第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 第8話 第9話 第10話 第11話 第12話 第13話 第14話 第15話 第16話 第17話 第18話 第19話 第20話 第21話 第22話 第23話 第24話 第25話 第26話 第27話 第28話 第29話 第30話 第31話 第32話 第33話 第34話 第35話 第36話 第37話 第38話 第39話 第40話 第41話 第42話 第43話 第44話 第45話 第46話 第47話 第48話 第49話 第50話 第51話 第52話 第53話 第54話 第55話 第56話 第57話 第58話 第59話 第60話 第61話 第62話 第63話 第64話 第65話 第66話 第67話 第68話 第69話 第70話 第71話 第72話 第73話 第74話 第75話 第76話 第77話 第78話 第79話
第50話
水曜日、休日ーー。
昨日、キムさんから指示されてダウンロードした動画サイトの映像を、朝一番でもう一度見直した。感想などの書き込みはしないが、複雑な心境で次の動画を待ってる俺がいる。
この日、俺は悶々とする気持ちを振り払おうと、午前中から昨日と同じ近所のジムに行った。終わった後は近くのファミレスで食事をする事にした。
その食事がちょうど終わって、スマホを手に取れば、無意識に例のアプリを開いていた。
パスワードを打ち込んでみれば、新たな動画の存在に気がついて直ぐに再生する事にした。
場面はどこかの店のようだった。ホテルの中の、それなりに格式のある店の感じがする。と思ったやさき、カメラは周囲を捉え始めた。天井は高く、かなり広い店のなのか。しかし直ぐに、そこが宴会場のような所だと気がついた。
丸テーブルが幾つかあって、会場の真ん中辺りには料理が用意されていた。その更に奥には、バーカウンターも見る事が出来る。
頭の中には、勝野さん達が企画したあの日のパーティーの事が浮かんでくる。
会場はまだ無人だ。と思った時、画面が動き出して、入り口の辺りで止まった。そのタイミングでちょうど扉が開くと、人の波が画面に拡がってきた。
見れば人波の中にチャイナドレスが交じっている。しかし女達が着ているドレスは、勝野さん達のパーティーの時の衣装とは少し違っている。スリットの角度が鋭く、今にも下着が顔を見せそうなのだ。おまけに色も派手目で、下品な感じがする。
その時、くぐもった声が聞こえて来た。『さて、沙紀は何処にいるでしょうか』それは、周りに注意を払うようなキムさんの声だった。
カメラは揺れながら、人の動きを追っている。画面に出て来る男達はブレザー姿が多いが、その殆どが脂ぎった感じがする。彼等の口から漏れ聞こえるのは勿論中国語だが、その雰囲気は既にアルコールを含んだ感じで、やけに明るい。中にはキムさんのカメラに気づいた男が、立ち止まって声を掛けて来る。その様子からは、皆なキムさんの顔見知りのようだ。
キムさんの口から出るのも中国語で、何となく相手を気遣っているのが分かる。やはりキムさんもパーティーの主催者の一人で、接客の心得が出来てる感じが窺えた。
俺の中では、早くも不穏な予感がしていた。このお客達は、パーティー以外にも何かしらの接待を期待しているのではないだろうか。それは勿論、コンパニオンの性接待か。そのお役目をするのが沙紀なのか。しかし、張(チョウ)さんは俺に、沙紀がキムさんと肌を合わす事を認めさせたが、俺以外の男とは…そう、それは認めた覚えはない。
いつしか俺は、鬱屈した気分になっていた。が、キムさんの中国語の語尾が途切れたかと思うと、動画が終わってしまった。
その後も今の動画を見直してみたが、画面の中に沙紀を見つける事は出来なかった。しかし恐らく、沙紀もきっとスリットの割れたチャイナドレスを纏ってあの人波の中を泳いでいたのだろうかと、想像が働いていた。
ファミレスから真っすぐ家に帰った俺は、着くなり再び動画サイトをチェックした。しかし新たな動画は上がっていなかった。
真夏の部屋の中、冷房を最大にしても悶々とする心の内は中々落ち着いてくれない。そんな頭で二つの動画の事を考える。最新のパーティーの動画は夜に撮られたものだろう。だとすると、それは昨日の夜の事ではないだろうか。沙紀はタンクトップからチャイナ姿に着替えて会場に行ったのか。会場内では、どんな接客をしたのだろうか。沙紀が中国語を話せないのを良い事に、お客達は卑猥な言葉を投げつけていたのではないだろうか。あるいは隅に追いやられ、男達に囲まれてスリットから手や指を入れられたりしてないか。それか、粗相(そそう)でも仕出かして責任を追及されてないか。その落とし前が、性的な何かであったりして…。
幾つもの妄想に襲われていた俺だったが、部屋が冷えて来るに連れて眠気に襲われていた。ジムの疲れが今頃やって来たのだった。
ソファーで眠り落ちている間に、色んな夢を見た。
それは、叔父からされた子供の話ーー。
沙紀がキムさんの子供を妊娠した。沙紀はゴムを着けずにキムさんを受け止めていた。沙紀はお腹の子の事を叔父を通して義母に伝えていた。しかし義母は、俺の方を責め立てた。そして沙紀に、俺と別れてキムさんと一緒になれと云う。
義母の話を受けた沙紀が俺の前に立っていたーー。
沙紀の表情…メイクが異様に毒々しい。そしてなんと、チャイナドレスを纏っている。鋭角に割れたスリットの間から、艶かしい太ももの様子を露出させていた。
何故か場面はパーティー会場ーー。
大勢の中国人の群れの中から親玉が現れた。一昔前のスリーピースを着ていたのは張(チョウ)さんだった。張さんの横にはチャイナドレスを纏った小柄な少女。その少女も又、目元に毒々しい色を滲ませていた。それは何と、あの冬子だった。その冬子が俺の首に両手を回して締め上げて来た…そんな夢に、俺は魘(うな)されていたのだ。
首周りに不快な汗が流れるのを感じて、俺は目を覚ました。潤いを求めて唾を飲み込み、のっそりと身体を起こす。時間を確認すれば、ウツラウツラしていたのは30分程度か。
今程の夢を思い出そうとすれば、真っ先に張さんと冬子の姿が浮かぶ。俺の運命を狂わせたあの日の冬子との過ち。いや、俺達夫婦が道を誤ったのは、旅行先の温泉宿で勝野夫婦と出会ったからだろうか。
その時、股間が異様に膨らんでいる事に気がついた。朝勃(た)ちじゃないかと、苦笑いが浮かんでしまう。
世の中には妻の痴態に興奮を覚える旦那連中がいるのは知っている。そんなエロビデオも視た事がある。俺はもう一度、自分に苦笑いを浮かべてシャワーを浴びる事にした。
夕方ーー。
俺の悶々とする気持ちは続いていた。
そんな俺は、何を思ったか部屋で筋トレを始めた。冷房全開のリビングで、いきなり腕立て伏せを始めたのだ。
変に自分の身体を虐めたくなったのか、それとも気を入れようと思ったのか、そんな事は自分でも分からない。しかし俺は、汗が床に落ちるのを見ながら、いつしか沙紀とキムさん二人の事を考えいていた。
沙紀達が上海に経つ前、このマンションでキムさんが俺に云った言葉が甦るーー。二人は接待の名の元に、男女の絡みを披露するかもしれない。いや、既に披露は行われたという事はないだろうか。
二人の痴態が浮かび上がって来るーー。
沙紀がキムさんと絡みながら卑猥な言葉を吐き出す。勿論、観覧するお客達に向かって『アタシは淫らな女です。ココがビショビショです。もっと激しく突いて下さい』何処かが欠損した沙紀の声。いや、これは以前に視たエロ動画のセリフか。俺は、そんな妄想を振り払うようにと身体を虐め抜いたのだった。
もう一度シャワーを浴びても、気持ちはスッキリしなかった。気づけば、無意識に例の動画サイトをチェックしている。その合間には、今年の夏休みの事を考えようと試みる俺がいる。例年の今頃なら沙紀と温泉の情報を出し合って、あれやこれやと盛り上がっている筈なのに…。
翌日ーー。
朝、起きた時も無意識に動画サイトをチェックしていた。しかし、キムさんのチャンネルに更新はなかった。
いつも通りに出社すると、後輩から飲みに誘われた。沙紀の出張の事を俺から聞いてた一人が、気を遣ってか声を掛けてくれたのだ。今夜はやる事もなかったので、とりあえず7時に会社を出ようと決めた。
夜、一旦車を家に置きに帰り、それから待ち合わせの店に向かった。後輩の奴は先に着いていた。因みにコイツは俺より3つ下で結婚は俺より1年早かった。しかしコイツの結婚生活は、2年ほど前に終わっているのだ。
「お前、彼女か新しい嫁さん候補はいないのかよ」俺はホロ酔い気分で、目の前の後輩社員に訊いた。
ここは安い大衆酒場で、周りはかなり盛り上がっているから、こちらの声など気にする必要はない。それでも、後輩は顔を近づけ囁くように告げて来た。
「先輩、それがさっぱり。俺ももうちょっとモテると思ってたんですけどね」
「お、と言う事は再婚の気はあるのかよ」
「いや『彼女』の方ですよ。再婚はどうですかね、今のところは、まだいいやって感じですかね」
「ふぅん、そうなんだ。それは結婚生活にあまり良い記憶がないって事なのかな。たしかお前が浮気…いやダブル不倫してたんだっけ?」
「いやいや、前に云ったじゃないですか、俺の風俗が嫁にバレて、嫁の方も浮気に走ったんですよ」
「ああ、そんな話だったな、思い出したわ。それで、お前の風俗通いは今も続いてるんか、おい」
「いやまぁ、離婚して暫くは反省して大人しくしてたんですけどね…」
「と言う事は今はアレか、結構行ってるんだな」
「ええ、まあボチボチと。ほら、男ってやっぱり溜まるじゃないですか。それに仕事のストレスもあるし」
「まあ、そうだわな。それで話戻るけど、前の奥さんの事とか思い出したりはしないのかよ」
「それはまぁ、離婚した当初はしょっちゅう思い出して泣いてましたよ。でも最近は全然」
「そうか、そういうもんなんだな」
「ええ、それでボチボチと風俗にって」
「そういう事か。それで因みにどんな」
「どんなって、アレですよ、デリヘルですよ」
「デルちゃんか。それは家に?」
「はい、そうです」
「しかし家とは、それはあまり気にならない?」
「そうですね、逆にですね」
そこで後輩の奴が、もう一段声を落としてきた。
「実は、電話で好みを伝える時に、前の嫁さんの容姿を云っちゃうんですよ」
「なんで!?」
「その店って、一応人妻系を売りにしてるんですけど、たまたま写真を見てたら嫁に似てるのがいたんで、ついつい呼んじゃったんですよ」
「お前、それってまさか」
「違う違う、元嫁じゃないですよ。来たら全然、嫁に似てませんでしたし」
「そっか、恐ろしい偶然があったのかと期待したけど、ハハハ」
「そうなんです。でもね」
「でも!?」
「俺、その子を元嫁に置き換えてプレイをしちゃったんですよ。うん、こっそりデルを呼んだら本物の嫁が来たってシチュエーションをお願いしたんです」
「ん、それって…アレか、嫁がこっそり風俗でバイトしてたのを、旦那が偶然に現場で知ってしまったと…そういう事か」
「まあ、そうですね」
「なるほど、そういう場面で逆に興奮する旦那連中がいるってのも、前に視たビデオにあった気がするわ」
「へへっ、まぁそう言う癖ですね」
後輩がそこまで云ったところで、酔った足取りでトイレに立って行った。
俺の頭はホロ酔い気分の筈だったが、何故かスゥッと落ち着いていく感覚がした。
そんな頭にあるのは、沙紀の事だった。沙紀は上海で、いや帰って来てからも風俗嬢のように…張さんの指示の元、不特定多数の男と…。
後輩がトイレから帰って来てからも、話題は何故か『嫁』の話になってしまった。
「俺も何回かデルを呼びましたけど、全員人妻ですよ」
「それは店が人妻を売りにしてるんだから、来た女は皆んなそう云うだろ」
「いや、そうなんですけど、女の子と話すと結構本音を云ってくれるんですよ」
「いや、だから、それも店で決められたトークだろよ」
「いやいや、俺って相手の身の上話を引き出すの上手いし、あれは本当の事ですよ」
「要は皆んな本物の人妻だと?」
「そうです。それでね、半分は旦那に内緒。もう半分は旦那公認みたいですよ」
「旦那公認…ホンマかいな」
「あれ?関西弁になりましたね、ふふ。でね、旦那に内緒の人は、借金が原因の人もいれば、性的に不満がある子が多いみたいなんですね」
「性的不満ってのは、旦那とのセックスに不満があったって事だな」
「そうですそうです。それで、もう半分は旦那に寝取られ性癖があって、それを奥さんが満足させてあげる為にやってるらしいんですよ」
「ふぅん、なるほどな…。でも、その奥さんは寝取られ旦那の為もあるけど、自分自身の欲求も満たしたいってのがあるんだろうな」
「それは、そうだと思いますよ。基本的に欲求不満じゃないと寝取られ役も出来ないでしょ」
「んん、そうだろうなぁ…。それでお前は、やって来る女の子を元嫁に置き換えて犯(や)るわけだろ」
「んっまぁそうなんですけど、ちょっと違うのは、元嫁にやれなかった事をやるって感じなんですよね」
「ん、それは夫婦だった時には出来なかった事をやるって事か…具体的には?」
「先輩、それは…あのぉ、絶対に人に云わないで下さいよ」
一瞬、口元を強く結んだ後輩だったが、酔ってた事もあったか、あるいは語る事で何かしらの興奮から逃げられなくなったのか、淡々と話してくれたのだった。