小説本文



 たけしは仮面の奥からその人形の瞳を覗いていた・・・それは囚(とら)われの身の助けを請(こ)う瞳か、羞恥に晒(さら)される我が身を更に追い込んで欲しいと訴える瞳か、あるいは男を飲み込んでしまおうとする娼婦の瞳か。
 瞳の下には真っ赤な唇が、その下には大きな乳房とつんと尖(とが)った2つの乳首が、更にその下には微かに膨(ふく)らんだ下腹と黒く生い茂った陰毛が・・・それは人形なのかそれとも生身の身体なのか・・・。
 何処からともなく“声”が聞こえてきた。


 たけしは振り返った。
 そしてまた振り返った・・頭の周りを回り続ける女の怪しげな呻(うめ)き声に惑わされるようにクルクル目が回り始め、そしてペタンとその場に尻餅をついた。


 “声”は幾重にも重なり合い・・呻き、喘ぎ、泣き そして歓喜となり、たけしに覆いかぶさってきた。
 たけしは いきなり右手を掴(つか)まれた・・・そこには怪しい仮面の女が赤い唇から舌を出していた。
 たけしは更に気配を感じた・・・足元に豹がらの仮面を着けた女が四足で迫っていた。


 たけしは後ずさった。
 しかし、いつの間にか足には鎖がまかれ、その先に大きな鉄球が繋がれていた。
 鎧の間から抜け出た仮面を被った全裸の女達が、ゆっくり近づいてきた。


 (わっ わっ わっ・・・う う う・・)
 「うわーーーー」
 たけしはベットから飛び起きた。


 シーンと静まり返った深夜の寝室に、たけしの荒い息遣いだけが響いていた。
 (・・・ゆ 夢か・・)


 寝汗でびっしょりとなったパジャマの1番上のボタンを外しながら、隣で寝ているはずのみゆきに目を向けた。
 (!・・・いない・・)


 心臓の鼓動が再び大きくなり、喉がカラカラに渇いてきた。
 たけしはゆっくりベットから身を降ろした。
 静かに寝室を出ると、音をたてないように1階へと階段を下りて行った。


 (・・何処に行ったんだ・・・)
 1階の居間のドアの隅間から淡い光が漏れていた。
 そのドアの前に近づいた時、女の呻き声が耳に聞こえてきた。


 わずかに開いたドアの隙間に目をやると、そこには何かに跨(またが)り腰を振っている女の後ろ姿があった。
 たけしは再び喉の渇きを覚え、“ゴクリ”と唾を飲み込んだ。
 (・・みゆき なのか・・・)


 たけしは震える指でドアの隙間をもう少し開けてみた。
 目に映しだされたものは、みゆきの全裸姿だった。


 みゆきは太いディルドを床に付け、“ウンチングスタイル”でそれに跨っていた。
 スクワットをするように上下に腰を振りながら、両方の手は大きな2つの乳房を揉み解し、指先は黒い突起をいじっていた。
 アナルが丸見えになるように尻を突き出し、腰の辺りにいつか書かれた“穴奴隷”の文字は、既にに見ることは出来なかった。
 みゆきの身体の正面に見えるスイッチの消えたテレビ画面には、揺れる乳房が映っている。


 たけしは素顔の妻の卑猥な姿に、股間の物が飛び出しそうに硬く大きくなっていた。
 みゆきの悩ましい声と眉間にシワを寄せた浅ましい顔、そして膨らんだ鼻の穴、宙(ちゅう)をさ迷う何かを咥え込もうと動き回る舌、そんな姿を覗きながらたけしはいつの間にか下半身を丸出しにしていた。


 たけしはヘソまで反り返った分身を握り締め、一気にそれを扱き出した。
 素顔のままのみゆきの痴態を凝視しながら扱き続け、あっという間にその快感を味わった。


 次の日、中村は田中より相談の電話を受けていた。
 真由美と裕子がみゆきを心配している事と、それと今後の事・・・2つの話しの為、その夜、田中夫妻、山本夫妻、そして中村の5人で会う事になった。


 中村が約束の店に向かっている途中だった。
 通りを急ぐ中村の携帯が震え始めた。
 (あれ? この番号・・)


 『中村課長、ご無沙汰しています』
 聞こえてきたのは中村の取引先の担当の山田だった。
 中村を接待として初めてあの“欲望の劇場”に連れて行ったのが、この山田という同年代の男だった。


 「こんにちは山田さん。どうも、すっかりご無沙汰してます」
 『こちらこそ、ご無沙汰です。あの劇場に一緒に行って以来ですよね・・課長のところは中々敷居が高いですけど、今後もお仕事の方もよろしくお願いします』
 久しぶりに聞く山田の声に、中村は“欲望の劇場”を教えてくれたのがこの電話の男だったという事を思い出し、思わず苦笑いしそうになっていた。


 「ところで、急にどうされました?」
 『ええ 実はですね・・・もう課長もご存知かと思いますが、あの劇場の神崎って男、覚えてますよね』
 山田の声が急に畏(かしこ)まり、向こうでも辺りを気にしている様子が伝わってきた。


 「・・ええ わかってます。神崎が逮捕された事ですよね」
 『そうなんですよ。それで僕の方でも色々聞いてみたんですが、あの神崎って男、かなり悪どい事をやってたみたいですね・・・おそらくしばらくの間、刑務所から出て来れないって話ですよ』


 「そうみたいですね。私の知り合いに元刑事の人がいて、その人からも情報をもらってまして・・」
 『そうだったんですか・・・でも、僕としたらあの劇場に行けなくなるのも少し寂しい気がするんでけどね。実は課長とご一緒して以来、1度も行けてないんですよ・・』
 中村は山田が自分に電話をしてきた真意が、接待と称して又あそこに行きたかったというスケベ心だと気づき、思わず笑い出しそうになった。


 「山田さん、他にも面白い所がきっとありますよ・・そのうちゆっくり・・・今からちょっと人と会うので・・」
 中村はそう言って早々と電話を切ると、それを握り唇を噛み締めた。
 (ふー 山田さんは幸せだな・・こっちは大変なのに・・)


 中村の目に約束の店が見えてきた。