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 USBメモリを鞄に仕舞って、会計を済ませた私は店を後にした。
 今夜は酔いを覚ます、と言ってもそれほど酔ってはいなかったが、少し遠回りをして家に帰る事にした。
 夜道を行けば更に頭がスッキリして来た。その頭の中に二つの影を思い浮かべる。妻の清美の顔と、まだ会った事のない元彼の男だ。
 元彼が言う高校時代の真実、結局その真意は分からない。USBメモリの中には、妻の告白が無かったからだ。
 今回のUSBから分かった事と言えば、由起子さんと徳子さんの秘密の性癖と『社交会』の存在が明らかになった事だ。
 そして最後に、由起子さんはその社交会を2回目の女子会という事にして妻を誘っていたのだ。
 そして妻は、その『女子会』に参加している。いや、由起子さんは『見学』と表現していたが、その真意を妻に問い詰める勇気は、今のところ私にはない。その時の様子は、次のUSBメモリでも来ない限り分からないのだ。
 そう言えば、今回の手紙にも次の手紙の期日が書かれていなかった。レコーダーからUSBへのコピーの作業が終われば、送られて来ると思うのだが。


 家に着けば今夜も妻は寝入っていた。ここ最近の彼女の冷たい態度は、こう言うところにも現れていると思ってしまう。
 私は静かにシャワーを済ませて、寝る支度に入った。
 疲れた身体は直ぐに眠りを求めると思ったが、睡魔は中々やって来てはくれなかった。
 私はベッドを抜け出し、ノートパソコンを取り出した。あの会話をもう一度聴きたくなったのだ。
 USBメモリをセットして、最初から再生する。
 妻の喋りの部分には特に注意をはらったが、私の記憶に間違いはなかったようだ。妻が自ら過去に付いて語る場面はなかったし、最近の心境に触れるところもなかったのだ。
 ただし、この録音は1回目の女子会だけのものなのだ。
 それにしても、妻の友人達の生態の方に驚きを覚えてしまう。
 真木由紀子さんも大田徳子さんも、れっきとした人妻であり主婦でもある。そんな二人が、怪しい秘め事をしている。由紀子さんは夫公認で、徳子さんは完全な浮気だ。彼女達の告白を聞いた妻は、その時どう思ったのだろうか。妻自身は性欲に関して『それほど』と曖昧な言い方をしていた。しかし『ゼロでもない』と、微妙に認めた感じだ。
 そして妻は、本当に2回目の女子会=社交会で、友人達の姿を見学したのか。由紀子さん達は、どんな姿を見せたのだ?社交会の中身が、凄く気になってしまう。それはやはり、アダルトビデオのような世界なのだろうか。


 私は会話の再生を止めて、あるワードを検索にかける事にした。
 『スワッピング 乱交』キーを叩くと、画面にエロ動画サイトの一覧が並んだ。
 中から私は、熟女ものの動画サイトを選択してクリックした。
 目に飛び込んで来たのは、幾つものそれらしい画像画面と、スケベ心を煽るサムネの数々だった。
 私はプレビューを流し読みしてから、その中の一つ、中年夫婦のスワップらしきものを視てみる事にした。
 その動画は素人の投稿物ではなくて、プロの業者のビデオ映像で60分以上のドラマ仕立てのもだった。
 そしてそれは、偶然なのか社交会…いや秘密のパーティーに迷い込んだ中年夫婦の話だった。
 ビデオの主人公は役所勤めの人妻。女は夫の上司に騙され、夫婦揃って怪しげな集まりに参加する事になる。
 夫婦は目の前で披露される同年代の人妻の痴態に激しいショックを受ける。そんな夫婦の横に夫の上司が座って、性の手解きをする物語だった。


 ドラマの中、上司の男は慣れた口調で、夫婦に奥深い暗示を投げ掛けたーー。
 『奥さん、恥ずかしがらずに目の前の女を見てごらんよ。この人も貴女と同じ人妻なんだ。年齢だって貴女に近い』
 場面はホテルのスウィートルームで、ベッドの回りを数組のカップルが取り囲んでいる。
 ベッドの上には素顔の中年女性と若い男。二人は生まれたままの姿で、絡みを披露している。
 『ほらね、優れた女の身体ってのは男に合わせられるものなんだ。男が鋳型であるなら、女は液体ってな。どんな形にも納まるのが良い女ってわけだが、じゃあ男の鋳型に合わせられない女はつまらないのかと言うと、そうも言い切れない。開発前の女もいるからね。大事なのは女の意思。男を前に人形になるんじゃなくて、自発的な意志を持つ事なんだよ。
 この奥さんも最初は自分の道具を貸すだけだったが、ようやく分かってきたようだ』
 夫の上司の声を耳元で受け止め、人妻は静かに前を向いたまま。この女性も耳を性感帯に、男の声を受け入れてるように観える。


 『男ってのは自分の欲望本位に行動する事が多いが、この彼は若いけど経験が豊富なんだ。場数を踏んでるから解約精神が発達していて、相手が肉体の賃借関係として割り切って行為に臨めるんだよ。奥さん、分かるかな?』
 男の言葉の意味が分かったのかどうかは分からないが、主人公の人妻は微動だにしない。


 『おや、女の方に我慢が利かなくなってきたかな。この二人は何度か身体を合わせて厭らしい表現に阿吽の呼吸が生まれるようになったが、女の方はまだまだだな。どうやら今夜の勝負は、男のものだ。
 さて、時間はと…』
 男の視線の先が画面に広がり、ベッドの上では女の動きが激しく、絶頂を迎えたところだった。


 ビデオの中、女が最後の雄叫びを上げたシーンを視て、私は大きく息をついた。自分でも思った以上に、映像にのめり込んでしまっていた。
 頭の中には、獣そのものになって、折り重なり、呻き、のたうち回っていた浅ましい女の残像がある。
 男女の絡みのシーンも印象にあったが、ストーリー性にも胸を抉られる想いがあった。
 ベッドにいた女は若い男に手駒にされ、客相手に痴態を曝す女に成り下がったのだ。そしてその様子を見ていた人妻は暗示に掛けられ、やがては同じような女へと変貌を遂げるのだろう。
 しかもこの人妻の横には、夫が座っていたのだ。夫はベッドの女と、隣の妻の先行きを重ねていたのだろうか。
 と、私はビデオの上司の男が、妻清美の元彼とダブって観えた。
 動画はまだ半分も過ぎてなかったが、私は一旦止めた。そして水を一杯飲みに行く事にした。


 キッチンで水を飲んだ私は、自分の部屋に戻る前に妻の寝室を覗いた。
 妻は鼾も掻かず、静かに寝入っている。その寝顔からは、罪の有無を感じない。
 しかし女と言う生き物は、裏の顔を隠し持っているものなのだろうか。
 真木由紀子さんに大田徳子さん、私は彼女達の赤裸々な告白をUSBで聞いている。いや、彼女達からすれば、あれは告白といった大袈裟なものではなくて、面白い遊びを見つけた少女の自慢話なのかもしれない。
 そんな考えを頭の隅に霞ませながら、私は自分の部屋に戻る事にした。
 時計を見れば、深夜の1時を過ぎたところだ。それでも何故か眠気を感じなくなっている。
 私は別の動画サイトも見てみる事にした。
 次に視る気になったのは、SM物だった。サムネのプレビューを読むと、妻が夫の前で調教を受ける話だ。そしてコレも、ドラマ仕立ての物のようだ。


 画面にいきなり広がったのは、テーブルに大の字に縛られた女性の姿だった。そしておっ開げられた股間の前には、男の生尻だ。
 『さぁご主人、これからこの美しい婦人の体内に私の夥しい体液を吐き出させて頂きますよ』
 ビデオの男は言うなり、婦人と呼んた女性の股間に反り勃った肉の棒を突き刺した。
 映像のアングルは男の後ろ姿を捉え、筋肉質な生尻が規則正しい動きを続ける。バンザイの格好でテーブルの脚に両腕を結ばれた婦人の姿は、私の目には虫ピンで止められた蝶のように観えた。
 婦人の口からは『嫌よ嫌よ』と、抗いの声が上がる。しかしやがて『やっぱりいいわ!』感泣の声に変わった。
 『そうですよ奥様、飢えた人間にテーブルマナーは不要ですよ。さぁ遠慮なさらずに』男が腰を振りながら、婦人を追い込んで行く。


 男の言葉に、むっちりと実った婦人の美しい御足が、男の腰を挟んで跳ね上がった。婦人のその様は、完全に己の保身反応を麻痺させている。
 『ヒィーヒィーっ』ビデオの声が、妻の声に重なって聴こえるようだ。男に串刺しされて蠢く婦人の姿も、妻に重なって行く。
 両腕をロープで、腰を男に制圧された不自由な状態で、のたうち回る婦人は、麻薬の禁断症状から逃げ惑おうとしてるようだ。
 『もっともっと抉って下さいッ!』
 『あらあら奥様、なんて品格のない言い方を』ビデオの男がニヤリと嗤う。
 『うううッ、だって…』
 『はいはい、分かりましたよ。私の物がもっと欲しいのですね』
 『そう、そうなのっ、だからもっと激しく突いて下さいッ!』婦人は必死に追いかけている。本当にあと一歩のところなのだ。しかし男が、お預けを喰らわせて女体を支配している。
 私はそれが造り物のビデオである事を忘れて、ノンフィクションの出来事に覚えてしまっていた。
 「清美…」私の口から無意識に妻の名前が出た。妻もビデオの婦人のように、元彼の残酷で不完全燃焼な責めに、我を忘れた事があったのだろうか。私はもう一度「清美」と呟くと、拳を握りしめた。