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第32話
沙紀の口から出た『コンパニオン』という言葉に、俺は先日の勝野さんの訪問を思い出していた。
「沙紀、そのコンパニオンってあれかい、勝野さんの仕事関係のか…」俺は確かめるつもりで訊いた。
「うん、百合子さんはそう云ってた」
「そうか、それで沙紀は、どう返事をしたの?」
「うん、一瞬迷ったんだけど、ご主人も知ってる話で、たぶん行くのは了解してるはずよって云うもんだから」
俺の記憶では、パーティーの話は覚えているし、そこでコンパニオン不足の話も聞いて覚えている。しかし、沙紀を派遣する約束なんかはしていない。する筈がない。
「あのさぁ、パーティーの話はこの間、勝野さんがうちの会社に来て話すのを聞いたよ。でも、沙紀をコンパニオンに行かせますとか一言も云ってないぜ」
「あら、勝野さんが聖也くんの会社に来たの?」
「ああ、云わなかったけど、いきなり来たんだよ」
「ふ~ん、そうなんだ。アタシも百合子さんがどうして、聖也くんが了解したなんて知ってるのか不思議だったんだけどね」
「あの時は勝野さんからコンパニオンが人財不足で、沙紀さんはどうですかねって訊かれたんだけど、沙紀には無理ですって断ったはずなんだよ」
「えーッ、アタシ無理なの?ちょっとショックかも」
「いや、あのな、よく聞け。そのコンパニオンって中国語が出来なきゃダメなやつなんだよ」
「ん~、百合子さんも中国語の事は云ってたけど、他に通訳の人もいるから喋れなくても大丈夫って云ってたよ。それよりね、沙紀さんみたいにスタイルが良くて明るい人が必要って云ってたわ」
俺はこの展開をどうしたものかと考えた。沙紀の中では、既に決めてしまっているのではないか。
「でもさ、そのパーティーって何時か分かってるの」
「うん、来週の月曜日」
「大丈夫なのかよ」
「それがね、今日会社で確認したら、その日は休めそうなのよ。うん間違いなくお休み出来るわ」
笑みを浮かべる沙紀を見ながら、なんて楽な職場環境なのだと、今更ながら思ってしまった。しかし、そんな事を考えながらも、俺は結局、沙紀の希望を認めたのだった。
そして当日、月曜の朝ーー。
「じゃあ俺は行ってくるけど、あまり調子に乗らないようにな。それと、酒は飲みすぎるなよ」
「大丈夫よ、パーティーの最中はアタシ達は飲んじゃいけない決まりなの」
「ああ、そうか」軽くそう云って、俺は玄関を出ようとした。その背中に「聖也くんも仕事がんばってね」明るい声が掛けられた。
いつものように車で職場に向かいながら、頭の中ではパーティーの事が廻っていた。
今夜、沙紀が向かう先は、六本木にあるホテル和道園という、あの修善寺で泊まった宿とよく似た名前のホテルで、ネットで調べたところ、それなりの高級ホテルのようだった。
俺は昨夜、このホテルのパーティー会場をイメージしているうちに眠りに落ちていった。そして、それが切っ掛けになったか夢を見た。パーティーの途中で、沙紀がホテルの一室に連れ込まれ、男に犯されるのだ。
しかし沙紀は、相手の男に自分のアソコの締まり具合を尋ねるのだ。そして男の褒め言葉に歓びを現し、自ら男を求めていく、そんな夢だった。
目が覚めて夢を思い返す俺の頭の中には、ある計画が浮かんでいた。
実は今日の仕事に、運良く急ぎのものはない。昨日の日曜日に、大きな契約を締結し終えてある。俺は夕方から都内のお客を訪ねる事にして、直帰を申請するのだ。勿論、直帰は方便で、沙紀のいる『ホテル和道園』に行くつもりなのだ。
パーティー会場の中まで入れる可能性は薄いだろうが、近くまで行って雰囲気ぐらいは知っておきたいのだ。沙紀のコンパニオン姿だって見ておきたい。仮に見つかったとしても、笑って済む話だ。沙紀の方だって、その場でポーズの一つでも決めてくれるのではないか。
パーティーは5時に開場して、6時開演と聞いている。沙紀達は4時過ぎに集まり、衣装合わせをした後に、簡単なレクチャーを受けるのだとか。
俺はパーティーの様子を想像しながら、車を走らせたのだった。