小説本文



 3日間の男優養成の仕事を終え、借金の残りの額は後わずかになっていた。
生活費をがんばって切り詰めていけば、あと少しで返せるところまで来ている。
もう、ママの所で裸の仕事をする必要性はなくなってきていた。

しかし、みゆきの心は不安定だった。
そんな妻の様子を、夫のたけしは心配でたまらなかった。
拓也とのデートの約束の日が近づいてきた。

(もう断ってもいいのよ。いや、それじゃ又会いたくなるに決まってるわ。でも 会ったら身体を求められるわ。 いや、今度は絶対拒めるはずよ。これからは夫と大樹の為に生きていくんだから。 私にそんな事が出来るの? 出来るわよ。最後に会って“さよなら”をちゃんと言うのよ)
みゆきの心の葛藤は続いていった。

約束の日、たけしと大樹を送り出し、家事を一通り終えると、みゆきはシャワーを浴びた。
無意識のうちにいつも以上に身体を念入りに洗ってる自分に気づいたが、女性の身だしなみと自分に言い聞かせていた。
バスタオルを巻いた姿で洋服ダンスを開ける。
右手にはベージュの地味なショーツ、左手には先日買ったばかりの紫のバタフライのTバックショーツが握られていた。

しばらくして姿見の前で、みゆきはバタフライを身に着け立っていた。
(大丈夫よ、この姿を拓也君に見せる事はないわ)
自分にそう言い聞かせる姿に、鏡の中の女は妖しい眼差しを向けていた。

待ちあわせの場所に拓也は先に着いていた。
1週間ぶりの再会なのに、随分会ってなかった様な気がした。
拓也の雰囲気も少し変わったような感じがした。
着ている服のせいなのか、それとも薄っすら伸びた髭のせいか、あの優しそうな目が少し大人っぽく野性的に見えた。

食事中の会話にその優しさと野性味が交互に現れ、みゆきの気持ちは益々引き付けられていった。
そして、食事を終えた2人は映画館へと向った。
この日の映画はアメリカのラブロマンスで、決してみゆきの嫌いなジャンルではなかった。
映画がエンディングに近づいた時、拓也が黙ったままみゆきの手を握ってきた。
映画館を出ると再び拓也がみゆきの手を握り、そして2人は肩を寄せ合いながら歩き出した。

「こうやって歩いてたら、とっても仲のいいお母さんと息子に見えたりして」
話題に困ったみゆきは、手を握られたまま拓也に話しかけた。

「・・・そんなわけないよ。どっからどうも見ても正真正銘の“恋人同士”さ」
拓也は真顔で答えた。

みゆきの中の黒いDNAが心の奥に小さい火をつけ、それはゆっくり大きな炎となっていった。
2人は繁華街を抜けると1軒のラブホテルへと吸い込まれた。

部屋に入ると背中を向けているみゆきを、拓也が優しく抱きしめた。
耳の後ろから首筋に息を吹きつけながら、拓也がささやいた。
「・・・シャンプーの匂いがするよ。俺のためにシャワーを浴びてきてくれたんだね」

「・・・・・・」

黙って振り向き見詰め合った2人は、ゆっくり唇と唇を重ねた。
みゆきにとって、もうその部分は貞操を守る場所ではなかった。

ソファーに座った拓也の前には、下着姿のみゆきが立っている。
部屋の奥の鏡には、脂(あぶら)の乗った熟女の後ろ姿が映っている。

「みゆきは俺のために、そんな厭らしい下着を着けて来てくれたんだね。・・・さあ後ろ姿も見せて」

みゆきは親子ほど年の離れた年下の男に呼び捨てにされると、催眠術にかかったようにくるりと背を向けた。
拓也はみゆきのくびれた腰と、中年独特の大きな臀(しり)を見つめていた。
その尻には紫色のTバックショーツが食い込んでいる。

「さあ、みゆき、お尻を突き出してごらん。・・・そう、そしてゆっくりお尻を回しながらパンティーを下ろしてごらん・・・そう、もっとゆっくり・・・」

全裸になったみゆきは拓也の言いなりだった。
拓也に命令されるまま卑猥なポーズをとり続けた。
女性器をこれ以上開けないというほど拡げた。
肛門を惜しげもなく見せた。
浴槽のふちにM字でしゃがんで見せた。
便座の上に座り拡げた。
玄関で四つんばいになって見せた。
テーブルの上で立小便をするように拡げた。

みゆきにとって拓也の命令が心地よかった。
みゆきの中で一気にMが開花していった。
拓也の目がカメラであり、瞬きするたびにみゆきの頭の中に“カシャ カシャ カシャ”とシャッターの音が鳴り響いた。

散々じらされたみゆきは、やっと抱かれた。
既に身体全体が性感帯に変わり、みゆきは何度も何度も逝った。
逝くたびに自分の口から拓也を求める言葉を吐き、その言葉に拓也は何度も応えた。
そしてありったけの精は、みゆきの中へ吐き出された。

みゆきはピルを常用していた。