小説本文




 部下達との呑み会がお開きになって、家路に向かう私の足は、無意識に速くなっていた。
 妻:清美の事を思い起こしてみれば、彼女は同窓会の前に洋服を新調していたし、髪形にも気を使っていた気がする。
 久し振りに会う友人達の前で、着飾っていたい想いも勿論あっただろう。その友人の中に、『元彼』がいたりして。
 我が家が近づくにつれて酔いも覚めて、思考がハッキリとしてきた。妻の下着を調べたいのだ。それと、彼女に届いた同窓会の案内状も見てみたい。私は『帰りは何時頃?』と、妻に短いLINEを送った。


 マンションのエントランスに着いた所で、スマホを確認した。妻からの返信はない。
 鍵を開けて玄関に入った瞬間、スマホが震えた。
 『ごめんなさい、あと1時間ほど…』
 その返信を読むと、無意識に頷いていた。妻の部屋を探る時間は、たっぷりある。


 急いで部屋着に着替えた私は、目的の部屋を訪れた。妻の部屋をジックリ観るのは、初めての事だ。
 私はまず、箪笥の引き出しを開けてみた。
 目的の物は、すんなりと見つける事が出来た。押し込まれるようにして、奥で丸まっていたのだ。
 取り出してさっと広げて見るが、色こそ黒、赤、紫とあるが、扇情的な物とは言えない物ばかりだ。ブラも手に取って見るが、これも極普通の物のように思える。
 次にクローゼットを見てみたが、新調された洋服の他は、記憶にある歳相応の物だけだった。
 そこで私は、時間を確認した。部屋に入って、まだ10分ほど。
 改まって部屋を見廻すが、整理整頓されているし、何より物が少ない。それでも目に付いたのは、パソコン机の上の小物入れだった。ペン立ての後ろの隙間に、幾つかの封筒が刺さっているのだ。
 ソレらを抜き取り、順番に見ていく。
 几帳面な妻は、DM類もキチンと仕分けしていた。クレカの明細の葉書があったり、化粧品の案内があったり、そして『相良清美様』と書かれた茶封筒があった。裏には手書きで『○○高校25期同窓会実行委員会』とある。
 ソレを持ち直し、私は中を開けて息を送った。
 中から2枚重なった用紙を取り出す。開いてみれば、よく見る書体の案内状だった。
 記載されていた日付けや場所を見て、記憶を辿ってみる。


 1ヶ月ほど前に催させた同窓会。その日、私は何をしていただろう?ああ、残業の後に一人で居酒屋で呑んでいた覚えがある。あの時、私はもっと妻に気を使っておくべきだったのか…。と、我に帰った。
 私は何を考えているのだ。妻が浮気した事実など、どこにもないのに。
 それから暫く、私はその案内状を持ったままボォっとしていた。酔いは覚めた筈なのに、妄想が働いてしまったのか。それとも、今夜の部下達が話題にしていた『寝取られ話』で、変なスイッチが私の中で押されたのだろうか。いやいや、私が妻の浮気で性的な満足を得ようとするなどありえないだろう。


 私はもう一度時間を確認した。
 それから折角だからと、自分に変な理由をつけて、部屋漁りを続ける事にした。
 クローゼットの奥も見てみるが、問題にするような物は見つからない、と思ったところでキャリーケースの後ろに段ボール箱を見つけた。
 開けてみると、中に数冊のアルバムがある。
 私の口から、ああっと緩い溜息が落ちた。
 今でこそ写真は画像として、スマホやパソコンに保存されるが、娘が子供の頃はプリントアウトしてこのようにアルバムとして重みを抱いていたのだ。
 私は数冊あるうちから1冊を抜き取り、見る事にした。
 それらを順番に見続けたが、途中の1冊に若かりし頃の妻を見付けた。それは私も昔、見た記憶のあるものだった。
 時代毎に巡っていき、彼女の高校時代に辿り着いた。
 まさかこうもタイミングよく見つかるものかと思ったりしたが、ひょっとしたら妻も同窓会の前に見ていたのかもしれない。そしてそんな私の考えは、ある箇所を見て確定されたのだ。
 アルバムの中に、何カ所か抜き取られている所があったのだ。妻はここにあった写真を、同窓会に持って行ったのではないだろうか。そして今夜の女子会と称する呑み会にも、持って行ってるのではないだろうか?
 と、そこで気が付いた。
 今夜のメンバーはどんなメンツだったのだ?
 思い起こそうとしても名前が出てこない。いや、メンバーの事はそもそも聞いていなかったか?
 記憶をたどると『珠美』と言う名前が浮かぶ。しかしそれは、同窓会の案内が来た時に妻が口にした名前だ。今夜の呑み会では、どうなんだろう。
 それよりもだ、今夜の女子会にゲストとして男も来ていたりして。
 いつの間にやら、つい先程、自ら打ち消した妄想が再び翼を広げ始めていた。
 妻が帰って来たら、今夜の呑み会の様子を聞き出してみよう。そして1ヶ月前の同窓会の事も探ってみるのだ。


 その後、部屋のノートパソコンの電源を入れてみたが、そちらはパスワードが設定されていた。これは当たり前なので、仕方がない。
 やがて時間が30分近くになろかとのタイミングで、玄関で鍵の回る音がしたのだった。