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第37話
しばらく黙り込んでいた中村が、田中に話しかけた。
「田中さん、話は変わるのですが・・・実はみゆきの事なんですが・・・」
「どうぞ」
「みゆきはあの舞台の上で司会の男から“若い不倫相手がいる”・・・と説明され、その不倫相手という男にアナルを捧げたんです。・・・私は今まで妻とは1度もアナルセックスをした事はありませんでしたから、初めてのアナルをあの若者に許したというのは本当の事だと思うのです・・・が、その“若い男と不倫関係にある”というのは本当の事だと思いますか?・・・“演出” という事はありませんか?」
「ふふふ、前回の舞台の事ですよね。なるほど、身体の浮気は黙認できても心の浮気は黙認できない・・という訳ですかね」
「・・・はい・・・」
「あの劇場の舞台は当然演出や脚色もあるでしょうが、事実もあると思いますよ。ただ、結論から言うと奥様が舞台に上がった若い男と本気で浮気していたとしても、その心配は最終的には杞憂(きゆう)に終わると思いますよ」
「えっ、それはどういう意味ですか?」
「先ほど私は神崎を事前に調べたと言いましたが、それ以外にもあそこのスタッフ数名についても調べたんですよ・・・ママと呼ばれる神崎の情婦だったり、今言われた若い男の事も・・あと 田沢もいますね・・」
「田中さん、その若い男の事を教えてください」
「あの若い男はたしか・・・山口拓也、年齢は20代前半。高校卒業後上京して写真の専門学校に通うも1年で中退、その後仕事を転々、数年前にカメラ好きが高じて探偵事務所に就職。しばらく勤めるがトラブルを起こして退社。その後、神崎の元で仕事を始めています」
仕事柄なのか田中は記憶をたどりながらも、淡々と山口の経歴を話して聞かせた。
「探偵事務所?・・・トラブル・・・?」
「はい。山口は一時期ですが今の私と同じ業界にいました。それでトラブルを起こして辞めているのですが、それが“別れさせ屋”の仕事だったらしいですよ」
「別れさせ屋? なんですか それは」
「はい。我々の仕事の一つに配偶者の浮気調査に関するものがあるのですが、最近では夫婦を別れさす為に配偶者に近づき、関係を持ち、罠にかける仕事もあるのです。・・・私の所は請け負いませんがね」
「ちょっ ちょっと待ってください・・・」
中村はしばらく難しい顔で考え込んだ後、再び口を開いた。
「・・・こう言う事ですか、山口は“自分の妻”と別れたいと思っている夫の依頼でその妻に近づくわけですよね・・・そこで関係をもち、その既成事実を夫に告げる・・・そして夫は妻に慰謝料を請求したり、有利に離婚に持ち込んだりするわけですか?」
「そうですね、そういうケースもあります。ただ依頼主は夫だけとは限りません。愛人の場合もあれば、ただ単純にその夫婦やカップルに恨みを持っている者もいます。」
「なるほど」
「それと依頼者は事務所を通して工作を依頼するわけで、直接工作員と会う事は殆どありませんけどね」
「工作員?」
「はい。我々の業界では、今言ったように罠を仕掛ける人間の事を工作員と呼びます」
「罠を仕掛けるか・・・なるほど。・・・しかし、その“妻”である女性がそんなに上手く引っ掛かりますかね」
「確かにそこがポイントです。しかし仕事として成り立っていたわけですから、実際には堕とされた女性の方が何人もいたという事です。そして、この工作に携(たずさ)わる男はそれに長(た)けた腕を持った人間という事です」
「・・・田中さんは、みゆきがその山口に堕とされた・・・と、おっしゃるわけですか」
「さあ、それは何とも言えませんが・・・何かの切っ掛けで知り合い、一時的にでもあの若者に夢中になっている可能性はありますよね。しかしですね中村さん、先ほども言いましたが、もし、そうだとしても2人の関係が本気かどうか?・・という心配は杞憂に終わると思います」
「・・・どういう事ですか?」
「ふふふ いいですか、いずれにしろ奥様はこれからもあの舞台に上がり続けると思います。そしてショーはどんどんエスカレートしていくと思うんです・・・そうなると今度はもう、あの若い山口では満足できなくなるという事ですよ・・・若い山口よりも、もっと過激で、刺激的で、淫らな世界を求めて自分の快楽の為だけに、あの舞台に上がるようになる・・という事ですよ」
中村の頭の中に、初めて神崎と会った時聞いた言葉が思い浮かんだ。
『・・・それともう一つ、あの舞台に立ち続ける理由があるんですけどね・・・』
「まさか・・・かっ 神崎は・・・そこまで計算ずくなのでしょうか?」
「計算?ええ おそらく。 それと神崎は奥様の才能を見抜いていたのかもしれませんね」
(才能・・・・・・)
「そのうち適当なところで奥様の方から山口の元を離れるように仕向けてくるかもしれませんね。そして、その時は奥様はどっぷりあの劇場のあの舞台に漬かり込んでいると思いますよ」
「・・・・・・」
「ふふふ、中村さん。どちらにしても、もう成る様に成るしかないですよ・・・見続けたいんですよね、みゆき奥様がどんどん淫乱に変わっていく様子を。・・・私も真由美が変わっていく様子を見続けたいように」
田中の瞳がどんどん大きくなり、その中に窓の外と同じ暗闇が広がり、中村は自分がその中に吸い込まれていく錯覚を覚えていた。
「田中さん、話は変わるのですが・・・実はみゆきの事なんですが・・・」
「どうぞ」
「みゆきはあの舞台の上で司会の男から“若い不倫相手がいる”・・・と説明され、その不倫相手という男にアナルを捧げたんです。・・・私は今まで妻とは1度もアナルセックスをした事はありませんでしたから、初めてのアナルをあの若者に許したというのは本当の事だと思うのです・・・が、その“若い男と不倫関係にある”というのは本当の事だと思いますか?・・・“演出” という事はありませんか?」
「ふふふ、前回の舞台の事ですよね。なるほど、身体の浮気は黙認できても心の浮気は黙認できない・・という訳ですかね」
「・・・はい・・・」
「あの劇場の舞台は当然演出や脚色もあるでしょうが、事実もあると思いますよ。ただ、結論から言うと奥様が舞台に上がった若い男と本気で浮気していたとしても、その心配は最終的には杞憂(きゆう)に終わると思いますよ」
「えっ、それはどういう意味ですか?」
「先ほど私は神崎を事前に調べたと言いましたが、それ以外にもあそこのスタッフ数名についても調べたんですよ・・・ママと呼ばれる神崎の情婦だったり、今言われた若い男の事も・・あと 田沢もいますね・・」
「田中さん、その若い男の事を教えてください」
「あの若い男はたしか・・・山口拓也、年齢は20代前半。高校卒業後上京して写真の専門学校に通うも1年で中退、その後仕事を転々、数年前にカメラ好きが高じて探偵事務所に就職。しばらく勤めるがトラブルを起こして退社。その後、神崎の元で仕事を始めています」
仕事柄なのか田中は記憶をたどりながらも、淡々と山口の経歴を話して聞かせた。
「探偵事務所?・・・トラブル・・・?」
「はい。山口は一時期ですが今の私と同じ業界にいました。それでトラブルを起こして辞めているのですが、それが“別れさせ屋”の仕事だったらしいですよ」
「別れさせ屋? なんですか それは」
「はい。我々の仕事の一つに配偶者の浮気調査に関するものがあるのですが、最近では夫婦を別れさす為に配偶者に近づき、関係を持ち、罠にかける仕事もあるのです。・・・私の所は請け負いませんがね」
「ちょっ ちょっと待ってください・・・」
中村はしばらく難しい顔で考え込んだ後、再び口を開いた。
「・・・こう言う事ですか、山口は“自分の妻”と別れたいと思っている夫の依頼でその妻に近づくわけですよね・・・そこで関係をもち、その既成事実を夫に告げる・・・そして夫は妻に慰謝料を請求したり、有利に離婚に持ち込んだりするわけですか?」
「そうですね、そういうケースもあります。ただ依頼主は夫だけとは限りません。愛人の場合もあれば、ただ単純にその夫婦やカップルに恨みを持っている者もいます。」
「なるほど」
「それと依頼者は事務所を通して工作を依頼するわけで、直接工作員と会う事は殆どありませんけどね」
「工作員?」
「はい。我々の業界では、今言ったように罠を仕掛ける人間の事を工作員と呼びます」
「罠を仕掛けるか・・・なるほど。・・・しかし、その“妻”である女性がそんなに上手く引っ掛かりますかね」
「確かにそこがポイントです。しかし仕事として成り立っていたわけですから、実際には堕とされた女性の方が何人もいたという事です。そして、この工作に携(たずさ)わる男はそれに長(た)けた腕を持った人間という事です」
「・・・田中さんは、みゆきがその山口に堕とされた・・・と、おっしゃるわけですか」
「さあ、それは何とも言えませんが・・・何かの切っ掛けで知り合い、一時的にでもあの若者に夢中になっている可能性はありますよね。しかしですね中村さん、先ほども言いましたが、もし、そうだとしても2人の関係が本気かどうか?・・という心配は杞憂に終わると思います」
「・・・どういう事ですか?」
「ふふふ いいですか、いずれにしろ奥様はこれからもあの舞台に上がり続けると思います。そしてショーはどんどんエスカレートしていくと思うんです・・・そうなると今度はもう、あの若い山口では満足できなくなるという事ですよ・・・若い山口よりも、もっと過激で、刺激的で、淫らな世界を求めて自分の快楽の為だけに、あの舞台に上がるようになる・・という事ですよ」
中村の頭の中に、初めて神崎と会った時聞いた言葉が思い浮かんだ。
『・・・それともう一つ、あの舞台に立ち続ける理由があるんですけどね・・・』
「まさか・・・かっ 神崎は・・・そこまで計算ずくなのでしょうか?」
「計算?ええ おそらく。 それと神崎は奥様の才能を見抜いていたのかもしれませんね」
(才能・・・・・・)
「そのうち適当なところで奥様の方から山口の元を離れるように仕向けてくるかもしれませんね。そして、その時は奥様はどっぷりあの劇場のあの舞台に漬かり込んでいると思いますよ」
「・・・・・・」
「ふふふ、中村さん。どちらにしても、もう成る様に成るしかないですよ・・・見続けたいんですよね、みゆき奥様がどんどん淫乱に変わっていく様子を。・・・私も真由美が変わっていく様子を見続けたいように」
田中の瞳がどんどん大きくなり、その中に窓の外と同じ暗闇が広がり、中村は自分がその中に吸い込まれていく錯覚を覚えていた。