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第33話
舞台では珠美さんこと、T子さんのオナニーショーが続いている。それを横目に見る私は、由紀子さんに股間を握られていた。
「うふふ、Kさんのココ、ますます巨(おおき)くなっていくわ。やっぱりT子さんを奥様だと思って…」
いや、違う…と否定しようとしたが、それよりもだ、このところ不能だったアソコが、反応した事に戸惑う私がいる。
「改めてKさんも変態って分かって嬉しいわ」
「………」
「ねぇ面白い事、教えて上げましょうか。舞台の奥様はね…」
え、違うだろ、あれは珠美さん…と口にしかけたが、文字通り急所を握られ、声が出せない。
「奥様は以前からオナニー中毒でねぇ、その様子を自撮りしてたのよぉ」
いや、だから、あれは妻では…それに自撮りなんて…。心の呟きは声にならず、アソコだけが膨張していく。
「知ってます?今は自分で撮った卑猥な動画を、載せれるサイトが幾つもあるんですよ。奥様はそのサイトに、ほら、あんな恥ずかしい動画を載せてるんです」
私は由紀子さんが顎を振った方向に、目を向けた。そこでは、四つん這いの珠美さんが先ほどよりも更に高く、尻を突き上げていた。
パックリ開ききった穴には指が2本、ジュルジュル出し入れが繰り返されている。その卑猥な姿を見る私の頭には、先日の夜に目撃した妻のオナニーシーンが浮かんで来た。
「あぁ凄いわ、こんなに硬くなって」
甘ったるい声が、耳元から忍び寄ってきた。胯間では、由紀子さんの手が卑猥な動きを繰り返す。
朦朧とし始めた意識の中で、二つの女の姿が重なる。あの痴態を曝し続ける女は、本当はどっちなのだ。
「あぁアタシなんだか、コレが欲しくなってきたわ」
太腿が震え、私は立っているのが辛くなってきた。しかし。
「な~んてね」と、仮面の奥の目がニタリと嗤った。
「ここで射(だ)すのもいいけど、まだ取っておいて下さいね」
「………」
「後ほど、アタシと一緒に舞台に上がりましょうよ」
「え、それって!?」
「そうよ、疑似夫婦って事で、二人で白黒ショーをするの」
「いや、それは…」
「いいですか。ここに奥様がいたとして、ご主人の存在に気付いたとしたら、案外、嫉妬心に駆られて愛情が深まるかも」
そんな…まさか。私は何か云おうとしたが、やはり声にならなかった。気が付けばいつの間にか、由紀子さんの手が私の胯間から離れている。その時。
「いぃのおッ、逝きそう、逝ぐッ!」
フロア中に、珠美さんの喜悦の声が轟いた。
逝き声を晒し、突っ伏した珠美さんだったが、司会の男に腕を取られ、介抱されるようにフロアの隅へと消えていった。
ショーを見守っていたこちら側では、妖しい仮面を着けた者どうしが『初めての女』の品評を始めている。
私は改めて周りの様子を窺うが、妻の存在は分からない。しかし、私が妻に気付いたとしたら、それは私も妻に見つかる可能性があると言う事なのだ。私はコソコソと自分のテーブルに戻る事にした。
「どうでしたか、興奮しましたか」隣の席に、初老の男が戻ってきた。
私は「ええ、そうですね…」強ばった声で答えている。そこに徳子さんが戻って来るなり「お疲れ様でぇすぅ」誰にともなく言った。お疲れ様とはどういう意味だ、と私は苦笑いを浮かべる。
暫くすると、由紀子さんも戻ってきた。
「さて、次のショーは何だと思います?」
由紀子さんが席に着くなり、仮面の奥から意味深な目を向けてくる。ひょっとして『次』とは、私との白黒ショーの事を示唆しているつもりなのか。
その由紀子さんの口元がニッと笑う。「大丈夫ですよ、心配しないで。次はグッズの紹介みたいです」
「グッズ?」
「ええ、SMグッズの紹介コーナーみたいよ」
私は思わず、隣の初老の男と見詰め合った。男の口元が綻んでいる。
「お待たせしました」
舞台の方から、司会の男とは違う別の声が聞こえてきた。見ればサラリーマンのような白いワイシャツの男が、キャリーケースを引いている。
男はベッドにキャリーを乗せると、中身を取り出した。
「皆さま、私に少し時間を下さいませ。これから、最近人気のSMグッズを紹介させて頂きたいと思います」
男の晴れやかな声が響くと、それからちょっとした実演が始まった。
女性が一人選ばれ、ベッドに上がった。その女性は肌こそ曝さなかったが、服の上から縛られたり、ディルドを口で咥えたりとモデルを務めたのだ。
紹介の途中からは「あれは足枷に手枷ですね」「あれはアナル拡張プラグにアナルビーズですよ」隣に座る初老の男が、嬉しそうに話し掛けてきた。
この男をシゲシゲと見直せば、仮面の奥の瞳がやけに輝いて観えて、あっち方面の人間かと思ってしまう。
SMグッズの実演をよそに、テーブルからテーブルへと挨拶して回る男がいた。やがてその男がこちらにもやって来た。
「楽しんでいますか」
その声は司会の男の声だった。肩から掛けられていた『私が司会です』のタスキは無くなっていたが、胸の所には『Y』と書かれた名札がある。
男はさっと私達を見廻し、由紀子さんの横でしゃがんだかと思うと、二人でヒソヒソと内緒話を始めた。
何を話しているのだ?時折り、二人揃って意味深な視線を私に向けて来る。
男が立ち去ると、由紀子さんが小さな声で「今のがうちの主人、ここでは『Y』です」と、告げてきた。
「本当ですか!」
思わず上がってしまった私の声に、由紀子さんが人差し指を立てて、静にと唇にあてた。その隣では、徳子さんがニヤニヤと嗤っている。
「ええ、本物のアタシの主人ですわ。昔はあんな真似…この様な集まりで司会なんか出来る人じゃなかったのに、不思議なものね」
「………」
「でも、そういった変身はよくある事です」隣から初老の男の声だ。その声が続ける。「ところで奥さん、今日は貴女方夫婦のセックスショーは?」
「ああ、実はそれが、今日はやらないんですよ」
「そうでしたか、それは残念だ」
「すいません。でも、その代わりと言うわけではないのですが、初めてのショーがあるらしいですよ」
「ほう、それはそれで楽しみだ」
私の前を、初老の男と由紀子さんの言葉が、キャッチボールされている。黙って聞いてる私も、気になる内容だ。
「ふふふ、きっと先生もお喜びになるショーだと思いますよ」
先生!?私の中に一瞬にしてハテナマークが浮かんだ。今、確かに『先生』と聞こえた気がする。この初老の男も、由紀子さんやそのご主人と同じ教師だったのか。
「どんなショーか楽しみですな。おっと内容は言わないで下さい」
「勿論ですわ。それにアタシ達も初めて見るショーですから」云って由紀子さんが、隣の徳子さんに嗤いを投げ掛ければ、私だけが取り残された気分がしないでもない。しかし、そのショーとは、実際どういったものなのだろうか。
そう思った丁度その時、ベッドを照らすライトが明るくなった。談笑していた者達の目が、再び舞台に向く。
先ほどの司会の男…由紀子さんのご主人Yさんが、ベッドに上がって、こちらを見廻した。
「さて皆さま、そろそろ次のショーに移りたいと思います。次は今回の案内の際にも云いましたが、初参加の女性による催眠ショーです」
催眠ショー?
「今回はやたらと『初めて』が多いですな」
先生と呼ばれた初老の男の視線が、私の頬に刺さる。
そして『先生』が口にした“初めて”という言葉に、私の胸の鼓動が静かに鳴り出したのだ。