小説本文



 たけしは最近、妻のみゆきの微妙な変化を感じていた。
先日1ヶ月ぶり位に妻を抱いた時の事だ。
上手く言えないが、みゆきの感度が上がっている様な気がした。
軽く肌に触れた時の反応、薄目でこちらを見る瞳の淫靡さ、そしてあそこの濡れ具合。
子育てが始まってから眠っていた“女”が、一瞬のうちに卑猥さを身につけて目を覚ました感じだ。

 (浮気?・・まさかな、みゆきに限って。女が浮気をすると携帯を離さなくなる。服の趣味が派手になる。そんな事がネットに載ってあったな。そう言えばこの間はオシャレな洋服を着ていたっけ。今度、こっそり下着チェックでもして見るかな)
たけしは妻の不貞などありえないと思う気持ちの中で、軽くそんな事を考えていた。

  「中村課長、何をそんなにニヤニヤしてるんですか。ひょっとして今夜の接待の事を考えてるんじゃないですか」
たけしは部下に声をかけられ、思わずドキッとした。

  「おっ ぼおっとしてたよ。 そうか、そう言えば今日は接待か。・・久しぶりだな、接待されるのは」
たけしは部下の問いに自嘲気味に応えた。

  今年45歳になった中村たけしは中堅商社の営業課長。
仕事柄接待をする事が多く。客の好みに応じてゴルフであったり酒であったり、そして女であったり。
そんな中、今日は久しぶりに得意先から接待される側だった。

 大口の取引をまとめる為に、企業はとんでもない接待を用意してくる。
今日は一般人には決して覗く事の出来ない“秘密クラブ”に招待してくれると言うのであった。

 中村は得意先の担当者2人と、昼間から酒を飲んでいた。
「中村課長、酒は程ほどにしておいて下さいね。 このあとの例のクラブでへべれけになってたら面白いものを見過ごしちゃいますから ね」

 「でも あそこのショーを見たら酔いなんか一変に飛んじゃいますよね」
横から若い方の担当が声をはさんできた。

 「そんなに凄いショーなの?」

 中村の問いに、山田と言う同い年位の担当が説明してくれた。
「課長も女は嫌いじゃないですよね。でもそこは若い子はいないんですよ。若くても30半ば位、殆どが40から45歳位なんですよ。しかも全員が素人の奥様らしいですよ」

 「素人の奥様?・・本当に・・」

 「ええ、何度かうちの社も接待で利用してるんですけど、そこで運営を仕切ってる神崎って言う人と知り合いになって色んな事を教えてもらったんです。間違いなく素人の奥様ですよ」

 「ふ~ん・・・それでショーは具体的にどんな感じなの」

 「その日によって内容は違うんですけど、SMっぽいのが多いですね。 他には乱交とか・・・女性一人に刺青を入れた男二人とか。あとは観客を上げて舞台でセックスしたりとか」

 (・・・SM・・・刺青)
 中村は酒を飲まなければ聞けない話だと思った。

  「それと舞台の女だけじゃなくて観客もみんな素顔がわからないように妖しい仮面を着けて見るんです。なんだかその仮面を着けてると、自分もそのショーの登場人物になった気になるんですよ、あれって不思議ですよね」

  「・・・・・・」

 「あと面白いのは観客席に旦那がいて、自分の奥さんをステージに上げて男とやってるところを見たりする人もいるらしいですよ。しかも相手が黒人だったりヤクザ者だったり。いろんな性癖の人がいるんですよね・・世の中には」

 「僕なんかはまだ若い方だからそう言うのは理解できませんけどね。 でも年配になってくるとそうなるんですかね・・どうですか課長のところなんかは?」

 若い担当から話をふられ、中村は一瞬ドキッとした。
「えっ う~ん・・うちはまあ、その、ノーマルだから・・うちの嫁さんは何て言うんだろう、そう良妻賢母、悪く言えば堅物だな」

 「でも課長、案外そういう女性に限ってなんて事ありませんか。・・な~んてね、冗談ですよ」

 中村は苦笑いしながらも、思わず最近の妻の事を思い出していた。
新婚の頃に比べて年相応に回数が減ってきたが、今でもごく普通のノーマルなセックスに妻は満足しているものだと思っている。
しかし、もし、妻が見知らぬ男と痴態を演じたら・・。

 「さあ、それじゃそろそろ行きましょう」

 中村はその声に我に返り、会計に向った山田の背中を追うように席を立ち上がった。