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 突然の出来事にもみゆきの身体は、イスから反射的に立ち上っていた。
 しかし、今度はみゆきの両腕を誰かが抱え込んだ。
 暴れるようとするみゆきの耳元で、口を押さえ付けている何者かが囁いた。
 「静かにして・・」


 (女性!)
 その柔らかい声の響きに、みゆきの身体は一瞬の内に静まり返った。
 そして部屋の中に数十秒の沈黙が続いた。


 みゆきの額に汗が、一滴(ひとしずく)流れ落ちた時だった。
 「・・・暴れないで良いのよ」
 (だっ・・・誰?)


 叫ぼうとしたみゆきの声はハンカチに遮(さえぎ)られ、代わりに滑稽な音が発せられた。
 それを聞いた女の口から、“クス”っと笑い声が漏れた。
 口を塞いでる者、身体を押さえつけている者、その二人の目が悪戯(いたずら)っぽく輝いた。
 そして一人がみゆきの耳元で厭らしく囁いた。
 「うふふ・・・みゆき、今日のこの洋服も素敵だね」
 ( ! )


 今度は身体を押さえつけているもう一人が囁いた。
 「うふふふ ・・・例のバイトはどうなってるの、もうヌードになったの?・・借金返し終わったらご馳走してね」
 (! !)


 言葉の後、しばらく沈黙が続くと、みゆきの思考が動き始めた。
 (・・・まっ まさか・・)


 みゆきはもう一度身体を激しく揺すり、2人を振り払おうとした。
 そんなみゆきの様子にかまう事無く、2人が再び囁きあった。
 「私 奥様のご近所のあの主婦よ・・・普段清ましてるけど、あんな所であんな事してたのよ」
 「うふ 私は奥様のお友達かも・・・私も普段清ましてるけど、あんな所であんな事してたのよ」


 (! ! !・・・うっ うそでしょ・・ )
 みゆきに緊張が走り、身体は金縛りのように固まってしまった。
 言葉を出そうにも喉元から、そして身体全体が言う事をきかなくなっていた。


 身体を押さえつけていた女がみゆきの前に回るとそこにしゃがみ込み、みゆきの穿いているスカートのホックに手を掛けた。
 みゆきは女の行為を意識しながらも、身体は些細(ささい)な抵抗も出来なかった。
 女はスカートを脱がせると、続けてハイヒール、ストッキングと手際よく脱ぎ取った。


 口を押さえつけている女が、露(あらわ)になったみゆきのパンティー姿を見ながら再び耳元に囁いた。
 「うふ 厭らしい下着ね・・・こんな時でもこんな卑猥なパンティーを穿いてるなんて・・・若い彼に教えられたのかな?・・」
 (! ! ! !)


 固まり続けるみゆきを見ながら女の手は上半身に移り、みゆきの口にあてられていたハンカチはいつの間にか外さていた。
 女達はパンティー1枚の姿になったみゆきを見つめ頷きあい、そして一人がみゆきの頬に手を掛けた。
 もう一人の女が自分顔をみゆきの口元に寄せ、ゆっくり唇を近づけた。
 女の口がみゆきの唇に重なると、もう一人の女が正面に跪(ひざまず)き、みゆきの肩を抱きながら乳房に吸い付いた。


 女達の愛撫は徐々に激しくなり、みゆきの身体をベットに運び込むと更に大胆になっていった。
 タオルで目隠しをされながらも、みゆきの口からはついに歓喜の声が上がり始めた。
 女はみゆきのパンティーに手を掛けそれを奪い去ると、その奥にある秘部にも進入していった。
 そして、一人の女の手が目隠しのタオルに掛かった。


 みゆきが顔の辺りに清涼感と光を感じると、恐々ながらゆっくり目を開けていった。
 女達が一旦愛撫を止め、みゆきの瞳を覗きこんでいた。
 みゆきの瞳には女のシルエットが形となって映り、頭の中の思考がそれを認識し始めた。


 「・・・・あっ あなたは・・・夕月(ゆうづき)?・・さん、 ・・それに・・夕華(ゆうか)?・・さん・・なんで ここに・・」


 ベットでゆっくり上体を起こし始めたみゆきを、2人の仮面を着けた女が全裸のままで優しく見つめていた。
 「・・・どうして ここに?」


 3人の女達が見つめ合う中、一人がゆっくり自分の仮面に手を掛けた。
 それを見たもう一人の女も、自分の仮面に手を掛けた。
 女達の素顔が露(あらわ)になっていく様子を見つめながら、みゆきの瞳と口が大きく広がっていった。
 (ゆっ 裕子!  それに 真由美!)


 ベットの上の全裸の3人の女達の様子を、隣の部屋の扉の隙間から一人の男がしゃがんだまま覗き込んでいた。
 その男の後ろでは2人の男が黙ったまま頷いていた。


 それから数時間後。
 ホテルのレストランに仲良し3人組の姿があった。
 ランチタイムが終わり、客の少なくなったその中で、3人の女はそれぞれが注文したお茶を飲んでいた。
 最初静かだったそのテーブルには、ようやく小さい笑い声が上がり、やがてそれはいつもの笑い声へと変っていった。


 「もう、本当に裕子は意地悪なんだから」
 「ごめんごめん。でも、スケベ1番は真由美よね」
 「なによーみゆきの逝きっぷりの方が凄かったわよー」


 そんな女達の様子を離れた入り口から見ていた男達が振り返った。
 「中村さん、あれでよかったですか?」
 「はい」


 その声を聞いて田中と山本、それに中村の3人はエントランスのある1階へと歩き始めていた。