仕事の内容はコンパニオンで、一部の客には愛人男とのセックスを披露するかもしれないと言うのだ。


 「砺波さん、そんなに怖い顔をしないで下さいよ。私以外の他の男とセックスするわけじゃないんですから」
 「い、いや、それはそうですけど…」
 俺の重い唸りに、キムさんが黙って俺を見詰める。それでも、目の前の男には事の成り行きが読めているのだろう。やがて、俺を見る目元がニコリと歪んだ。
 「まあ、私を信用して、任せて下さい」
 俺は返事に困って、噛み結ぶ唇に力を入れた。
 「そんな事より、今日はセックスして下さいよ」
 「え?」
 「ええ、昼間、沙紀ちゃんとオメコしたから、こんな夜は燃えるでしょ」
 改めて云われたその言葉で、身体の中が急激に熱を帯びて来た。沙紀を観れば、俯いて唇を結んでいる。
 「どうですか、俺と犯(や)るようになってから、沙紀ちゃんの感度も上がったんとちゃいますか」
 いつの間にか、キムさんの言葉遣いが関西弁になっている。その言葉が、俺の心をチクチク刺激する。
 「ふふっ、答えづらいですわな。まあ、その辺の話は沙紀ちゃんから直に訊いたらエエですよ。妻の一人語りっちゅうのは結構効くんでしょ。ねぇ」
 自分の事をマゾと思った事などないが、AVの動画などで妻が他人に抱かれて悦(よろこ)ぶ旦那連中がいる事は知っていた。
 そっと沙紀を覗けば、困ったような、それでいて愛人の前で畏まっているような雰囲気にも観えてしまう。
 目の前の二人の様子を交互に窺えば、この二人は今日の昼間もセックスをしていたのだと、改めて焦燥感が襲って来る。


 「どうしました砺波さん?」
 その声に、俯きかけた俺の顔が上がる。
 「その顔、一瞬私等がオメコしてるところ想像したでしょ?」
 キムさんの言葉に、いやんッと沙紀が声を零した。
 「ふふ、今夜は砺波さん、気合いれて頑張って下さいよ。まあ、沙紀ちゃんから昼間の私等の事を聞かされたら嫌でも勃(た)ってくると思いますけど」
 云い終えたキムさんの顔を、俺は恨めしそうに見詰める。そして口の中に渇きを覚えて、ビールをグイっと飲み干すのだ。
 それから暫くして「では、そろそろ失礼します」と、キムさんは来た時と同様に丁寧に挨拶をして席を立ち、その姿を沙紀は玄関先まで見送りに行った。


 椅子に座ったままの俺の耳には、玄関辺りで話す二人の声が微かに聞こえてきた。沙紀が何かしらの指示でも受けているのだろうか。
 その声を遠くに感じながらも、頭の中では別の事を考えていた。沙紀が初めて、百合子さんの自宅マンションに誘われた時の事だ。その時、勝野さん夫婦は沙紀の前でセックスを披露したのだ。ひょっとしてあの夫婦も、張さんとの付き合いの過程で、中国人顧客の前で接待の一環として夫婦の営みを見せた事があったのではないだろうか。そしてそれが、二人の性癖にヒットしたのではないだろうか、俺の頭はそんな事を考え始めていた。そうなるとーー。
 沙紀も上海に行ってキムさんとセックスショーをする羽目になったら…。でも、まさか。
 その時、玄関ドアの閉まる音が、俺の思考を遮った。


 沙紀が玄関先から戻って来て「聖也くん、ごめんね…」申し訳なさそうに告げる。俺はどう反応すればよいか分からない。ただ胸の内には、無性に目の前のこの女をムチャクチャにしたい想いが湧いていた。
 「おい、脱げよ。脱いでくれよ!」
 突然の声に、沙紀の表情がさっと強張った。直ぐにその表情には鈍よりした影が落ちていく。そして唇がワナワナと震えたかと思うと、歪な形に歪んだ。
 「シャ、シャワーを…」
 振り向こうとする沙紀を「待って」俺は止めた。
 「昼間、キムさんとセックスした後は、浴びたのか」
 詰問調の俺の声に、沙紀の首が横に揺れる。
 黙ったまま立ち竦む沙紀。俺は沙紀の身体から、生臭い匂いが沸き立つのが観える気がする。
 「ほら、早く!」俺は立ち上がりながら、もう一度キツイ口調で告げた。
 「わ、わかりました…」
 沙紀の唇がブルブル揺れて、白い腕も震えを起こしている。その手がシャツの袖を交互に掴んでユックリと捲り上げて行く。
 俺は唾を一飲みして、沙紀の動きを見詰める。
 脱いだシャツを椅子の背もたれに掛け、沙紀はジーンズのファスナーに指をやった。
 「あぁ、何だか恥ずかしい…」そう云いながら、ジジジとファスナーが降りて行く。ジーンズが椅子に掛けられると、沙紀がこちらに向き直った。
 「ブラとショーツは聖也くんが…」細い声で、沙紀が呟くように告げてきた。俺はもう一度唾を飲み込み、近づこうと腰を上げた。


 紫色のカップに包まれた膨らみが、また一段と大きくなった気がする。同じ色のショーツが覆う腰周りも、豊かになった気がする。
 「聖也くん、さっき云ったけど、昼間もシャワーを浴びてないのよ」
 「ああ、分かってる。あれだろ、キムさんの臭いが染みついているんだろ」
 「そうよ。暑くなってきたし、キツイ臭いかも」
 俺は沙紀の言葉を聞きながら跪いた。そしてショーツの端に手をやった。
 「は、恥ずかしいわ…」
 羞恥の声質をはっきり意識しながら、俺の手はソレを降ろしていく。
 デルタの部分が露わになった途端に、何ともいえない体臭が匂い立った。しかしソコは、これまでの様相と違っていた。
 「こ、これは」跪いた姿勢から、俺は沙紀を見上げる。
 「あのね、少し短くしたのよ」
 「ど、どうして」
 「それは…彼が短くしろって言うから」
 ううっと、喉の奥で声にならない音が鳴った。そしてシゲシゲとそこを凝視する。


 「彼…キムさんが舐めづらいから短くしろって。それに…」
 「それに?」
 「うん、たぶんだけど、拡げた時に中が良く見えるようにかも」
 屈んだままの俺は、今の言葉の意味を考えた。見えやすいとは、誰かに見せると言う事か?とすると、沙紀は出張先での可能性を覚悟していると言う事なのか。
 「それとね」沙紀の言葉が俺の思考を遮る。
 「な、なに?」
 「ううん、ブラも外して」
 「あ、ああ」俺は小さい声で頷き、腰を上げると沙紀の背中に手を廻した。沙紀は両手で、自分の身体を抱くようにして膨らみを隠している。
 背中のホックを外して俺は、沙紀の腕の中のブラを引き抜いた。そして、白い首筋に匂いを嗅ぐように鼻を近づけた。
 「あぁっ、どう、キムさんの匂い…する?」
 か弱い沙紀の声の前に、俺は確かな匂いを嗅ぎ取っていた。それは慣れ親しんだ沙紀の匂いに、汗臭い男の匂いが混ざったものだった。
 「今日はね、乳首をいっぱい責められたの」そう云って沙紀がウットリ目を閉じる。俺は沙紀の胸の突起に目をやる。
 「どう、黒くなった?」
 「い、いや…」
 俺は未だ朱い色の突起に、抉るように視線を向けた。
 「キムさんはね、30分以上もこの乳首を舐めたのよ。アタシね、乳首だけで逝ったの初めてだったわ」沙紀が身体を捩らせながら、俺の顔を乳房に抱き寄せた。そして甘い声で耳元で囁く。
 「ねぇ、聖也くん、それで彼ね、アタシのココを褒めたのよ」
 それは…アソコか、と思ったところで、沙紀が腕を解き、万歳のように両手を上げた。俺の目は、至近距離からそこを見詰める。
 「なっ!」
 「…どう?」
 俺の目が捉えたのは、沙紀の脇の下。そこに薄っらと毛があるのだ。
 「さ、沙紀、どうして」
 「キムさんがね、ココの毛…脇毛を伸ばしてみなさいって」
 「ううっ」
 「聖也くんは気づいてなかったけど、ちょっと前から手入れを止めてそのままにしてたの」
 沙紀の声に、俺の目はその箇所を引き寄せられていた。沙紀の白い肢体に見事な曲線。幼さはあったとしても、色気も付いてきた身体。しかし、脇の毛の生え具合が異様にエロチックに観えてしまう。いや、そのアンバランスさが卑猥な様相を現しているのだ。
 「どう、唆(そそ)る?」
 「あ、ああ」
 「ふふっ、じゃあ今夜はアタシ、商売女になるわね」
 ううっと、俺は呻き声で肯定の意思を現してしまった。
 「ふふ、今日の昼間もね、キムさんの前でアタシ、売春婦をやったのよ。彼をね、誘惑する売春婦だったの」
 「………」
 「じゃあお客様、あちらのお部屋に行きましょうか」
 そうして俺は、沙紀と言う名の人妻コールガールを相手に、いいように弄ばれたのだった。