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第16話
私は、妻と元彼が同窓会の2次会の席で、同じテーブルに着いた場面を想像しながら、手紙を読み進めた。
【『清美』とあの頃のように名前を呼び捨てにされ、おまけに『変態マゾ』の言葉を聞かされ、彼女に変化が現われるか私は期待をしました。
清美さんを見続けますと、その瞳がますます潤んで行くのが分かりまして、その瞬間『ふんっ!』と、心の中で鼻を鳴らしましたよ。
彼女の方は、俯いてしまいましてね、私はそんな彼女の手を、テーブルの下でそっと握りました。その瞬間は、私の中にも電気が走り抜けました。肌に触れたのは何十年かぶりの事でしたからね。
そして私は、清美の親指と人差し指の間、合谷(ごうごく)と呼ばれる窪みの部分を擦ってやったのです。そう、指の腹で乳首やクリトリスを弄るイメージを彼女に思い浮かべさせようとしたのです。
清美は、私の指を払い除けようとはしませんでしたよ。それどころか口を微かに開き、小さな溜め息を零し始めました。
次に清美の指を軽く丸め、私の人差し指を彼女の指と指の間に刺し入れてやったのです。彼女の指の隙間は微かに汗を掻いてまして、私はそれを潤滑の油に、抜き差しを始めてやったのです。
直ぐに彼女は眉根を寄せましてね、鼻から嘆きの息を吐きました。
私は彼女の耳元に唇を近づけ、云ってやりましたよ『どこが気持ちいいんだ?』ってね。
清美は上目遣いに、そして後ろめたそうな視線をこちらに向けましたね。それでも私は、再度強めの声で云いました。『ほら、昔を思い出して口に出してみろ』『口に出す事で得られる快楽があるんだよな』とね。
清美は逡巡していましたが、やがて唇を震わせながら『…オ、オマン…』と、言い掛けたのですが、残念な事に我々の席に人が戻って来てしまったのです。
その女性が戻って来た瞬間には、私はテーブルの下で握っていた清美の手をパッと離していました。
清美の横顔を見れば、明らかに緊張の色を滲ませています。席に戻って来た女性も、おかしな雰囲気を感じたかもしれません。
因みにこの女性は、先ほど書いたY子さんです。
清美は直ぐに、Y子さんと入れ替わるように席を立って、逃げるように化粧室の方へと行ってしまったのです。】
私はふうっと息を吐いて、今の場面を想像した。何かの映画のワンシーンのような気もする。
【席を立った清美の後ろ姿を追い掛けながら、私は彼女がトイレでショーツを降ろし、ソコが濡れてる事に気づく場面を想像しましたよ。
Y子は私の様子に気になる事でもあったのか、顔を乗り出し訊いてきましたね。酔った口調で『清美は相変わらず綺麗ですよねぇ。久し振りに逢ってどうですか~?』こんな感じでした。
Y子は当時から才女と呼ばれ、美人でもありましたが、雰囲気は当時と同じで少しお高くとまった感じです。しかしこのY子が、3次会でとんでもない事を言い出すのです。それはまぁ、後のお楽しみにしておいて下さい。】
又も男の薄ら笑いが、耳元で聴こえた気がした。
そしてY子…おそらく由起子さん。この人の事は、妻も口にしていた。今は夫婦揃って、教職に身を置いている人だ。
その由起子さんが云ったとんでもない事、それも気になってしまう。妻に関係がある事なのだろうか。
【私とY子の二人だけになった席でしたが、少しするとN子さんにTさん達が戻って来てしまいました。
思わぬ形で4人掛けの席が埋まってしまったわけです。が、私はそれなりに振る舞いました。昔話に花を咲かせる素振りをしながら、さり気なく清美の情報を引き出そうとしたのです。
そこで分かった事と言えば、清美はTさんとは今もたまに連絡を取り合っている。そのTさんが言うには、清美は今の旦那さんとの夫婦仲は上手くいってて、一人娘は地方の大学に進学して二人暮らしになった、などが分かりました。
Y子さんとN子さんは、清美とは音信不通だったが、1次会の場で再会して想像以上に盛り上がってるとの事でしたね。】
私は無意識に頷いている。
Tさん…確か珠美さん達友人の事は、以前にも聞いた妻の話と符号が合う気がしたのだ。
【彼女達との会話を続けてますと、清美が向こうに歩いて行くのが見えましてね。私は追いかけ、問い詰め、嬲り、虐めてやりたかったのですが、そう言うわけにもいきません。暫くその席に座ってTさん達と時間を過ごしたのです。
2次会は結局、それから暫くしてお開きとなりました。
清美と話す機会を逃したくない私は、さり気なく影のように彼女に近づき、二人だけの3次会を提案しました。しかし運の悪い事に、私の会話を聞いた何人かが話に入ってきてしまって、結局7人のグループが出来て、そのメンバーで近くのカラオケボックスに行く事になってしまったのです。
メンツは清美達同じ席にいた4人に、私と他に男が二人です。
清美を除く女性3人は結構酔っ払ってましたね。清美もかなりビールを飲んでた様子でしたが、かなり行ける口なのでしょうね。】
私は又も無意識に頷いていた。
妻は以前からビール党でそれなりに強く、だからこそ酒で過ちを犯す事はないと思っている。
【店では、直ぐに一人がマイクを持って唄い始めました。
普段からあまり歌う事のない私は、カラオケは苦手でしたが、その時はその歌声が良い塩梅に私達の会話を担保してくれました。そうです、私は清美と隣どうしで座る事が出来たのです。
清美の視線はマイクを握る人達に向いてましたが、私の耳元の声をシッカリ認識していたと思います。
昔から女の聴覚は性感帯の一部と言われています。彼女もおそらく、私の声に高鳴りを覚えていた事と思います。勿論、過去の淫靡な出来事を思い出していた筈です。
では、その時清美の耳元で囁いた私の言葉をご主人にも知って貰いましょう。
『あの頃の貴女には、未知の領域を初めての旅人の如く、好奇と興味の塊となって、手探りしていく初々しい淫らさがあったよ』
『貴女は晒し者にされる羞恥の中で、倒錯した快感を覚える事もあったね』
『あの時は後ろめたい快感がたまらなかったんだろ』
『これからだって、回数を重ねれば熱感は高まり、それが紛れもない女の悦(よろこ)びだと思い出す時が来るよ。そう、これからだってね』
彼女は視線をマイクに向けながらも、時おり顎を引いて、濃い眉を伏せてました。恐らくその仕草は、私の言葉の中に急所を突かれる、言わばキーワードみたいな物を感じたからでしょうね。
清美にとってノスタルジックとは、胸騒ぎを感じる放課後に、生硬な少女から『女』へ変身を遂げたあの季節の事なのです。】
手紙から漂よった詩的な言葉の羅列に、私は正直打ちのめされていた。
この手紙の主は変質者で間違いないと思うのだが、それ以上に妻を…清美を虜にする不思議な力を持ってる気がするのだ。
私は異様な喉の渇きを感じて、ビールのお代わりを注文する事にした。
【さて、私が仕掛けた言葉達に、清美がどのような反応を示すか楽しみに待っておりました。
しかしそれほど広くない部屋です。私達の間に、友人達が声を掛けてくるのです。
内心辟易してましたが、その中に私の…いや清美の性癖にも刺激になるものがあったのです。私はそう感じたのです。
少し前にも書きましたが、意外にもY子が凄い切っ掛けを作る事になったのです。
マイクを置いたY子が清美の向こう隣に座り、私達の様子を窺いながら、そしてY子は清美の耳元で囁いたのです。いや、Y子は囁いたつもりだったかもしれませんが、声が大きく私の耳にも届いてしまったのです。
Y子は酔った口調で云いました。『清タンのところはどうなのお、アレよアレ。旦那さんとはやってるのお?』『アタシ達ねぇ、あまり大きな声では言えないんだけど、ウフフ…刺激のある遊びをしてるんだぁ』
その瞬間、Y子の言葉に私の中で何かが弾けました。Y子が教師をしてるのは1次会で聞いてましたが、聖職者である彼女から私とよく似た同類とも言える匂いを嗅ぎ取ったのです。】
手紙の中の男の様子がこちらにまで伝わった気がして、私の背中がゾクゾクと震えてきた。
しかしこの展開は何かの伏線なのか。この話は何処に行くのだ。
【その時の清美さんは、いつの間にか歌う連中から目を離して、俯きながらもY子の口元をチラチラ探る感じでしたね。やはり清美は、聴覚でエクスタシーを感じようとしていたのでしょう。
Y子は清美の反応など気にせず話を続けました。
『夫婦仲を改善するとかね、浮気防止にはある事をするのが一番なのよねぇぇ…気にならない、ねぇ清タン』
私は二人の会話が聞こえないフリをしていました。今度は私が耳を性感帯に、Y子の言葉を盗み聞きしていたのです。
しかしそこに何と、今度はN子が席を移って来たのです。
N子はY子の向こう隣に座って、Y子に向かって訊いたのです。『Y子さん達、何だか楽しそうな話してない?たぶんアッチ方面の話なんでしょ?』
N子の口調も酒のせいで、かなり砕けた感じになっていましてね、そして続けるのです。『アタシはY子さんのお陰で、うふふ…ほら、最近は楽しめてるしネ。あれ~ひょっとして清タンも?』
N子の目がギラギラしてましたね。私がいる事など全く気にしてない様子なのです。
それからY子がN子をたしなめると、少し大人しく小声で話すようになったのです。おかげで私の席とは少し距離があるので、彼女の声は途切れ途切れにしか聞こえなくなったのです。
それでも漏れ聞こえたのは『また早く…』『もっと大勢の前で…』全てN子の囁きです。
清美さんの横顔を窺えば、完全に俯いていましたね。私の存在も忘れてるようでした。】
予期せぬ事に妻の友達までが登場してきて、話の先が想像できなかった。それでも淫靡は気配は感じ取れるのだ。
それよりもだ。妻は友人達の会話をどう解釈したのだろうか、そちらが気になってしまう。
【Y子とN子の会話が一段落した時でした。
私は何気ない素振りを装い、誰となく云いました。
『ところで皆んなは、これからも集まったりするのかな』
私の言葉にY子N子清美さんの3人が顔を見合わせました。そして確かY子が、女子会を提案したのです。】
その瞬間、私はあっと声を上げた。
妻が参加した2回の女子会、それの切っ掛けが出来たのは、この男の一言だったのだ。
【この時の私の中では、清美さんの現在の心境、勿論彼女が持ってる性癖が今も蠢いているのか、それが気になっていたのです。そしてそれを確かめる切っ掛けに、その女子会を利用出来ないかと、思惑を浮かべていたのです。
なので私は、彼女達にさり気なく云いました。
『その女子会に、ゲストとして呼んで貰えると嬉しいな』こんな感じでした。】
唸り声を上げて、私はその一文を読み直した。
この元彼の男が、女子会に参加しただと!
いや、まだこの時点では参加が決まったかどうか分からない。しかしおそらく、男は参加に成功したのだ。
となると、妻は私に嘘をついた事になる。
私は記憶を探った。
妻は参加人数を4人と云って、参加者の名前も上げたはず。
そして、その時撮ったという写真も見せてくれた…。
手紙を持ったままの私は、胸騒ぎを感じている。一体これはどういう事だ。
【ではご主人、今回はここまでにさせて頂きます。
この手紙で時系列がだいぶ追いつきました。物語はまだ続きます。
次の手紙は週末にはお届け出来ればと思っています。 では】
読み終えた手紙をそのままに、私は暫く呆然と固まっていた。
今夜、妻と顔を合わせれば何を喋ればいいのだ。
その事が気になってしょうがない…。