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 私はクローゼットの中で、小さな穴から見える小さな世界に取り込まれてしまっていた。
 先ほどから視界に映し出されているのは、男の正面に立って下着姿を曝す妻の清美だ。
 その後ろ姿は、黒いブラジャーの細い線と、豊満な臀部を包む黒いショーツ。
 元彼の初老男の姿は、清美の身体に隠れて見えないが、先程から声と視線で清美を責め立てている。


 「どうしたんだ、そのままでいいのか」
 横柄に聞こえる声には、煽りが加えられている。男にとっても、これは当時を思い返す場面に違いない。
 「………」
 清美の手がゆっくりと上がっていく。そして背中に回って、ブラの線の真ん中辺りで止まった。
 止めてくれ!ーー声にこそならなかったが、私は祈りを込めて念を送った。
 しかし無力の祈りをよそに、黒いソレが落ちた。続いて今度は、ショーツに手が伸びていく。
 そして遂に、息を飲む私の視線の先で、清美が全てを脱ぎ取った!
 それは私が、初めて遭遇する瞬間だった。清美は私以外の男に、産まれたままの姿を曝したのだ。
 心の底からサワサワと寒気がやって来た。その寒気が清美に伝播したか、彼女の震えもより激しくなって観える。


 「これは昔もやった品評の儀式だな」相変わらず悠然とした男の声。
 そして男は鼻で笑う。その嗤いこそが、思春期の清美の心を燻った媚薬のようなものではないのか。
 「さてと、じっくり観察させてもらうとするか」
 これは視姦の儀式でもあるのか、男が頷くと沈黙の間が始まった。
 やがて清美の身体は揺れ出し、肉付いた腰が、ぎこちなくも漂い始めた。
 お腹辺りを摩っていた掌が上がって、乳房を覆い掴んだ。
 「ふふふ、こうして見ると、お前の身体はあの頃と比べて、確実に脂が乗ったようだな。少し身体の線が崩れて、疲れてきた感じはある。が、そこが良いんだ」男が自分に言い聞かせるように云った。
 ああ、脂が乗ったとは、少女が女に、女が人妻に、そして熟女に辿り着いた遍歴を褒め称える言葉なのでは…。
 思考が頭の奥で渦を巻く。そうなのか…清美は私の気づかぬうちに良いに女なっていたのか。
 清美の後ろ姿…脂が乗ったと云われた肉厚を改めれば、寝床を一つにしていた頃を思い返す。数年前、私はこの身体を抱いていたはずなのに…。


 「清美どうだ、脂が乗ったところを自ら口にしてみろ」
 男の言葉に、清美が微かに顔を上げた。
 ひょっとしてこれは、記憶の再現?…二人だけが知る秘密の儀式の始まりなのか。
 「さあ、お前の身体の変化を素直に言葉にするんだ」
 「はぁぁ…っぅ」
 苦しそうで、唸りのような、聞いた事のない響きが聞こえる。
 「ほら、どうした」
 「あぁぁ…意地悪を…」
 「ふんっ、正直に云え!」
 「うううッ…わ、分かりましたぁ」
 「………」
 「こ、ここ…オ、オッパイが、こんなに…」
 「ああ、分かる。乳輪も大きくなったし、乳首の色もな」
 「あぁぁ…」
 「他には」
 「…お腹も」
 「そうだな」
 「は…い。こんなにお肉が、付いて…」
 「ああ、それもなかなか良い具合だ」
 「あ、ありがとう、ございます…」
 「さあ、他には」
 「あぁ…ア、アソコ…です」
 「どこだって」
 「くっ、アソ、アソコ…」
 「違うだろ、ほらッ」
 「あぁッツ、オマンッ、オマンコですわ!」
 その瞬間、吐き出された淫語4文字が、私の脳髄に突き刺さった。清美は今、間違いなく淫部の呼称を口にした。男からのあの手紙に書かれていた通りに。


 「ふふ、今でも言えるじゃないか。じゃあ、年季が入ったお前のマンコを拝もうとするか。ほらッ」
 まさかの男の指令に、又も私の脳みそが震え出した。本当に男は、清美のアソコを拝むと言うのか。そして清美は、それに従うのか!?
 私の息苦しさなど知るはずもなく、清美の両膝が外側に拡がっていく。
 「ふふふ、あの頃と同じ男が立ち小便をする格好だな」
 「あぁ…ッ」
 清美が鳴きの声を零し、それに重なるように、私も小さな呻きを上げた。清美は今、陰毛を掻き分けアソコを拡げている。
 「さあ、その次は」
 憎らしいまでに落ち着き払った男の煽りが続く。清美がフラツキながらも、クルリと振り返った。一瞬目が合った気がして、私の鼓動が跳ね上がる。
 素顔の清美を窺えば、その双眸には狂おしく熱っぽい汗が浮かんで観える。
 清美は私の存在など気づく筈もなく、身体が前屈みに、手は尻肉に、足幅をそれまで以上に開げていく。
 中腰から男に向かって突き出した臀部。
 見れば清美の唇がワナワナと震えている。これは清美にとっての精一杯なのか。それともーー。
 「さあ、それで」
 「ううッ、せ、先生、み、見て…見て、下さいッ!」
 「どこをだね」
 「あぁ、お尻…この太々しいお尻、ですわ…」
 「ふふっ、覚えてるぞ。あの頃も今も、尻(ケツ)は豊満だな」
 「は、恥ずかしい…」
 「ふん、じゃあその奥は」
 「うううッ、オマン、オマンコを…」
 「ふふっ、そうだ」男が薄く嗤う。「さあ拡げろ。しっかり拝ませて貰うぞ」
 「あぁ…っ」
 「そのまま手を付いて四つん這いだ」
 あぁ清美、お前は男のいいなりなのか…。鳴きの表情を浮かべながらも、清美が膝を折ると、うつ伏せに屈み込んだ。


 「よし、そのまま顔を上げて尻(ケツ)を突き上げろ」
 男の指示通りに背筋は反り返り、その向こうに丸い膨らみが見えた。更にその後ろには、ベネチアンマスクを着けたままの男の顔。
 今、男の視線が清美の恥部に撃ち込まれているのだ。
 「ふふふ、良い眺めだ。尻(ケツ)の丸味も、腰の肉付きも年相応の色気に満ちているぞ。それにお前のマンコは、年季が入ってドドメ色になっているな」
 「酷い、ドドメ色なんて!」四つ足のまま、清美が首を捻って男を見返す。
 「そんなに怒るな。それにしても良い眺めだ」
 男が口にした『眺め』とは、女が無防備に恥部を曝して、服従の意思を伝える格好なのだ。私の胸は苦しくなる一方…なのに、下腹部がムクムクしてくるではないか…。それにしても、この覗き穴から見る世界は、現実の出来事なのか。妻になり、母親になった清美が、淫部を曝すなんて。
 「さてと」男が一呼吸置いた。「お前に訊いておきたい事があった。その格好のまま答えてもらおうか、その格好でだぞ」
 改まった男の声かけに、私も緊張を思い出す。清美は服従の格好(かたち)で、男を待っている。その表情は今にも泣き出しそうな気配だが、この状況さえもマゾと呼ばれた女には堪らないシチュエーションなのか…。