小説本文




 妻清美の元彼の男は、『旦那に覗かれてると思って宣言しろ』と云った。
 『そうすれば新たな快楽に酔う事が出来る。今のお前の本心を旦那に聞かせてやれ』とも云った。
 暗闇の中、男の言葉を聞いた私は、あの手紙に書かれていた事と、目の前の出来事を重ね合わせようとする自分を自覚していた。それはレイプ同然に“初めて”を奪われた清美が、やがては男の傀儡となり身を任すようになった事実だ。


 「どうした清美。己の性癖にのっとって欲望を持つ事、それを適切に引き受ける事に罪はないんだぞ」
 「んん…っ」
 「さあ、旦那にお前の真の姿を見せてやれ、教えてやれ。自分の性のテリトリーに誰かが侵入してもな、それが夫なら休眠していた刺激が掻き立てられると言うものだ」
 男の教育者然とした言葉の後には、再び沈黙の間が降り立った。私達は息を詰めたまま、男の醸し出す雰囲気に取り込まれってしまっている。


 傅いたままの清美だったが、スッと顎を上げた。私が拝む清美のその顔は、トロ~ンとして何処か呆けの表情(かお)になっている。
 「あぁ、貴方…」
 ギクリと胸の鼓動が跳ね上がった。
 「やっぱり…アタシ…おかしい…」
 朱い唇から漏れ聞こえた感情に乏しい声は、私に向けられたものなのか。清美の瞳は虚ろで、芝居がかった気がしないでもない。しかし私の背中は、現実的な冷たさを感じている。
 清美がフラリと立ち上がった。そして再び男の前に身を曝す。
 その後ろ姿、男に脂が乗ったと云われた肉の凹凸が、この僅かな間に研ぎ澄まされた気がするのは、何故だろうか。


 「あぁ貴方…見て下さい」
 清美が両手で、項(うなじ)を掻き分け、胸を張る。
 僅かに逸らしたその横顔には、羞恥の気振りが現れている。けれど男の視線を、真っ直ぐ受け止めてもいる。
 「乳首がさっきよりも、ビンビンだな。その事も旦那に教えてやりなさい」
 「…あぁ…ふっ…うううッ、貴方、アタシのココ…乳首が尖り立って、ビンビンになって、ます」
 「理由は」
 「ううッ、それは…アタシが、見られて…あぁ、感じる女、だから、です…」
 「見られるだけで感じる女…変態って事だな」
 「は、はい…」
 「よし、続けて」
 「はい…貴方、アタシは見られて、オマンコを濡らすマゾ女…見てて…下さい」
 清美の両足が左右に滑り、ガニ股に拡がった。
 「さあ、それで」
 男の声を聞く間もなく、清美の手が股間のあわいに潜り込んだか、肉付いた腰から臀がプルルと震える。そしてチュプリと濡れた音が立つ。
 「あぁグショグショぉ…貴方、アタシのオマンコ濡れて濡れて…」
 「何、もうそんなに濡れてるのか」
 「は、はい」
 「恥ずかしい女だな、清美は。やっぱり変態で間違いなかったわけだ」
 「そ、そう…そうです」云って清美のソコがチャプチャプと淫猥な音を立てる。清美の指は、ソレ自身が意識を持った生き物のように蠢いているのだ。
 「ああ、凄いな。床まで垂れてるぞ」
 「あぁ止まらない、止まらないんです」
 「ふふっ、旦那に見られるのがそんなに嬉しいんだな」
 「ち、違う、違います、そんなんじゃ」
 「ん、違うのか?」
 「いやん、違うんです」
 「どっちなんだ」
 「気持ち、気持ちいいんです。見られながら弄るのも、虐められるのも」
 「ふふ、マゾらしい声に、マゾらしい表情(かお)だ」
 「あぁ、恥ずっ、恥ずかしい」
 「じゃあ止めるか。恥ずかしいんだろ」
 「いやっ、そんな、違うっ」
 「ふふっ、恥ずかしくてもそれが快感なんだよな」
 清美が黙って唇を噛み締め、首の首肯を繰り返す。その間も指は、股座を弄ったまま。
 と、清美の膝がガクガクと揺れ出した。
 「も、もうダメ…逝きそう…」
 私の膝も合わせたように、ガクガク震え出し、前につんのめりそうになっている。
 「あっ、ああッ、逝っ逝ぐッ、逝きそう、逝っていいですか!」
 主に伺いを立てる女の喘声。私の中の熱いものも沸点に達した。そして清美は、居る筈のない私に聞こえるようにか「んあーーーッ」と、お叫びを上げて、床に崩れ落ちたのだった。


 床にひれ伏した肢体からは、はぁはぁと息が溢れて痙攣を繰り返す。
 「なんだ、もう逝っなのか」男からは白けたような冷たい声。
 私の方は、崩れ落ちた清美の肢体を見据えながら、大きな息を絞り出した。
 覗き穴から見る世界は、手を伸ばせば届きそうな気がしていたのに、今は遠く感じる。この距離が我々夫婦の距離なのか。
 「逝くのが早すぎだな。だが本番はこれからだ」
 ああ、何が『本番』なのかと私は訝るが、男の仮面は笑いを続ける。
 「清美、お前が官能の喜悦に、のたうつ姿をもっと旦那に見せてやるとするか。勿論、相手をするのは…」と、男が立ち上がった。
 男の胯間には黒い一物。ソレを見た私は、思わず自分の股間に気が付いた。私の愚息が今にも飛び出さんとばかりに、巨(おおき)くなっているのだ。


 男がソファーにふんぞり返るのように腰を降ろした。そして自ら股座を開げる。
 その太々しい態度は、寄って来い、傅け、拝め、仕えろ、と云ってる気がしてならない。
 清美がのっそりと身体を起こすと、四つ足になって男に寄って行く。
 「フェラチオをした時、思い出しただろ。次は何だっけ」男が足元の清美を見下ろす。
 「はぁぁ、先生…いえ御主人様、お尻を、お尻を舐めさせて、下さい…」
 その声を聞いた瞬間、私の股間がそれまで以上に膨らんだ。
 清美は本当にやるのか…私の唇がワナワナと震える。
 と、清美が男に抱きつき、唇にムシャぶりついた。
 激しく交わる唇と唇…いや、見ると夢中になっているのは清美だけで、男は覚めた眼差しをしている。


 「あぁん、先生っ」唇を離して、清美が、もう堪らないっといった表情を向ける。
 「さあ、次はなんだ」
 「あぁ分かっています…分かってますわ」
 赤身を帯びた身体が再び膝を付いて、主を見上げる。
 「…御主人様、立って…立って下さい。そしてお尻を…」
 これはもう、昔あった流れそのものなのではないのか…そんな事を想い浮かべた私の視線の先で、男が清美に背中を向けて中腰になった。
 そこにあるのは、年老いた男の汚い臀。その割れ目を拡げる女。そしてそこに唇を近づけるのは、間違いなく妻の清美なのだ。
 チュパチャパ、ジュルジュル、先ほどの口付けより卑猥な音が鳴り出した。
 昔の男に夢中になる女と、昔の女の奉仕をシレッと受け止める男。そして、妻の健気さに絶望を感じる私。
 ああ…この次は…。
 やはり…。
 清美は男のモノを… 。
 アソコに…。
 迎え入れるのか昔のように…。
 それだけはと、私は無意識に立ち上がっていた。
 そして何を想ったか、膨らみきった股間のソレを、今まで覗いていた穴に挿し込んだのだ。
 コレを清美の膣(なか)に。


 私は自身の先に濡れを感じる。我慢の汁が妻を欲しがっているのだ。そこに清美の感触を迎え入れたくて、待っている。
 それなのに…。
 聞こえて来たのは…。
 「仔犬だったお前は今は雌豚。自分の快楽の為なら何でもする雌豚」
 「あぁーーー言わないで、御主人様ッ」
 「清美よ、後ろを振り向いてみろ。あそこに見えるのは何だ。壁からニョキッと突き出た貧相なヤツだ」
 「………」
 「ん、どうだ?」
 「…あぁ、あんなモノ」
 「ふふっ、そうだろうな。清美はやっぱりコイツだな」
 「は、はい。勿論です!」
 「じゃあ、分かっているな。お前にお似合いの格好で突いてやるか」
 「あぁ、嬉しーーーっ」


 間違いのない清美の叫びの後は、肉と肉が打つかり合う音が聞こえて来た。
 覗き穴から一物を突き出したままの滑稽な私は、それでもいつかは、この先っぽに泥濘みを感じると信じて…いや願って、惨めな姿勢を続けるのだった…。




 ・・・・・・・・・・・・・
 狭いクローゼットの覗き穴から、惨めな愚息を突き出し、壁にへばり付いていた私。
 覚えている事といえば…。
 『どんなに熟練した夫婦にも、細胞の一つ一つが弾み立つような熱感に焙られる一瞬があるものだ。その一瞬とは、自分の妻が他の男とやる場面に出会う瞬間の事だ』
  『信頼と不信。安全と危険。既知と未知。合意と強制。和姦と強姦。その両極端な境目を彷徨うのも、これまた至福のひと時。また同じ気持ちを味わいたければ、連絡を』
 ーーーそれは誰に向けたのか、妻の元彼の男が、言い残した言葉だったのだ。


 気が付いた時には、由紀子さんが目の前で慈悲深い目を向けていた。
 既に部屋には誰の姿もなく、私は由紀子さんに連れられ、呆けたまま帰り支度に入ったのだった。
 そんな私は、帰り際に由紀子さんから手紙を渡された。
 見覚えのある茶封筒に見覚えのある筆跡。
 それは…。
 【妻の長い眠り】という一人称で描かれた小説のプロローグの部分だった。


 【~プロローグ~
 同窓会で再会した昔の彼女は、何十年の時を経て私の元に戻って来たのです。
 彼女は再び、歳の離れた私の性奴になる事に幸せを見いだし、私はと言えば、その期待に応えるよう調教を始める事にしたのです。
 そこには彼女にとって昔とは違う、新たな興奮と快楽がありました。
 そうです、夫があり家庭がある今の彼女にとって、それらを裏切る後ろめたさこそが、堪らないものだったのです。
 彼女は私が呼べば、これからも何処にでもやって来るでしょう。そして、私が言う事には一切逆らわず、その身を曝け出す事でしょう。
 さあ、親愛なる読者の皆さん、これから始るこの小説(はなし)に暫くお付き合い下さいませ。必ずあなた方に、素敵な興奮が訪れる事をお約束致しますので。】



 ~おしまい~
 (^_^)オワッタオワッタ