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第20話


 温泉旅行から戻った俺達。
 マンションに着いて、荷物を片付けると直ぐに、義理母のところへ土産の温泉饅頭を持って行く事にした。温泉に行った時のお決まりのパターンだ。
 その饅頭を一緒に食べて帰るのがいつもの事で、会話の流れが『そろそろ、子供は』と、聞かれるのもいつもの事だった。
 避妊はしたりしなかったりで、一時は子作りに励んだ時期もあったが、その予兆はなかった。どちらかの身体に問題があるのでは、と考えた事もあったが、臆病な性格なのか踏み込んで考える事を避けてきた。それでも二人の時間を大切に出来ていたので、深く考えないようにしていた。


 旅行の後の初出社が、怠いのも又、毎回の事だった。
 その怠さに負けないように、ゴールデンウイークの書き入れ時に向けて、営業計画を立てたりと準備を始めていった。
 沙紀の方の仕事は、もともと簡単なパソコン作業が主で、これまで通りマイペースで進んでるようだった。


 これまで仕事が忙しい時も、沙紀とじゃれ合う時間はしっかりと作っていた。勿論、沙紀の方から色仕掛けをしてくる事もあった。
 例えば、帰宅した俺を裸エプロンで迎えたり、帰った途端、玄関でいきなり屈んで俺のファスナーを下ろして、汚れたペニスを気にせずしゃぶったりだとかだ。
 しかし、修善寺から帰ってからは、これまでの様な沙紀の姿を見る事がなくなった。とは言っても、夫婦の営みが全く無くなったわけではない。ただ、どことなく淡白な感じがするようになったのだ。だが、俺はその事をなるべく深くは考えないようにしていた。
 そしてゴールデンウイークの仕事もノルマを達成して、少しはゆっくり出来るようになった、そんなある日の事だった。


 「砺波さん、そう言えばこの間、マンションの査定で品川に行ったんですよ」
 社内で、後輩社員が何の気なしに話し掛けてきた。
 「でも早く着きすぎて、駅の構内でお茶して時間を調整してたんですよ。そうしたらそこでね、奥さんらしき人を見かけたんです」
 「ヘっ、本当?」
 「ええ、間違いないと思います。奥さん、薄い茶色のキャミワンピ、持ってないですか」
 「ああ、持ってるわ。アイツが着ると子供っぽく見えるんだけどな」
 「いえいえ、なかなか決まってましたよ」
 「本当かよ。でもそれって、いつの事?」
 「え~っと、休みの前の日だったから月曜ですね」
 後輩の言葉にふと考えた。沙紀の休みは不定期で、週に2回か3回、比較的自由に休める楽な職場環境なのだ。実際には俺に合わせて、火曜水曜に休む事が多い。そして、休む前日には必ず俺に告うのがいつもの事だった。後輩が口にした『月曜日』、沙紀は仕事に行ってるものだと思っていた。


 「それ、本当にうちの嫁?見間違いじゃないのか」
 「いや、間違いないと思いますよ。奥さんって、結構キツめの美人じゃないですか。店の中でも目を惹いてたと思いますし」
 この後輩は、家のマンションに何度か遊びに来ていて『砺波さんの奥さんって、ムッチャ美人じゃないですか』と、何度もお世辞を云ってたし、見間違えたとは思えない。


 「でもね、暫くすると凄いのが来たんですよ」
 「何だよ、その凄いってのは」
 「ええ、男です。しかも超格好いいのが」
 「なにっ、嘘だろ!」
 一瞬、社内にいる事を忘れて、目を剥いて声を上げしまった。
 「と、砺波さん、驚きすぎ…」ですよ、と後輩が唇をパクパクさせている。
 「お、お前それ、本当?」
 「い、いや、すいません、冗談でした」
 「なんだ、そりゃ」俺はふ~っと息を吐いた。
 「でも、そこに人が来たのは本当ですよ。はい、奥さんにも負けないくらいの凄い美人でした」


 後輩の説明によれば、その相手は沙紀よりは歳上の感じで、身長は沙紀と同じぐらい。体型もどことなく似ている黒髪の美人という事だった。それでも俺の頭の中には、思い当たる女性は浮んで来なかった。それよりもだ、沙紀が俺に黙って月曜日に仕事を休んだ事の方が気になっていた。と言うのも、沙紀は火曜日も仕事を休んで、俺と買物に行ってるのだ。しかも前日の月曜の夜に『明日、お休み』と、云ってるのだ。
 そしてこの日の夜ーー。