小説本文



 裕子たちと別れ店を出たみゆきは、周囲に人がいないのを確認して携帯に手をやった。
 「あ 拓也くん・・・私・・・うん、ちょっと遅れちゃって・・・うん じゃあ30分後に」


 拓也のアパートに着いたみゆきは拓也の世話をした。そして2人はどちらからともなく求め合いこの日も愛し合った。
 みゆきの初めての舞台が過ぎてから拓也に抱かれるのも もう何回目だろうか、あの舞台の上で“夕霧(ゆうぎり)”として2人のヤクザ者に抱かれたみゆきを約束通り拓也は愛してくれている。
 それと同時にあの日のみゆきの痴態を今も喜んでくれている。


 拓也は 『もっと見たい もっともっと見たい。みゆきの淫乱な姿をもっと見たい』と、みゆきを抱きながら言った。
 みゆきも『もっと見せたい もっともっと見せて拓也を喜ばせたい』と思った。


 舞台に上がったその日から夫の誘いが激しくなっていた。
 不貞を軽蔑していた自分がいつしか若い男におぼれ、更に変態的な行為におぼれている現実、その懺悔が唯一夫との営みであった。
 しかし夫とのその行為も、以前と比べると物足りなくなりつつある。
 アブノーマルに馴染み、夫との行為に“フリ”で応(こた)えるようになった自分が怖かった。


 (家族にだけは絶対ばれてはいけない。拓也君との事もそしてあの舞台の事も)


 「みゆき、じゃあそろそろ起きてママの所へ行こうか、あの人 時間にうるさいし」
 「うん そうね」
 裸で抱きあっていた2人は同時に布団から起き上がった。


 茶色のウィッグに黒い大きな眼がね、その女性を一目でみゆきと判断できる者はいなかっただろう・・・おそらく夫であったとしても。


 「大変ね、わざわざそういう格好するのも。でも、それもあなた達を守る意味があるんだからね」
 事務所にママの優しい声が聞こえていた。


 神崎は女達のストーカー対策として細かい約束事を決めていた。
 女性は劇場の最寄り駅から必ずウィッグを着け、顔が半分以上隠れる帽子を被るかサングラスをしてビルに入る事。
 そしてショーが終わって家に帰る時も、来る時同様に“変装”する事を義務ずけていた。


 又、劇場内では仮面を着けている事が絶対で、素顔の公開は女性同士でも厳禁だった。
 自分は自分以外の女性の素顔を知らないし、自分の素顔も誰一人知らない、神崎はこの事を徹底していた。
 ただし在籍女性の紹介で舞台に上がる者には、この原則は成り立たなかった。
 夕月と夕華の関係がそうだった。


 「“夕霧”さん、今日来てもらったのは今度の舞台の事なんだけどね。次はもう少しアブノーマルに挑戦してみない?」


 「えっ、アブノーマルって・・・どんな事をするんですか」
 みゆきは質問をしてから、不安げな目でチラッと拓也の顔を覗いた。


 「うふふふ、アブノーマルといってもまだまだ大した事じゃないんだけどね・・・ア ナ ル、アナルセックスよ」


 「アッ アナルセックスですか・・・ちょっと・・・それは・・・まだ経験した事ありませんし・・・」


 「あら そうなの、拓也とはまだアナルでしてないの?」
 ママの言葉にみゆきの顔が火が出るかのように赤くなった。


 「うふふふ 冗談よみゆきさん、いや夕霧さん。あなたやっぱり純なのね。 ふふ でもね、今から私の話を聞けばあの舞台の上でアナルをしてみたくなるわよ」


 「? ? ?」


 ママは演出の仕方などを細かく説明した。
 みゆきはそれを聞きながら、時折拓也の顔を見ながら相槌をうっていた。


 「じゃあ これで大体わかったわね、夕霧さん いいかしら?」
 「はっ はい・・・わかりました」
 俯(うつむ)いているみゆきの横をママと拓也が視線を交換した。
 拓也がそっとみゆきの肩を抱きしめた。


 拓也とみゆきが事務所を後にしてから1時間後、やはり派手なウィッグに大きな帽子を被った女性2人がママを訪ねてきた。


 「こんにちは、夕月(ゆうづき)さんに夕華(ゆうか)さん」
 「こんにちはママ」
 2人の女性が同時に挨拶をした。


 「今度の舞台の事だけど。うふふ、なぜ2人一緒に来てもらったかわかる? 今度は2人でコラボしてもらいたいの」


 「? ? ?」


 次ぎの舞台に向けて準備は着々と進められていた。

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