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第4話
妻の清美は、私に告げた時間より30分も早く帰って来たのだった。
「あれ、LINEであと1時間って言ってなかった?」
「ああ、そうでしたね。でも珠美が子供の事があるからって言うので、そのタイミングでお開きにしたんですよ」
「ふ~ん、そうなんだ、珠美さんねぇ…ところで今日のメンツなん…」と言い掛けたところで、妻は首を振った。
「ゴメンなさい…」それだけを云って、妻が私の横を通り過ぎて行く。
その瞬間、プゥんとタバコの臭いがした。
妻もそうだが、私にもタバコを吸う習慣がない。今夜の女子会のメンバーに喫煙者がいたのか。最近では居酒屋と言えども、オール禁煙の店が多いのではないのか。
そんな疑問を感じているうちに、脱衣所のドアが開く音がした。
一旦リビンクに行き、落ち着こうとした私だったが、変な考えが浮かんできた。妻のバックは何処にある?
そう思った瞬間、私は足を忍ばせて、もう一度彼女の寝室に向かった。
バッグは無造作にベッドの上に置かれていた。こっそりと開けてみれば、直ぐに茶封筒に目がいった。
ソレを取り出し、後ろを振り返った。シャワーの音が聞こえる。
封筒の中には写真が10枚。私の勘は当たっていた。それらの写真は、妻の高校時代の物だった。 やはり彼女は、今夜の集まりにこの懐かしの品を持って行っていたのだ。
写真に映る清美の容姿は若々しく、私の心を擽ってくれたが、それ以外はどって事のない写真だった。女友達に混じって男子生徒が写っていたり、恩師らしき男性教師を囲む写真はあったが、男とのツーショット等は見当たらなかったのだ。
それでも私は、念の為にそれらの中から、男が写ってる物をスマホで撮っておく事にした。
妻の部屋から出れば、シャワーの音が強さを増しているようだ。その瞬間、良からぬ考えが閃いてしまった。
私は盗撮者にでもなった気持ちで、洗面所まで行きドアを開けたのだ。
浴室の曇りガラスには、妻のシルエット。その様子を見ながら、音を立てないように洗濯機の蓋を開ける。奥で丸まってたショーツをそっと手に取り、拡げてみた。
部下の山口の言葉を思い返すが、何の変哲のないこの下着が不倫の証拠とは思えない。私は急に自分自身の行いに情けなくなってしまった。何をしているのだ、俺は変質者か!
これは仕事のストレスが原因なのかと自嘲したところで、ソレをまた洗濯機の奥に忍ばせた。
リビンクに戻ってソファーに腰を落ち着け、ふうっと息を吐き出す。酔いは完全に覚めている。それから妻に訊いておく事を整理する…これは念の為なのだと自分に言い聞かせながらだ。
やがてシャワーの音が止み、それから暫くすると妻がリビングにやって来た。
「どうだったの女子会は?」明るさを装い、私は訊いてみた。
「ああ、そうですね、盛り上がりましたよ」ウェーブの掛かったボブの髪の毛を拭きながら妻が返事をする。その表情は落ち着いていて、酔いも大した事がない感じだ。
「メンツはどんな感じなの、前回と…」
「ええ、殆ど一緒です…」妻が答えながら、目の前のソファーに腰を降ろした。
「全部で何人だったの」
「へ!?」
タオルで髪を拭いていた彼女の手が止まっている。
「ええっと…4人、はい4人ですね」
「ふ~ん、少なかったんだね」私は本音のところを口にした。
「はい…アタシを入れて4人です」
「………」
妻の様子が、どことなく落ち着きが無くなってる感じだ。そっと窺えば、何かを考え込んだ雰囲気か。今の自分の言葉を、反芻してるように観えなくもない。
「あのさ、写真は」
「へ、写真!?」
それは予期せぬ質問だったのか、妻は一瞬キョトンとした。
「ほら、普通は撮るんじゃないの」
「………」
私の質問は妻の隙を突いてしまったのか、彼女の目が泳いでいる。
「皆で撮ったんでしょ」
「…そうでしたね」細い声で云って、妻は慌てたように席を立ってしまった。
妻の後ろ姿を見送る私。彼女はスマホを取りに行ったのか。
暫くして妻が戻って来た。
そしてスマホの画面を私に向けると、今夜の女子会の写真、2周間ほど前の女子会の写真、最後に1ヶ月前の同窓会の写真を遡って見せてくれた。
写真の数は、同窓会の物が一番多く、その中には妻が男性と写っている物もあったが、そこに不自然さは感じられなかった。その後の2回の女子会の写真には、男が写っている物は無かった。名前の通り女子だけの集まりで、私が取り憑かれていた妄想の影は無かったわけだ。
しかし、ついでだからと、私は今夜のメンツに付いて訊いておく事にしたのだった。
妻は覚悟…いや、準備してたかのように切り出した。
女子会に集まったのは、安田珠美(ヤスダ タマミ)さん、真木由紀子(マキ ユキコ)さん、そして太田徳子(オオタ ノリコ)さんに清美を入れた4人のようだった。
高校時代、一番仲の良かった安田珠美さんは、遅くに出来た中学生の子供と二人暮らしをしているらしい。
真木由紀子さんとは、それほど仲が良かったわけではないが、同窓会で再会した時に話が弾んだらしい。この人は昔から美人の上に才女で、今は夫婦揃って、隣町で学校の先生をしているとの事だった。
そして真木由紀子さんの誘いで来たのが、太田徳子さん。この女性も高校時代はそれほど仲が良かったわけではないが、人当たりの良いポッチャリ気味の明るいタイプで、同窓会の場を盛り上げたらしい。今は遅くに出来た中学生の子供と、ご主人の3人で比較的近くに住んでいるとの事だった。
写真を見ながら説明を聞き終えた時には、私の疑心はあらかた収まっていた。考えてみれば最近の妻に色気が戻った気がしていたが、それは同窓会と言うイベントへの心構えが、彼女の心身を磨いた結果が今も続いていると理解したわけだ。
しかし、それから約1ヶ月後…。