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第35話


 金田さんに招き入れられた会場の中で、俺は『冬子嬢』に料理を勧められいていた。
 そこに声を掛けて来たのは、見事なチャイナドレスを纏った百合子さんだった。
 百合子さんのチャイナ姿は他の娘(こ)と違って、オーラというか雰囲気がひと際際立って観えるのだ。髪型は二つのお団子があって如何にものチャイナ風だが、真っ赤なドレスは他の娘(こ)より格上を象徴してるように思える。身体の曲線も、これまでのイメージに増してセクシーに観えたのだ。


 「砺波さん、ご無沙汰しています」百合子さんが丁寧にお辞儀をした。その佇まいに俺の中に緊張が生まれる。
 「いや、どうも、実はですね…」
 「うふふ」百合子さんが口元を隠して笑う。その仕草も上品で場慣れした感じだ。
 「さっき金(キム)さんから聞きましたわ」
 「そうですか、どうもすいません」
 「いえ、そんな事は気にしないで下さい。それより沙紀さんとは会えたんですか」
 「いえ、まだなんですよ」
 百合子さんは俺の話を聞くや、顔を振って周りを見廻した。「あ、あそこにいますね。一番前の一番端のテーブルです」
 云われた通りに目をやれば、確かにそれらしい姿が見えた。この場所から一番離れた所で、黒っぽいような紫っぽいような蝶が舞って見える。


 「ふふふ、沙紀さん、初めてとは思えないほどシッカリこなしてくれてますよ。お客様の受けも宜しいですわ」
 「そうですか、それは良かった…」
 「どうします?こちらに呼びましょうか、それとも行ってみます?」
 「い、いや、いいですよ。もう暫くしたら失礼しますから」俺は自分に言い聞かせるように、ウンウンと頷いた。
 「いいんですか?じゃあ、こちらでユックリしていって下さいね。冬子ちゃんお願いね」
 百合子さんは云うなり、来た時と同じようにお辞儀をして、颯爽と去って行った。その後ろ姿、左右に揺れる臀部に、俺はゴクリと唾を飲み込んでしまった。


 「ふぅ~、なんだか緊張したなぁ」俺は息を吐きながら独りごちた。
 「はい、お客様、とても緊張していました」
 隣にいた冬子が、ニコニコ微笑んでいる。
 「ああ、分かっちゃった?」
 「はい。今の方、アタシ達のボスなんですよね」
 「ボス!?」
 「はい、厳しいし怒るととても怖いです。でも、本当は優しくて頼りになるボスなんです」
 冬子が嬉しそうに話す口調に、俺の方も何だか嬉しくなってしまった。もし、この冬子が、俺と百合子さんが関係を持った間柄である事を知ったらどう思うだろうか。それと、沙紀と百合子さんが、トレーニングと称して変態チックな行為をしてると知ったら…。そんな事を妄想した俺を見詰める冬子の目は、従順で無垢な佇まいだ。勝野さん達は、こんな娘(こ)を何処から探して来たのだろうか。


 「君は勝野さんや金田さんを知ってるの?」
 「はい、お二人ともよく知ってます。勝野さんは百合子さんのご主人ですよね」
 「そうだね。そういえば勝野さんは何処にいるのかな」
 俺の言葉に、冬子が背のびするようにして首を振り始めた。その素振りがマスコットにみえて、頬が緩んでしまう。


 「あ、あちらにいらっしゃいます」
 俺は冬子が向いてる方角に目をやった。
 「ああ、でもお話に夢中になってるみたいですね。どうされますか、行ってみますか」
 「いや、いいよ。どうせ…」そろそろ帰るから、と云おうとしたところに、別のコンパニオンが来て、冬子の肩を叩いた。
 「ちょっと失礼します」
 二人が二言三言喋ったかと思うと、冬子がこちらを向いた。
 「そうでした。スペシャルドリンクがあったんです。今お持ちしますね」冬子が云うなり、ペコリと頭を下げて離れて行った。その後ろ姿は、幼いながらも百合子さんに負けぬ劣らぬくらいのエロスを放射してみえたのだった。