小説本文



 中村たち3人は、5階建ての雑居ビルのエレベーターの前に立っていた。
建物の袖看板には、消えかかった文字でNTビルと微(かす)かすに読む事が出来た。
エレベータの横の入居テナントを示すプレートの3階~5階の部分には、NT企画の文字がこちらははっきり読む事が出来る。

それを見ていた中村に、隣に立つ山田が声をかけた。
「5階がショーの会場なんですよ。3階と4階は事務所とスタジオって言ってましたね」

それから数分後には、中村たちは舞台を囲む観客席に座っていた。
そこは元々ライブハウスのような所を改造した空間で、舞台の1番前には円形のベットが埋め込まれている。

観客は中村たちを入れて30人位だろうか、お約束通りみんな目と口の部分が開いた妖しい仮面を着けている。
劇場内の壁や床はむき出しのコンクリート、薄暗い照明とジメッとして汚れた空間が淫靡(いんび)さを演出しているようだった。

舞台の奥の壁には大きな鏡がはめ込まれており、観客席にいる者たちの顔が映っている。
中2階には映写室の様な所があり、その小窓の両サイドには、やはり縦1m、横2m程の鏡がはめ込まれている。

しばらくしてブザーが鳴り、薄暗い照明が一段と暗くなった。
そこに小窓から一本の光がステージ正面に落ちて行き、その中に黒い男が姿を現した。
黒いタキシードに観客と同じ妖しい仮面を着けた男は、客席を一通り見渡しニコッと微笑むと喋り始めた。

「皆様、本日は“欲望の劇場”にお越しいただき誠にありがとうございます。今日もまたこの舞台の上でごく普通の奥様がその心に掛けられた仮面をはずす時が来ました。皆様はその仮面の裏にある女の本性を、その性(さが)を見る事になるのです。さあ、今日登場するのは何処の誰の奥様なのでしょうか。ひょっとして・・あなたの奥様ですか?・・それではまもなく開演です。最後までごゆるりとお楽しみくださいませ」
男はそう言ってニヤッと笑うと2,3歩後ろに下がり、すっと闇の中に消えていった。

舞台では既にいくつかのショーが進んでいた。
女性はみんな妖しい仮面をつけ、そして“夕(ゆう)”のつく名前で紹介されていた。






中村たちの前では、仮面の女が全裸でダンスを披露している。
テレビなどで見る若い女の洗練された踊りに比べると確かにぎこちない踊りだ。
しかし、中年特有の大きな尻、微(かす)かにわかる妊娠線、それに大きくなった乳輪を恥かしげも無く見せつける様は、若い女性よりも卑猥な感じを漂わせている。
ここに登場しているのは、本当の素人奥様なのだろうか。

休憩を挟むと司会の男の声が、次のショーの紹介を始めた。
「続きましては当劇場の売れっ子 “夕月(ゆうづき)”さんの登場です。普段は清楚でご自分のお子様の学校のPTAの役員をこなす夕月さんです。そんな夕月さんが今日は、男二人を相手に白黒ショーを見せてくれます」

舞台にスポットがあたり、夕月と呼ばれた女性が両隣に全裸の屈強な男二人を従えて現れた。
夕月は蝶を模(かた)どった、やはり目と口の部分が開いた赤い仮面を着け、黒いラバーの衣装は胸の周りが丸く切り取られ、見事な乳房が露出されている。
エナメルの靴にこれまた黒いTバック、SMの女王様といったところか。

「中村課長、この夕月って女は凄いですよ。 前も後ろも使えるんですよ。見ていてください」
それまで黙っていた山田が小声で囁いた。

夕月は足元に二人の男を座らせ、ムチで甚振(いたぶ)っていた。 
男達は言葉を殆ど発せず、その表情と仕草でうまくMを演じているようだ。
素人女王の夕月をプロの男達が上手く舞台をリードしている。

一人の男を仰向けに寝かせ、その顔の上に夕月が跨って立った。
足をM字にゆっくり下ろして行き、女性器を男の口のすぐ上まで持ってきた。
「ほら、私のオマンコだよ。 お前、私のオシッコが飲みたいんだろ。今からたっぷり注いでやるから一滴も漏らさず飲むんだよ」

中村は生唾を飲み込んだ。
夕月のその部分に引き込まれるように目が離せなかった。

「ほら、聖水だよ」
夕月から放出されたその液体は男の口の中へと流れていった。
全て流し終わると夕月はその部分を後始末させるように男の口に押し付け、腰をしばらく回し続けるとすっと立ち上がり、観客にニヤッと笑いかけた。

その時、後ろで正座していたもう一人の男がいきなり立ち上がると、夕月の顎をグッと掴んだ。
「こらあ このアマ、調子のるんやないぞ、こらあ!」
男に頭を叩かれよろめいた夕月に、聖水を飲まされた男が舌なめずりしながら立ち上がり迫ってきた。
 男は夕月の肩を握り、こちらを向かせるとバシッと平手を食らわせた。

「ギャっ 痛い!・・・そんな・・違うじゃない・・」
夕月の目に怯えの色が広がり始めた。