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第5話
妻の清美が2回目の女子会に行った次の日からは、彼女に対する妄想を落ち着かせた私だった。
その女子会にしても、2回目以降は開催されていない。
私の方はといえば急に仕事が忙しくなり、この1ヶ月の間に出張が2回ほど入った。
出張の際は、出先で妻を心配する事もあったが、彼女は私が居ない間に娘に会いに泊まりで出掛けたりしていた。その証拠…を私から求める事はなかったが、タイミングよく娘がLINEで妻との写真を送ってくれていたのだ。
その写真を出張先で見てると、温もりが恋しくなったりした。けれど家に帰ったからといって、これまで通り妻と肌を合わす事はなかった。
そしてーー。
仕事が一段落したある日の夕方の事だ。
出先から戻った私は、上司に今日の報告をした。それから自分の席に戻ると、机の上には幾つかの郵便物が置かれていた。ソレらを手に取り順番に見ていく。そこに最近は見慣れなくなった昔ながらの茶封筒があった。今時、会社にこの手の封筒が届くのは珍しい。宛先は間違いなく『相良賢一様』になっている。
私は差出人を見ようと、封筒を裏返した。
「ん!?」思わず声が出たのは、『◯◯高校25期同窓会』とあったからだ。勿論、忘れるはずのない名前だ。
妻に届いた同窓会の案内状の差出人…しかし字体は違っている。私はもう一度宛先を確認した。
これは何かの手違いか…そう思いながらも封を開けてみる事にした。
『前略』で始まるそれは、今どき珍しく縦書きの便せんに手書きされた、間違いなく私宛へのものだった。
【相良賢一様 突然このような手紙を差し上げて申し訳ございません。
手に取った貴方は、さぞ驚いている事と思います。けれどこれは、貴方に対する脅しや、交換条件を求めるものではありませんので、落ち着いて最後まで読んで下さい。
そして読み終わった貴方は、必ず続きを知りたくなる筈です。私はそんな貴方に、続きを提供する事を今から約束しておきます。】
そこまで読んだだけで、例えようのない緊張が湧いてきた。
【貴方の奥様 相良清美さん。彼女の旧姓は田中清美さんで、あの頃の周りの皆んなは『清タン』と親しみを込めてそう呼んでいました。
同窓会で何十年振りかに再会した清タン…と呼ぶのは流石にこの齢では恥ずかしいので清美さんと呼びますが、彼女は当時と比べると若干ポッチャリした感じでしたが、笑った時の雰囲気や、我々と話す時の仕草はあの時のままで、思わずその愛くるしさに胸に込み上げるものがありました。
と言うのも、当時私は、短い期間ですが清美さんとお付き合いした事があるのです。】
読み進める私の胸は、息苦しさを覚えていた。手紙を持つ指も、心なしか震えている。
【私達の付き合いは、短い時間でしたが濃厚なものでした。
貴方は清美さんの『初めて』をどのくらい聞いているのでしょうか。清美さんが貴方に初めて抱かれた時、彼女が処女でなかった事は私が一番分かっているのです。】
その瞬間、背筋に電流が走り抜けた。胸の内に生々しさが沸き立ち、息苦しさが増してきた。
【貴方がた夫婦の時間は、来年で20年だそうですね。清美さんから聞きました。その20年と私達の数カ月の中身はどうでしょうか。その濃さを清美さんに訊く勇気はありますか?】
そこまで読んだ私は、不意に人の気配を感じた。
顔を上げると、部下達が目の前に立って、お猪口を上げる仕草をしている。
せっかくの誘いだったが、私はそれを断る事にした。
何処か静かな場所で、続きを読みたくなっていたのだ。
会社を出て駅に向かう私の胸は、不規則な鼓動を発していた。
駅に着いた所で、妻にLINEを打とうとスマホを取り出す。しかし指が震える。
『帰りは少し遅れます』
何とか送り終えた時には、妻の姿を思い浮かべていた。それは制服姿の清美。そしてその横には、見た事のない『元彼』の影。
なぜ、手紙の主はこんな物を送り付けて来たのだ。私の勤務先の情報は、妻から訊きだしたのだろうが。それにしたって…。
電車に乗ってからも、鞄の中の手紙が気になって仕方がなかった。それでも電車の中では、読むわけにはいかない。周囲の目も気になるが、読んだ自分自身の変化に怯えていたのだ。
やがて自宅の最寄り駅に着いたが、家とは反対側の出口に向かった。自分でも分からないが、何故か妻が勤める設計事務所の様子を見ておきたくなっていたのだ。
しかし事務所は、灯りが全て消えていた。時計を見れば、当然の時間帯だ。
そこから私は、以前に行った事のある居酒屋に向かったのだった。