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第51話


 次の日の朝、俺は久しぶりの二日酔いに悩まされていた。
 とは言っても、仕事にはいつも通り家を出なければいけない。
 ハンドルを握れば、当然安全運転を心掛けるが、重い頭の中にあるのは沙紀の事だった。起きたてにチェックした例の動画サイトには、新たな投稿はなかったが。


 午前中、頭はスッキリしないが仕事は何とかこなせた。
 昼飯も今ひとつ食欲が湧かなかったが、一人で会社近くのファミレスに行く事にした。
 勿論、一人を狙って行ったのは動画サイトをチェックしたかったからだ。


 店はそれなりに混んでいたが、運良く二人掛けのテーブル席に座れた。両隣の席にはそれぞれ、OL風の二人組が座っているが、さほど気にならない距離だ。
 俺は椅子の背もたれに身体を預け、スマホを顔の前で、画面を隠すようにして動画サイトを開いてみた。
 目的のもの…そこには新たな動画が投稿されていた!


 もう一度隣のOL風の二人の様子を窺ってから、ワイヤレスのイヤホンを耳にさす。そして最新の動画をタップした。
 しかし、なぜか画面は暗いままだ。
 どう言う事だ。
 画面をよく見れば、再生の時間表示が進んでいる。
 暫くすると、暗い画面のまま何かしらの音が聞こえてきた。
 音量を少し上げてみる。
 何の音だ?
 更に音量を上げると、ハッキリと聴こえてきた。
 それはシャワーの音だった。
 沙紀が浴室にいるのか?
 そのシャワー音はやがて止まり、次にユニットバスの扉が開け締めされるギギギという音がした。
 耳元を集中すれば、続いて聞こえてきたのは衣擦れの音。そして沈黙。それから少しして、ベッドのマットレスが軋む音ではないか。
 その時、目の前に注文したランチが置かれた。『ご注文は以上でよろしいですか』
 声に黙ったまま頷き、ウエイトレスの背中を見送る。そして再度、隣の席の様子を窺った。
 スマホ画面に目を戻せば、そこは暗いまま。
 キムさん、あなたは俺に覗きを…盗撮者の気分を味わわせようとしているのか。
 そんな俺の頭の中に浮かぶ映像は、沙紀と男だ…。


 その時、肌と肌の摩擦音、甘い声が聞こえた。
 吐息が徐々に艶めかしいものに変わり、肌に密着する唇の音が被さって聞こえてきた。
 沙紀!
 裸の沙紀が抱きしめられながら、身をくねらせている。


 相手の声は殆ど聞こえない。
 しかし、男は唇を白い肌に這わせている。そして淫猥な音が奏でられていく。
 ハアっ!一瞬女の鳴きの声。沙紀で間違いない。股ぐらが割り裂かれたのか。
 股間に硬い肉が当たる音。そして、続けざまに打つかり合う肉の音。
 沙紀の声が大きくなってきた。俺の耳元が熱くなっていく。


 ウウッ沙紀!
 喘ぎの声が途切れた、と思ったら、ピチャピチャと鳴る粘着音。それは舌と舌が絡み合う音?
 その粘着音が高鳴り出したと思った瞬間、動画は真っ黒なまま終わってしまった。


 …粘着音、鼻息、打突音、そして粘着音。
 羞恥に歪んだ沙紀の表情が浮かぶ。先日の動画で見せた、タンクトップの笑顔からは程遠い感泣の声が上がっていた。
 改めてキムさんは略奪者だ。そう、俺の心までを強姦している。
 あぁ、沙紀…。
 気づけばテーブルの下で太モモと太モモを捩(もじ)らせている。
 夫以外の男との一線をすでに越えている沙紀。やがて沙紀は、幾人もの男に身体を開くようになってしまうのだろうか。


 ふぅっと俺は溜息を吐き出した。イヤホンを外して首を回す。そして目頭を揉む。
 キムさん、あの人はわざと俺に、暗いままの映像を視せようとしたのだ。それは俺の想像力を掻き立てるのが目的だったのか。
 それにしても沙紀。
 沙紀も間違いなく、撮られた映像が俺の目に触れる事は分かっていた筈だ。まさかキムさんと一緒になって、俺をサディスティックに操ろうとしたわけではないだろう。それよりも、沙紀はどちらかといえばマゾ気質ではないか。と言う事は、沙紀はキムさんの傀儡に落ちてしまったのか。


 テーブルに目をやれば、ランチは置かれたまま。食欲は既に無くなっている。それでも俺は、何とか腹に詰め込んで会社に戻る事にした。
 ああ、沙紀は今ごろ何をしているのか。