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第11話
勝野さんの職業が、俺と同じ不動産業と分かってからは、話題はいっそう仕事の話になっていった。
不動産業と一概に云っても、仕事の内容は多岐に分かれて色々ある。俺がいる会社は、個人のお客様相手の売買の仲介が主で、たまにデベロッパーに開発用地の斡旋などを行っている。勝野さんの方は、かなりのキャリアがあって、賃貸業から始まり売買仲介、デベロッパー、そして今は、投資家相手に都心のビルの売買をメインにやっているらしい。歳も聞いたところ、俺より一回り近く上の今年45だとか。確かに酔っているとはいえ、海千山千の男だけが持つ、強(したた)かさを感じてしまう。
そう考えてみると、美味そうに酒を飲み干し、時おり冗談を交える口調も、油断のない振る舞いに思えてくる。俺は幾分かの緊張を感じ始めていた。
「都心のビルを買うのは、今も圧倒的に中国人ですよ。砺波さんも噂は聞くでしょ」
「そうですね。僕達はそっち方面の仕事はしませんが、仕事仲間から噂はよく聞きますね」
「うん、彼等は現金で買うんだよね」
「中国の人と取引きする時、トラブルとかありませんか」
「そうだな、以前は嫌な思いもした事があったけど、最近はないかな。仲間の一人に気の利く人がいてね、その彼が上手くやってくれるから」
「買い手さんは、ある程度決まってるんですか」
「ええ、固い客が片手ほどいて、一度取引きしたら次を紹介してくれるんですよ。だから彼等の機嫌を取っとけば、上手く回ってくれますよ」
勝野さんの言葉に、俺は何となく様子が浮かんでいた。個人のお客様とは一見の取引きで終わってしまう事が多いが、それに比べて利回り用のビルを買う人は次を買ったり、それをまた売ったりと信用を失なわなければ仕事が続いていくものなのだ。
「あの、さっき聞きそびれましたけど、勝野さんはやっぱり社長さんなんですか」
「社長といっても小さな会社ですよ。私の他は外部スタッフが何人かと、後はコレですから」と、百合子さんを顎でしゃくった。
「うふふ、私、一応これでも宅建の資格を持ってるんですよ」と百合子さん。
「あ、宅建って取るの結構たいへんなんですよね」沙紀が朱い顔で突っ込んできた。
「そうね、大変って云われてるわね、私はなんとか1回で取れたけど」
「それは凄いですよ。僕は2回目で取りましたからね」
「ふふっ、砺波さんは34だっけ?若い人の方が取りやすいって云うけどね」
勝野さんの言葉に皆が笑った。
「えっと、沙紀さんは宅建、取る気はないの?将来はご主人が独立して一緒に働くとか」
百合子さんの言葉に、俺達は目を合わせた。独立はいつかは、と思うが沙紀と一緒にとは考えた事がない。それどころか、妻には主婦としてなるべく家に居てほしいタイプなのだ。田舎の人間の考えた方もしれないが、俺にはそういうところがあったのだ。
「砺波さんも、いつかは独立って考えはあるんでしょ?」
勝野さんの質問に「そうですね、この仕事をしてるとやっぱりありますよね」と頷いた。
「うんうん、アタシも社長夫人って呼ばれてみたいな」
沙紀の呂律の怪しい声に、またも皆が声を上げて笑った。
「ふふっ、沙紀さんは面白い人っぽいね」
勝野さんと百合子さんが目を合わせて笑っている。と「ところで」急に勝野さんが、変に畏まった。
「昼間の野天風呂での事なんだけどね」
その言葉に、笑いを浮かべていた俺の顔に緊張が戻った。
「よく来る宿なんでね、あの時はついハメを外してしまってね、申し訳ない」
「い、いえ」
「特に奥さん、沙紀さんには刺激が強かったよね」
そう云って勝野さんが、沙紀に向いてペコリと頭を下げた。その沙紀は何故か、俯むくように勝野さんの股間辺りに目をやっている、ように観える。
俺の方はどう返事をすれば良いのか、何を云えば良いのか、頭の中では直ぐそばにいるこの夫婦の痴態を浮かべていた。野天で交わる二人の姿だ。
目の置き場に困った俺は、一瞬うつ向いてしまった。その時、視線の先の光景に又も鼓動を跳ね上げてしまった。
百合子さんが浴衣の裾を、ゆっくりと捲り上げているところだったのだ。