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第36話
田中は新しいドリンクを一口飲むと、中村の目をみて再び話し出した。
「しかし、スワップは失敗でしたね」
「失敗?」
「ええ 2組の夫婦と会いましたが、2組ともネットで見つけたんです・・・しかしネットはダメですね、最初のイメージと実際にあった感じが全然違って・・・結局、私は2回とも勃(た)たなかったんですよ」
「そんな事があるんですね、奥様とは何回もできたのに」
「不思議なもんですよね・・男にとって勃つ勃たないは、脳が決めますからね・・・」
「脳?・・・そうですね」
「それで妻と話して、実際に知っている夫婦を誘おうと言う事になったのです。その頃の妻は、私好みに近づいてきてましてね、かなり性に貪欲になっていました」
「それで知り合いの夫婦に声をかけたのですか?」
「はい、実際に声をかけたのは妻ですがね・・・中村さんご夫婦も候補に上がったんですよ」
「ええっ!ほ 本当ですか?・・・」
「はい。ただ、私は中村さんもみゆきさんもよく知らなかったので、結局妻がみゆきさんのところは乗ってこないだろうという事で見送らせてもらいました」
「・・・それで どちらのご夫婦に」
「・・・名前は言えませんが、やはり妻と仲の良かったある奥様に声をかけました。しかし、その奥様はそういう事にそれなりに興味は持っていたのですが、夫婦の仲がそんなに良くなかったんですね」
「・・・誰だろう・・・」
「そのうち分かるかも知れませんが・・まあ、身近な方ですよ。当然、みゆきさんも知ってる女性ですけどね」
「・・・・・・」
「それで、そのご夫婦は仮面夫婦みたいな感じだったんですね、子供だけの為に夫婦を続けているような感じで。ご主人は家庭を顧(かえり)みない、奥様は子供の学校行事には熱心だが、その反面遊びも好き。一時、街金から結構な借金もあったらしいですよ」
「・・・仮面夫婦か」
「そういった事でスワップの話は断られたのですが、その奥様が面白い所を紹介してあげるってあの劇場に連れて行ってくれたんです」
「ひょっとしてその奥様というのは・・・“夕月(ゆうづき)”?・・・ですか」
「ええ、そうです」
「じゃあ、夕華も夕月もみゆきの事を知っていたのですね」
「はい、知っています」
「そうですか・・みゆきは私に隠れて一時借金をしていたようなんです・・子供名義の貯金が無くなったり、戻ったり・・ある時期の通帳の変動が不自然なところがあったんです」
「なるほど、詳しくはわかりませんがその辺りの借金が原因かも知れませんね。・・それで話は戻りますが、私達は結局あの劇場に魅了されてしまったんです」
「・・・・・・」
「今でも覚えていますよ・・妻が・・真由美があの舞台の上で初めて見知らぬ醜い男にマンコを突き抜かれた姿を見た時に、私の脳みそに走った衝撃を・・・」
田中の瞳がより一層大きく広がり、その時の喜びを懐かしむように顔いっぱいの笑みが溢れ出した。
「中村さん、その後は私達はあの“欲望の劇場”へ入り浸りです。そして、いつかのレイプを思い出しながら真由美があの舞台に立った日には、必ず帰り道のどこかで犯す(や)るんですよ」
田中の口元が大きく引き裂かれ、まるで人を食い尽くすような獣に見えた瞬間だった。
「・・・田中さん、でもあの劇場を運営している神崎氏はあっちの世界の人間ですよね。仕事柄その事には抵抗は無かったのですか?」
「まあ、その時私は前の“会社”は退職してましたがね・・・夕月にあの劇場の話を聞かされた時は、本当にそんな世界がこの世にあるのかと疑いました」
「そうですよね」
「それで実際に神崎に合わせると言われた時は、私も事前に神崎の事を調べました・・・」
田中はそう言うと一旦言葉を止め、胸ポケットから名刺入れを出すとその中の1枚を中村に手渡した。
“あさひ中央リサーチ 代表 田中一郎”
「中村さん、それが私の今の仕事です」
「これは?」
「調査会社・・・興信所みたいなものです。浮気調査から昔の好(よしみ)で警察の下請け調査みたいな事をする事もあります・・・」
「なるほど・・それで神崎の事を調べたのですね」
「ええ、そうです。彼は・・・わかりやすく言うと“企業舎弟”・・まあ、最近はどっから何処までがヤクザかよくわかりませんけどね。どちらにしても想像していた通りでしたから驚きませんでしたし・・・神崎と話して妻も私も納得してあの劇場に行ってますからね」
「・・・・・・」
「ただ 中村さん、神崎と初めて会って驚いた事がありましたよ。私が彼らを調べたように、彼らも私達夫婦の事を見事なくらい調べていましたよ・・・私の前の“会社”での役職や退社時期、現在の仕事の内容、そして今の家族構成まで・・・・・・怖いですね・・・」
「・・・田中さん、彼らに深い入りすると危険ですか?」
「ふふふ、中村さん。私も中村さんも、もう既に充分深い入りしてますよ・・・でも、奥様は彼らにとったら商品だし、我々はお客様ですからね・・・もう腹を据えて割り切ったほうが良いと思いますよ・・・」
中村の頭の中に神崎の瞳の奥にある怪しい光が思い出された。
「しかし、スワップは失敗でしたね」
「失敗?」
「ええ 2組の夫婦と会いましたが、2組ともネットで見つけたんです・・・しかしネットはダメですね、最初のイメージと実際にあった感じが全然違って・・・結局、私は2回とも勃(た)たなかったんですよ」
「そんな事があるんですね、奥様とは何回もできたのに」
「不思議なもんですよね・・男にとって勃つ勃たないは、脳が決めますからね・・・」
「脳?・・・そうですね」
「それで妻と話して、実際に知っている夫婦を誘おうと言う事になったのです。その頃の妻は、私好みに近づいてきてましてね、かなり性に貪欲になっていました」
「それで知り合いの夫婦に声をかけたのですか?」
「はい、実際に声をかけたのは妻ですがね・・・中村さんご夫婦も候補に上がったんですよ」
「ええっ!ほ 本当ですか?・・・」
「はい。ただ、私は中村さんもみゆきさんもよく知らなかったので、結局妻がみゆきさんのところは乗ってこないだろうという事で見送らせてもらいました」
「・・・それで どちらのご夫婦に」
「・・・名前は言えませんが、やはり妻と仲の良かったある奥様に声をかけました。しかし、その奥様はそういう事にそれなりに興味は持っていたのですが、夫婦の仲がそんなに良くなかったんですね」
「・・・誰だろう・・・」
「そのうち分かるかも知れませんが・・まあ、身近な方ですよ。当然、みゆきさんも知ってる女性ですけどね」
「・・・・・・」
「それで、そのご夫婦は仮面夫婦みたいな感じだったんですね、子供だけの為に夫婦を続けているような感じで。ご主人は家庭を顧(かえり)みない、奥様は子供の学校行事には熱心だが、その反面遊びも好き。一時、街金から結構な借金もあったらしいですよ」
「・・・仮面夫婦か」
「そういった事でスワップの話は断られたのですが、その奥様が面白い所を紹介してあげるってあの劇場に連れて行ってくれたんです」
「ひょっとしてその奥様というのは・・・“夕月(ゆうづき)”?・・・ですか」
「ええ、そうです」
「じゃあ、夕華も夕月もみゆきの事を知っていたのですね」
「はい、知っています」
「そうですか・・みゆきは私に隠れて一時借金をしていたようなんです・・子供名義の貯金が無くなったり、戻ったり・・ある時期の通帳の変動が不自然なところがあったんです」
「なるほど、詳しくはわかりませんがその辺りの借金が原因かも知れませんね。・・それで話は戻りますが、私達は結局あの劇場に魅了されてしまったんです」
「・・・・・・」
「今でも覚えていますよ・・妻が・・真由美があの舞台の上で初めて見知らぬ醜い男にマンコを突き抜かれた姿を見た時に、私の脳みそに走った衝撃を・・・」
田中の瞳がより一層大きく広がり、その時の喜びを懐かしむように顔いっぱいの笑みが溢れ出した。
「中村さん、その後は私達はあの“欲望の劇場”へ入り浸りです。そして、いつかのレイプを思い出しながら真由美があの舞台に立った日には、必ず帰り道のどこかで犯す(や)るんですよ」
田中の口元が大きく引き裂かれ、まるで人を食い尽くすような獣に見えた瞬間だった。
「・・・田中さん、でもあの劇場を運営している神崎氏はあっちの世界の人間ですよね。仕事柄その事には抵抗は無かったのですか?」
「まあ、その時私は前の“会社”は退職してましたがね・・・夕月にあの劇場の話を聞かされた時は、本当にそんな世界がこの世にあるのかと疑いました」
「そうですよね」
「それで実際に神崎に合わせると言われた時は、私も事前に神崎の事を調べました・・・」
田中はそう言うと一旦言葉を止め、胸ポケットから名刺入れを出すとその中の1枚を中村に手渡した。
“あさひ中央リサーチ 代表 田中一郎”
「中村さん、それが私の今の仕事です」
「これは?」
「調査会社・・・興信所みたいなものです。浮気調査から昔の好(よしみ)で警察の下請け調査みたいな事をする事もあります・・・」
「なるほど・・それで神崎の事を調べたのですね」
「ええ、そうです。彼は・・・わかりやすく言うと“企業舎弟”・・まあ、最近はどっから何処までがヤクザかよくわかりませんけどね。どちらにしても想像していた通りでしたから驚きませんでしたし・・・神崎と話して妻も私も納得してあの劇場に行ってますからね」
「・・・・・・」
「ただ 中村さん、神崎と初めて会って驚いた事がありましたよ。私が彼らを調べたように、彼らも私達夫婦の事を見事なくらい調べていましたよ・・・私の前の“会社”での役職や退社時期、現在の仕事の内容、そして今の家族構成まで・・・・・・怖いですね・・・」
「・・・田中さん、彼らに深い入りすると危険ですか?」
「ふふふ、中村さん。私も中村さんも、もう既に充分深い入りしてますよ・・・でも、奥様は彼らにとったら商品だし、我々はお客様ですからね・・・もう腹を据えて割り切ったほうが良いと思いますよ・・・」
中村の頭の中に神崎の瞳の奥にある怪しい光が思い出された。