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第38話


 俺が百合子さんに連れて行かれた部屋は、同じ階にあるツインの部屋だった。
 部屋に入るなり「ここは、彼女達の控室なのよね…」百合子さんは呟いて、同時に大きなタメ息を吐き出した。


 「それにしたって…なんて事を…」
 百合子さんは窓際の椅子に腰掛けると項垂れた。コンパニオン姿から華やかさは消えて、暗いオーラに包まれている。
 俺は壁に凭(もた)れるでもなく、重い鎧を纏ったようにただ立ち尽くしている。
 やがて、百合子さんの口から冬子の事が語られた。
 コンパニオンの格好でそれらしい仕事をしていた冬子だったが、実は招待客の彼女で、その客とは金田さん達にとって一番の得意先だったのだ。しかも冬子は、未成年のはずだと告げられた。
 今回のパーティーでコンパニオンが不足してる事を知ったその客が、冬子を試しに使ってみろと言ったのだとか。
 金田さんや勝野さん、それにコンパニオンのリーダーの百合子さん達3人は、パーティーの途中で冬子の姿が見えなくなった事を、客の男から聞かされて慌てていたらしい。


 話を聞く俺の中では既に、朦朧とした意識など消え失せ、事の重大さに身が震えるばかりだった。
 金田さんの取り扱う高額不動産に集まってくる人種を想像すれば、パーティー会場にいた何とも形容しがたい輩達の顔を思い出してしまう。あの男達の中のどれかが、冬子の男なのだ。その男は俺に、どんな落とし前をつけようとしてくるのか。
 それから暫く経つと、部屋のドアがノックされた。
 百合子さんがドアの鍵穴を覗くと「金田(キム)さん」小さな声が漏れるのが聞こえた。


 中に入って来た金田さんの顔は先ほどと同じようで、唇を噛みしめたままだった。
 百合子さんと交わす言葉は小さく聞こえづらかったが、百合子さんの眉間に皺が寄っていくのがよく分かった。
 金田さんはチラっと俺に鋭い視線を向けると、もう一度百合子さんの耳元で何かを告げて部屋を出て行く。
 百合子さんが振り向いた。
 「それにしても砺波さん、大変な事をしてくれました…」
 再び俺の頭が垂れ下がる。
 「主人が今、張さんの所にいるんだけど、金田(キム)さんも呼ばれてこれから行くそうです」百合子さんが大きなタメ息をつく。


 張(チョウ)さんというのが、冬子の愛人なのだろうか、俺の中に厳つい男の姿が浮かんでくる。
 その男に、俺自身も謝りに行った方がよいかと一瞬思ったが、それこそ火に油を注ぐと思ったし、黙って仕打ちを受けるしかないと考えた。
 それから、事の成り行きを不安な気持ちで待つ事になった俺。時おり百合子さんのスマホに何かしらの着信があったが、殆どが今日のコンパニオンとの連絡のようだった。
 金田さんが部屋を出て30分くらい経った時だったか、再び百合子さんのスマホが鳴った。電話のようだ。俺は息の詰まる想いで、百合子さんの様子を窺った。


 通話は直ぐに終わり、百合子さんはタメ息を吐きながら振り返った。
 「砺波さん…取り敢えず今日は帰って下さいますか。あちらは怒り狂ってるようで、アタシも来るように云われました。いつ解放されるか分かりませんし…」
 「す、すいません…」
 「今後の事は改まって…主人や金(キム)さんと相談して連絡すると思いますので…」


 百合子さんが云い終えたのを見て、俺は改めて謝罪の言葉を述べた。そして、重い気分のまま帰り支度をしたのだった。