第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 第8話 第9話 第10話 第11話 第12話 第13話 第14話 第15話 第16話 第17話 第18話 第19話 第20話 第21話 第22話 第23話 第24話 第25話 第26話 第27話 第28話 第29話 第30話 第31話 第32話 第33話 第34話 第35話 第36話 第37話 第38話 第39話
第1話
私が妻:清美(キヨミ)の事を改めて『女』として意識するようになったのは、彼女が同窓会に行ってから、暫く経った頃だった。
当時の事を思い返してみれば『今度、同窓会があるから行ってもいいですよね。もう何年も珠美達とも逢ってませんから』と告げた、妻の事務的な口調が記憶にあるだけだった。
その時の私は、特に何も考えずに『ああ』と生返事をしていた筈だ。
あの時も今も、私達夫婦の仲がおかしい、という想いは全くない。
しかし何処の夫婦もそうだろうが、結婚して20年近くも経てば、夫婦と言えどもただの同居人と言えるのではないのか。まして子供が成人すれば尚更だろう。
因みに私:相良賢一(サガラ ケンイチ)は45歳で妻の清美は44歳。来年の春には結婚20年になるベテラン夫婦だ。子供は大学生の娘が一人いるが、今は地方で独り暮らしをしている。
妻は1ヶ月ほど前のある日の夕飯の席で、ふっと呟いたのだ。
『同窓会って、女の階段が残酷なほどに表れる場所なのよね』
それはあまりにも突然の言葉だったので、食事しながらテレビを視ていた私は、思わず妻の横顔を凝視していた。
妻は今『女の階段が残酷?』とか何とか、云った筈だと私は記憶を探った。
私の視線に気づいたのか、妻はハッと我に帰り、バツが悪そうに笑みを装った。
『ええっと、どうかしましたか。顔に何か付いてます?』
こちらを見つめ返して来た妻の表情を見据えれば、ああ…こんな顔だったよな、そうそう鼻筋は通っていて、口は少し横に大きくて、見た目も中身もシッカリ者だったよな…と、私はほんの一瞬に彼女のイメージを改まっていたのだった。
妻は私の様子に首を傾げたが、直ぐにテレビに視線を移していた。
その夕飯の席では、それ以上の話題はなかったが、私はその夜、久し振りに妻について考えていた。夫婦になる前からの履歴を擦(なぞ)っていたのだ。
出会いは今の職場で、妻が採用された当初の教育係らしき事をしたのが私だったのだ。その時期の事を後から聞くと、彼女は私に一目惚れをしていたらしい。やがて彼女の方から相談を持ち掛けられ、社外でも会うようになったわけだ。
その頃、恋人のいない私は、この落ち着いた感じの新入社員を徐々に気にするようになった。そして二人だけで呑みに行くようになり、ドライブにも行くようになり、後はお決まりの事だった。
当時、私は24歳で清美は23。2人ともまだまだ独身を楽しみたい年頃の筈だったが、何故か揃って結婚を意識していたようだ。と言うのも、身体の相性が良かったからかもしれない。
私には学生の頃から悪友がいて、そいつとナンパや風俗も経験していた。勿論、女性と付き合った経験もそれなりにあった。
妻の方は、これまで恋人がいた時期もあったし、経験人数は2人と正直に教えてくれた。
妻は見た目は細身だが脱げば出ている所は出ていて、引っ込んでいる所は引っ込んでる、昔で言うトランジスターグラマーなタイプだった。
そんな彼女と結婚したわけだが、体型は徐々に変化していき、それでも母性を纏った柔らかい身体は私に安心感を与えてくれていた。娘が生まれてからは、良妻賢母を絵に描いたような雰囲気を持つようになっていった。
私の方も、少しずつ体型に変化が現われた。身長は変わらず177cmだが、体重の方は増え続けて今や70キロ。このまま行くとメタボ真っしぐらだった。しかし見た目は中肉中背で、妻はさほど気にする様子も見せず、貫録が付いてきたと嬉しそうに話すのだった。
とは言え、10年近く妻と肌を合わせた記憶がない。一緒に風呂に入ったのも、娘が小学生になってからは、数えるほどだと思う。
娘が一人暮らしを始めれば、夫婦の間に性行為が戻ると思ったりした事もあったが、今のところソレはない。
互いに性に淡白なのかと、営みがあった頃を思い返してみても、結構好き者の二人だった気がする。変態チックな行為こそした覚えはないが、熱量はかなりあった方だと思うのだ。
夫婦間の交わりはそんな感じだが、今の私は不自由を感じていない。そして私のそう言った意識は、自然と妻も同じだと思い込んでいるのだった。
ーーそんな夫婦の履歴を、ひょんな事から床の中で思い返していた私は、やがて眠りにつき、目覚めた次の日から、無意識に妻を観察するようになっていたのだった。
最近の私は、妻:清美の様子をこれまでよりも気にするようにしている。会話も以前と比べて増えている。
『同窓会に行ってから、化粧が濃くなったんじゃないの』
『え、そんな事ないですよ。気のせいだわ』
『今日は帰りに何処かに寄ってきた?』
『あら珍しいですね、そんな事を聞いてくるなんて』
『今度また女子会があるんだよね』
『ああ、そうですね…この間のが楽しかったものですから』
妻は週のうち半分ほどパートに出ている。駅前にある小さな設計事務所で、事務作業や接客をこなすだけの仕事だが、本人は外の空気を吸うだけで良い影響を受けているようだった。勿論、娘が地方の大学に行った事で、家で一人でいる方がストレスになると言う考えもあったからだと思う。
そんな妻の事だが…。