小説本文




 私は我が家へと足を進めていた。
 途中でLINEが気になり、スマホを取り出してみれば、案の定、未読の中に妻からのものがあった。
 『帰りは何時頃ですか。眠いので先に休みます』
 妻は既読にならない事にやきもきしたかもしれないが、今はもう眠っているだろう。
 私の酔いは、家に着いた時にはすっかり落ち着いていた。静かに玄関ドアを開けて中に進むと、まずは妻の寝室をそっと覗いてみる。妻は軽い寝息を立てていた。
 一旦自分の部屋に入ると、直ぐにシャワーを浴びる事にした。熱い湯を浴びながら考える事は、妻との何年ぶりかにするセックスの事だ。
 股間のソレを念入りに洗う。コレが先ほどの居酒屋で由紀子さんに握られ、勃起していたかと思うと、モヤモヤした信号の波が太腿の裏を走り抜けた。もし、あのタイミングで店員が来なければどうなっていただろうか。
 浴室から出た私は、裸のまま妻の部屋に行こうか迷ったが、パンツとTシャツの姿で行く事にした。


 音を立てずにドアを開ければ、常夜灯に照らされる寝姿は、先ほどと変わっていない。
 妻の胸元に掛かる布団をゆっくりと捲ってみる。今夜の彼女はパジャマ姿だ。
 「き、清美…」
 私の囁きにも、妻は全く反応を示さない。
 もう一度名前を呼ぶと軽く呻いた気がしたが、直ぐに元の呼吸音がするだけだ。私は緊張を自覚しながらも、妻の上下する胸に手を置いた。そしてゆっくり揉み始める。
 掌に伝わって来るのは、由紀子さんの胸房とはまた違った感触。
 妻の眉間には皺が寄り、鼻息は荒くなっていく。 私は怖々とパジャマのボタンを上から外し始めた。
 妻は思った通り、ブラジャーを着けていなかった。目にする膨らみはいつ以来のものだろうか。乳輪の先の尖りはピンク色ではないが、年相応の味わいを感じる。私は顔を近づけ、舌先をそっと黒い尖りに持っていった。
 「うぅんっ」朱い唇から声が上がった。妻を窺えば、瞳は閉じたまま。
 頭の中に『今のうちに』という言葉が聞こえてきた。私は今、妻を襲うと考えている。それがレイプでも構わない、そんな言葉も聞こえた気がする。そうなのだ、友人達に誘われたとはいえ、怪しげな集まりで他人のセックスのビデオ係りを務めただけでも、それは罰に値する。
 私は妻を見ながらパンツを脱いだ。そして次は妻の番だ、下半身を露にしてやるのだ。
 そっとパジャマの下とショーツを同時に掴むと、ユックリ降ろし始めた。もし途中で目を覚ましたなら、それは仕方ない。
 妻の股間が露になった瞬間、例の手紙の一文を思い出した。
 妻の股間の陰毛は、たしかに黒グロとしていたのだ。
 暫くその剛毛を見ていたが、ソコに顔を寄せながら、太腿の裏側に両手を滑り込ませた。そしてユックリ股を拡げてやる。
 ぷぅんと懐かしいような、それでいて熟した芳醇な匂いを嗅いだ気がしてツバを飲み込んだ。この蜜の中心に私自身をブチ込んでやるのだ。と、自身の男根を握った瞬間、私は戸惑った。硬くなっていないのだ。これはどうした事だ。
 そっと妻を覗けば、目を閉じたまま豊満な乳房だけが隆起している。その様子を見ながら、男根をシコるが一向に硬くならない。
 焦りで身体が熱くなってきた。額には汗が浮いて来る。ベッドに横たわるのは、歳はいっても肉感的で魅力的な身体なのに。


 「うううん」再び朱い唇から呻きが上がった。
 瞬間、私の背中に汗が流れ落ちた。ここで妻が目を覚ませば、あまりにもバツが悪すぎる。咄嗟にそんな考えに至った私は、逃げるように部屋を後にしたのだった。
 自分の部屋に戻った後は、暫く下半身を曝したままだった。ベッドに腰掛け股間のソレを弄ってみるが、大きくなる気配は全くない。長い間、セックスしなかった事が原因なのか。答えなど見つかる筈もなく、ショックで頭を抱えてしまう。
 しかし直ぐに、ある事に気が付いた。妻のパジャマを脱がしたままだった。起きた時に、必ず何かを勘ぐる筈だ。どうしようか。
 私は勇気を出して、もう一度妻の部屋に行く事にした。侵入した痕跡を消すのだ。


 妻の部屋の前に立って、一度深呼吸をする。パンツは履いているが、中の愚息は小さくなったまま。私はソッとドアを開けた。
 そこで私は、驚愕に身体が固まってしまった。なんとベッドの上、素っ裸の女が四つん這いになって臀をこちらに突き上げていたのだ。その秘密の部分で、白い指がグチョグチョ蠢いてる。この女は妻なのか?!
 女の口元からは、何かしらの声が漏れ聞こえてくる。
 私はドアの隙間を覗きながら、その声に集中した。
 「あぁ、オマンコ…もっとマンコを虐めてぇ…」
 それは見事すぎる4文字の淫語。
 そして私は、唖然としたまま妻の自慰行為を覗いていたのだった。




 次の日ーー。
 「それにしたってなぁ…」
 私は昼食の為に寄ったファミレスの席で、ため息を吐き出した。
 食欲はあまり無く、テーブルには半分ほど食べて、そのままの日替わりランチが乗ったまま。
 せめて飲み物だけでもと、コーヒーカップを手に取った。そして例の手紙を読む事にする。
 妻の元彼と名乗った男からの手紙は全て、いつも鞄に入れて持ち歩いているのだ。


 昨夜の妻を思い浮かべれば、この手紙に書かれてあった事と重なるところがあるから参ってしまう。
 手紙にはーーー妻は剛毛と書かれていた。昨夜の彼女を思い出せば、その通りだ。
 手紙にはーーー妻のアナルの横に、小さな小さなホクロが縦に二つ並んであると書かれていた。が、それは確認出来ていない。
 手紙にはーーー妻の左乳首が陥没気味と書かれていた。昨夜はそれほど気にならなかったが、思い返せばその通りかもしれない。
 そしてもう一つーーー、元彼は手紙で、妻を調教する過程で自慰行為を命令したとあった。
 昨夜、私が最も衝撃を受けたのは、自身の男根が不能だった事もあるが、それ以上に妻の自慰(オナニー)を目撃した事なのだ。彼女は部屋のドアの方に臀を向け、四つん這いの格好で淫部を拡げ、ソコに指を絡ませヨガリ狂っていたのだ。その時の妻の妖しいテンション…あれは一種の性倒錯か。
 ひょっとしたら、妻は私が部屋に侵入した時、何かしらの気配を感じて男に襲われる夢でも見たのではないだろうか。そして、無意識に想像を膨らませて自慰行為に陥ったのではないのか。
 その妻は今朝、私の顔を見るとバツが悪そうによそ行きの態度をとっていた…と思ったのは考えすぎだろうか。
 どちらにせよ、元彼からの手紙の内容は、ほぼほぼ事実なのだ。過去の出来事とは言え、それが今に影響を及ぼしている。
 妻は近々、3度目の女子会と称する集まりに行ってしまうだろう。それは泊まりで計画されているらしい。妻の友人の由紀子さんは、妻を試してみてはと私に言ったが、行けばどうなる?妻は社交会で撮影係のような事をやらされ、刺激を受けたのは間違いない。だからと言って、妻が由紀子さん夫婦や徳子さんのように、乱交まがいの事をするとは思えない。が、それは元彼がそこにいない場合だ。もし、その集まりに元彼が来たならどうなってしまうのか。


 この日の夜、私は久し振りに部下と呑みに行く事になった。仕事はいっときの多忙が過ぎて、出張の予定もなくなり、息抜きにはちょうどよいタイミングだ。それに今夜は、妻と顔を会わせるのは遠慮したい気持ちなのだ。
 約束の居酒屋には、残業で少し遅れてしまった。
 通された個室では、部下の二人が早くも盛り上がっていた。妻帯者の吉田と独身の山口だ。
 「あ、お連れ様でぇす。ちょうどいい所に来ましたよ」山口が紅い顔を私に向けて来た。
 「やぁ遅くなって悪い。それで何が『いい所』なんだい?」私が腰を降ろしながら訊くと、吉田がメニューを広げてくれる。
 「俺はいつもの生で」
 私の注文に吉田が店員を呼ぶ為に席を立つ。その吉田を山口が座りながら顎でしゃくる。「聞いて下さいよ。吉田のやつ、凄い事を言い出すんですよ」
 シャツのボタンを一つ外し、私はふうっと息を吐く。そして「で、何がなんだい?」落ち着いた声で、山口を促した。
 「コイツですねぇ、嫁が自分以外の男とやってる姿を見て、オナニーしてみたいとか言い出すんですよ」
 いきなりの話題に、私は呆気に取られてしまった。
 「アホ、そこまで云ってないだろうが」生ビールを注文し終えた吉田が、私の前に腰を降ろす。その吉田の表情を見れば、山口同様に出来上がっている。
 「いや、自分はですねぇ、そう言うのも倦怠期にありかなって」
 「倦怠期って、吉田のところはまだ新婚みたいなもんだろ」と、私が訊く。
 「いえいえ、子供が出来てからは空気が変わりまして」
 「子供か、それは分からない気もしないが、まだ平気だろ」
 「いえ、それがですねぇ」と、隣から山口が口を挟んで来た。「コイツは元々、淡泊だったんですよ。それで嫁さんを満足させてなかったくせに、最近急に歪な考えを持つようになったんです」
 「歪ってなぁ」吉田が山口を睨みつける。
 「そうだろ、嫁が他の男に抱かれるところをって」
 「それはお前が、いつぞやの呑みの席で変な話をしたからだよ」と、吉田が更に山口を睨みつけた。
 確かに、彼等から『寝取られ』の話題が出た時の事を、私はしっかりと覚えている。


 「でもな、嫁さんが黙って浮気するよりは、お前が納得して男に差し出した方が安心だわな」と、山口。
 「あのなぁ」
 「あ、そうか。お前の場合は嫁がこっそり浮気してるところを覗きたいわけだ」
 「だ、か、ら!俺はそんな事、考えてないっちゅうによ」
 吉田がムキになって反撃する様子を、私は冷静に聞いていた。
 「まぁそんなに怒るなよ。でもな、お前の話し方とか雰囲気を見てたら俺には分かるんだよ」と、山口が真顔で頷く。「吉田は普段真面目だけど、そう言うヤツに限って変態気質を持ってたりするんだよな。この間もそうだけど、この話題の時のお前の顔は、いつかは俺もって顔なんだよ」
 「何だよ、その決め付けは」
 二人の部下の押し問答のような会話はそれからも続いたが、その会話も途中からは、私の中には入って来なかった。ただ、奥さんの痴態を覗く吉田の姿が浮かび、やがて彼の姿が私へと変わっていくのだった。
 部下の盛り上がりは、話題を変えながらも続いた。私は適当に相槌を打ちながら飲み続けた。お開きになる時には、かなり酔っぱらっていた。


 今夜は妻と顔を合わせづらい私だったが、その気持ちは酔いのおかげか薄まっていた。
 家に帰り着き、玄関ドアを開けてみれば、静けさが漂っている。時刻もとっくに午前様で、妻は間違いなく寝ている事だろう。
 私の足は自分の部屋に向かいかけたが、妻の部屋の前で止まった。そこで中を、こっそり覗いてみる事にした。
 すると…。
 一瞬これはデジャビュかと、頭の中を昨夜の事態が過った。全裸の妻が四つん這いで、手を股座から股間に充てて弄っているのだ。グチョグチョと鳴る淫靡な音が伝わって来る。その一心不乱の姿に、ゴクリと唾を飲み込んだ。
 妻はアナルまでが丸見えの上、アソコを拡げて膣穴を犯し続けている。
 私は引き寄せられるように妻に近づいた。
 シーツに埋まる横貌を覗き見れば、彼女は目を瞑って甘い呻きを立てている。こちらの存在には、気付いていない…ようだ。
 暫くそのまま目の前の痴態を見てると、身体が熱くなってきた。この女を何とかしないといけないのではないのか。
 その時、甘い呻き声が言葉になって伝わってきた。
 それは…。
 「…オマンコよぉ…オマンコいいのぉ」
 昨夜と同じ4文字の淫語ではないか。
 「あぁんッ犯してぇ、あなた、お願いっ」
 切れ切れの鳴きの声に、私の身体は固まっていた。それにしても、今の『あなた』とは誰の事だ。
 身体の熱がフツフツと高まっていく。こうなったら私が犯(や)るしかない。この女にブチ込んでやるのだ。
 私はズボンを降ろして、股間を露にした。
 しかし…昨夜と同じで、シンボルであるはずの男性器が萎んだまま、全く反応しなかったのだ…。