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 ママの電話での明るいハスキーな声に、みゆきは思わず裕子の姿を思い出していた。
詳しい仕事の話は会って直接という事で、自宅より電車を乗り継ぎ、とある喫茶店で待ち合わせとなった。

 先に着いたみゆきは、ママを待ちながら考えていた。
そんな日給数万円なんて裕子の聞き間違いではないだろうか、また本当にそういう条件だったとしても、自分の年齢を聞いて向こうから断られるのではないだろうか。

 確かにプロポーションは子供を一人産んだとはいえ、42歳にしてはまだまだいける方なのではないか?
夫も誰と比較をしているのやら “熟女の色気が出てきた、まだまだそのくびれに女を感じる、服を脱いだら普通の奥さんには見えないよ”など 回数が減ってきた夫婦の営みの最中に言う事があった。

 (それにしてもやっぱりモデルっていうのは・・)
そんな想像をしている時、店のドアが開き、派手な洋服を着た茶髪の女性が現れた。

 みゆきの前に座り型どおりの挨拶を済ませたそのママは、じっとみゆきを眺めた後 ニコッと笑うと。
「みゆきさん、緊張してるはね。ふふ まだ早いはよ緊張するのは」
明るくそう言うと周りに客がいないのにあえて声をおとし、身を乗り出しながら話し始めた。

 ママが話したモデルの中身はこうだ。
モデルの仕事にもいくつかの種類があり、指輪やストッキングなどを売る為に指、足を撮られる言わゆる“手タレ”と呼ばれるもの。
そして普段着やドレス、コスプレの格好を撮影者の趣味で撮られるもの。
そして覚悟していた通りの下着やヌードのモデルだった。

 次に金額の話だ。
指や足の撮影はスーパーのパートよりも安かった。
それ以外は普段着よりコスプレ、コスプレより下着、そして当然下着よりヌードの方が高額だった。
確かにヌードモデルなら、1日のうち数時間拘束されるが数万円の金額になるようだ。

 ここまで一息に話していたママが、悪戯(いたずら)っぽい目を向けながら聞いてきた。
「みゆきさん、少しは興味わいてきた?」

 「えっ ええ・・あの、私みたいなおばさんでも大丈夫なんですか。それにどんな感じで撮影するのですか?」
みゆきは不安げな目で尋ねた。

 「ふふ、それは“手タレ”以上の撮影の場合よね?」
ママはいたずらっぽい目をいっそう妖しく輝かせながら続けた。
みゆきは一瞬顔が赤くなるのを感じながら、次ぎの言葉を待った。

 「ふふ ごめんなさいね 細かい事言わないで。年の事は全然気にしないで平気よ。 うちでモデルをやってもらってる人はみんな35歳から50歳くらいまでなのよ。逆に若い子がやりたいって言ってきてもお断りしてるの」
 「えっ、それはなぜですか?」
 「・・ふふ、単純にうちのお客さんはみんな熟女好みって言う事なのよ・・それと撮影はねお客さんとモデルさんと1対1で専用のスタジオで行うの。カメラも本格的な一眼レフを持ってくる人がいれば、デジカメを持ってくる人もいるし。それに1対1といってもちゃんと隣の部屋でスタッフが待機してるから、お客さんとトラブルになる事はないわ」
 「そうですか・・それともう一つ聞いて良いですか。 万が一知ってる人と会ったりするって事・・」
 「ふふふ 大丈夫よ。 うちのモデルさんはね、みんな素人の奥様なの。だから今あなたが言おうとした事はみんな心配なの。だから顔の半分くらいを隠せるアイマスクを着けてもらうのよ。ただしね、ふふ、マスクを着けないで素顔で撮影してもらった方が手取りは多くなるんだけど」
 
 ママは再びいたずらっぽく笑うと話を続けた。
「素顔でヌードモデルをしてる人も何人もいるのよ。 それに素顔になる時は事前にこっそり男性の顔を確認してもらってるの。ほら、流石に顔見知りはまずいでしょ、だから大丈夫よ」
 みゆきは少し俯いて黙り込んだ。
 
 「ふふふ みゆきさん、うちのモデルさんで半年続けてもうこれだけ貯めた人がいるのよ」
ママは指を数本立てながらそう言った。

 「それにみゆきさん・・あなただったら結構売れっ子になるわ。 うん、私の目には狂いはないから」
ママはみゆきの瞳を見つめると、再びニコッと微笑んだ。