小説本文



 中村と男が放出した後は、女の荒い息遣いだけが暗い廃墟の中に響いていた。


 中村が落ちているパンツに手をかけると、男は自分の物を仕舞いながら話しかけた。
 「今度、夕華(ゆうか)と夕霧(ゆうぎり)でスワッピングでもやるかい・・でもそれはダメだな。スワッピングなんてあんな健康的なスポーツみたいなセックスはよ」


 (・・・・・・)


 「それより、みんなであの舞台の上でやるかい? みんな仮面を被って・・・大勢に見られながらやるんだ・・・その方がよっぽど興奮するぜ。夕霧には中村さんだって事を黙ったままやるんだ・・・どうだい?」


 中村は男の言葉を前を向き、シャツをズボンの中に入れながら聞いていた。
 女はジーパンを上げると小走りに男の元へと走りよった。


 男は女の肩を抱くと、先ほどまでとは違う丁寧な口調で喋り出した。
 「・・・中村さん・・・いろいろご無礼をした・・・申しわけなかった。・・・私達夫婦を責めないで下さい・・・私達も夕霧さんの事は口外しない・・・どこかで会えば普通に接しさせてもらうと思う・・・」


 そして男は女の手を握ると、入ってきた方角へ後ずさるように戻って行った。
 中村はしばらく背を向けたまま、廃墟の中を立ちすくんでいた。




 その日の夜、たけしは風呂に入りながら夕華夫婦の事を考えていた。
 (確かに色んな夫婦がいる。でも夕華夫婦はきっと幸せな夫婦なんだろうな・・・あの舞台に上がる女は、殆どが旦那に内緒なんだろうから・・・俺もまだ幸せな方なんだろうか)


 たけしの頭に再び昼間の舞台に登場したあの若い男の事が蘇ってきた。
 風呂から上がったたけしはこの日の夜、みゆきをベットに誘おうと決めていた。
 みゆきの身体に昼間の舞台の余韻が残っているのか、確かめたかったからだ。


 たけしはみゆきをバックから突きながら、昼間の夕華とはまた違う感触を味わっていた。
 バックスタイルで突くたけしの目にみゆきのアナルが映り、再び頭の中にあの若い男の姿が現れ “夕霧”が吐いた言葉が蘇った。
 『あなた・・・あたしのお尻の処女を奪ってください・‥』


 (・・・あなただと)
 たけしは急にみゆきの腰を力強く握りしめると、激しく打ちつけ始めた。
 みゆきの口から出る言葉も大きくなっていく。
 若い男への嫉妬心からだろうか、たけしは自分の一物がいつもより硬く大きくなった気がした。


 たけしは一気に放出するとゴロっと横になり、しばらくして呼吸が落ち着くとコンドームをはずしパンツに手をやった。
 目が冴えてきてその日は眠れない予感がしてきていた。
 いつしか初めて、あの“欲望の劇場”を訪れてからの事が頭の中に描かれていた。


 妻と同じ年代の奥様方が繰り広げる痴態の数々・・乱交 SM 飲精 飲尿 ・・その様子を仮面の奥から覗き見して興奮する自分。
 舞台の上で見知らぬ男達に犯され、調教され、挙句の果てにその行為に歓喜の声を上げる妻・・その姿を覗き見して興奮している自分、そしてその妻を抱いて喜ぶ自分。
 舞台の女の幻覚を日常で見る自分、そして舞台の女をストーキングする変態男。


 たけしは妻があの舞台に上がるようになった切っ掛けが借金なのか何なのか?そんな事は既にもうどうでもよくなっていた。
 目覚めた性癖が、新しい快楽だけを欲しがっていた。


 たけしがようやく深い眠りへと落ちようとしていた時だった。
 隣で寝ていたみゆきが背中を向けるように寝返りを打った。
 そしてそっと目を開けた。


 (だめだわ。もう、この人とのセックスでは何も感じない・・・)
 みゆきのその目は、暗闇の中の一点を見つめていた。