小説本文



 田沢はハンドルを握りながら、後部座席に移ったみゆきの様子を確認していた。
 バックミラーに映るみゆきの瞳は宙をさ迷い、その様子はどこか“痴呆”のようにも見える。


 「ふふふ、奥さん全くだらしない格好だな、マンコを拡げてオッパイ丸出しでよお」
 みゆきはその言葉に一瞬自分を思い出し、隠すように胸と股間に手をやった。


 「あらら もう“夕霧(ゆうぎり)が消えちゃったか?・・・ふふ じゃあ、もう1度御登場頂こうかな?」
 そう言うと田沢の顔に卑下(ひげ)た笑みが浮かんできた。


 「夕霧さんよー! 開演だぜー」
 田沢の激しい口調がみゆきの頭を刺激して、電流が子宮へと駆け下りた。


 みゆきは無意識に腰を浮かし、両手で両足の膝裏を抱え込むと思いっきり股を拡げていた。
 「本当に股を開くのが好きなんだな、奥さんは。でも、次はちょっと違うんだぜ、・・イヌの格好になって窓の外にマンコを突き出すようにケツを向けてみな」


 メルセデスの広い後部座席で四つんばいになり、みゆきは顎を突き出しながら顔をシートに埋めると、尻穴が窓の真ん中辺りに付く位まで持ち上げた。
 「ふふ いいぞ、奥さん。そのケツの高さのまま片手を股の下からマンコに持っていって拡げるんだ」


 田沢はミラー越しにその姿を確認すると車のスピードを上げ、隣車線を走るワゴン車を頭一つ追い抜いた。
 ワゴン車の助手席の位置がメルセデスの後部座席の窓と同じになるようにスピードを調整すると、田沢はニヤつきながら窓のスイッチに手をやった。
 ワゴン車の助手席には職人風の男が、黒いメルセデスを怪訝(けけん)そうに見ている姿があった。


 「奥さん ほら、新しい快感を味わいな」
 田沢のその声が終わらないうちにスモークの張られた窓が下がり始め、夕霧の巨尻がその中央の小さな穴と濡れた秘部を携(たずさ)えて現れた。


 「あん・・・」
 初めての風を感じたその部分に、みゆきの口から小さな声が漏れた。しかしその声は一瞬のうちに風の音でかき消されてしまった。


 田沢がクラクションを鳴らすと職人風の男がこちらを向き、窓から顔を出す“それ”に気づくと飛び上がるように驚いた。
 すぐにその男は自分の席の窓を開け、そこから覗き見る卑猥な目が食い入るように“その部分”を見つめていた。


 「隣で男が涎(よだれ)を垂らしながら奥さんのヤラシイあそこを見てるぜ」
 「ああ~ は 恥かしいけど・・・さ 最高!・・・も もっと 見てー」
 風の音に負けないように言った田沢の声・・それ以上にみゆきは大きな声で応えていた。
 車はその後も“その行為”を数回続けながら、ようやくバイパスを降りると街中へ続く一般道へと入って行った。


 「奥さんよお、楽しかったかい? でも、あんまりやってるとおまわりさんに通報されちまうからな・・・」
 放心状態だったみゆきは田沢のその声で我に返り、後ろの座席で座り直した。
 シートの滑(ぬめ)りを確認するとゆっくりスカートを手に取り、それを穿き終えるとしばらくして思い出したようにシートベルトに手をやった。
 メルセデスは川と並行して走るさほど広くない坂道を登り始めていた。


 やがて車は横道に入り、小さな看板が出ているこれまた小さな旅館の駐車場へと入っていった。
 そこには如何にも隠れ家的で、小じんまりとした趣(おもむき)のある建物があった。


 「さあ 着いたぜ 奥さん。車から降りる前にしっかり身だしなみを整えな。赤い口紅に短いスカートでも上品な佇まいを醸(かも)し出さなきゃいけないんだぜ」
 車を止めた田沢の声にみゆきは一瞬唇を噛み締めると、一気に現実に戻ったように緊張感が湧いてきた。


 先に降りた田沢にエスコートされるようにみゆきは車から降り、旅館の前でその平屋建ての建物を見るともう一度唇を噛み締めた。
 「ふふ、初めて面接に来たときの事でも思い出したかい?」
 「・・・・・・」


 「さあ 奥さん 行こうか」
 「・・・はい」
 田沢がみゆきの背中に軽く手をあて、2人はゆっくり入り口へと歩き出した。


 建物の中からは神崎が2人の姿を見ていた。
 そしてくるりと振り返ると、後ろの男達に声をかけた。
 「お前ら、あれが夕霧(ゆうぎり)だ」


 数人の坊主頭の男達がみゆきを見つめていた。