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 影絵の女の告白はまだまだ続いていた。しかし、その声は自白剤によるものなのか、私には分からなくなっていた。気怠そうに聞こえていた声が、徐々に歯切れ良くなってきた気がするのだ。
 「Kさん、アソコが巨(おおき)くなってるんじゃないの」耳元で由紀子さんの囁き声がした。
 言われてハッとなれば、確かに胯間が膨らんでいる。それと先ほどから肌寒い戦慄が、身体を駆け巡っているのだ。


 再び司会のYさんの声ーー。
 「それにしても、貴女と先生は途轍もない変態カップルだったんですね。その辺りの事をもう少し話し下さいよ。ここにいる人達皆んなが、聞きたいと思っていますから」
 その声に、フロア中で頷く気配がした。そういう私も困惑を覚えながらも、好奇心を認めてしまっている。


 「どうですか、貴女はマゾで、SMチックな責めに悦(よろこ)びを覚える女になっていたんでしょ」
 「あぁ…はい、その通りで…SMホテルに行くようになってからは…」
 「ほお、SMホテルに…そこではどんなプレイを」
 「覚えているのは、大きな鏡があって、その前に立って…」
 「続けて」
 「…鏡の前で裸にされて…アソコとかオッパイの先が熱く、なって」
 「分かります。羞恥プレイの一種ですね。それで」
 「そのまま屈むように言われて…しゃがむと、そうじゃない、もっと下品に股を開いて屈めと」
 「厭らしいですねぇ、そんな端ない格好をしたんですか。それからは?」
 「鏡の中の、自分の格好を見ながら、シャブれと言って…先生が、おチンポをアタシの口元に持って、きました…」
 「ふふふ、そのシャブってるところを貴女自身に見るように言ったんだ。どうでした、興奮しましたか」
 「…はい、とても。先生のおチンポはとても臭くて、それでもシャブってると、腿が震えて、アソコがジンジンして、きました」
 「ああ、貴女はやっぱり変態だ。じゃあ、鏡の前でセックスなんかも」
 「あぁぁ、しました…はい、覚えています」
 「じゃあ、その時の様子なんかを」
 「鏡に手をついた状態で、後ろからガンガン突かれ、ました…。それから片足を持ち上げられて、おチンポが入ってるところを、見せられました…。そうしたら、アソコがますますヌルヌルに…」
 「アソコって、ソコの呼称を言わされたんじゃないんですか」
 「あぁっ、そ、そうです。オマンコ!オマンコが気持ちいいって、何度も何度も…」
 「ふぅ~」Yさんが大袈裟に溜め息を吐き出した。「貴女その時、高校生でしょ。恥ずかしくなかったんですか」
 Yさんの揶揄する響きに、又してもフロア中が頷く。


 「それにしても、貴女達カップルは性癖が見事に嵌ったわけだ。でも、貴女には最初から持って生まれた資質があって、実のところ以前からも厭らしい事に興味が深々だったんじゃないですか?どうですか、オナニーもよくやってたんでしょ」
 ああっと、私の中で呻きが上がった。影絵の女が妻と重なってしょうがない。
 「…はい、普段は真面目な女子高生で通ってました。でも、家ではよくオナニー…してました…」
 私の中で、又も声にならない呻きが上がる。
 マイクからは、フンフンとYさんが鼻を鳴らす音がする。
 「先生と変態セックスをするようになってからは、どうなんです?それでもオナニーはしてたんですか」
 「あぁ…はい、先生に無理やりおチンポを突っ込まれるところを、想像したり…売春婦みたいな下着を着けて、卑猥なポーズをとる自分を想像しながら…」
 「なるほど、オナニーも激しさが増してたんですね。しかし、貴女と先生の性癖が合ったのは幸せな事ですよ」
 「…性癖とか、その頃は分かりません、でした。が、いけない事をしてる気持は常にあって、会うのは止めようと思いながらも、会わない時間が続くと…」
 「ふふふ、それも分かりますよ。会わないでいても、会いたくて堪らなくなるわけですね。それで又、虐めて貰いたいと」
 「………」影絵の女が黙ったまま、首肯した。
 「じゃあ、先生とのプレイはエスカレートしていったんでしょうね。その辺りも話して下さいよ」
 「はい…写真も撮られるように、なりました…黒いマスクを、着けさせられて…何が起こるのかと、恐怖がありました。けど、マゾ、マゾ、お前はマゾって言われながら…シャッターを切られると…その音だけで、オマンコがキュウっと熱くなって…」
 「黒マスクでねえ。勿論、下は全裸でしょ」
 「はい、何も着けずに。その姿で、バイブを使われて、鞭で叩かれたり、縄で縛られたりも、しました。でも…」
 「でも?」
 「激しい責めの後は、先生は優しくなって…アタシの身体を丁寧に丁寧に舐めて、くれるんです。憎いはずの相手だと、思っても、全て赦す気持ちになって…」
 Yさんの影が、コクコクと頷く。
 私は、女の告白が薬のせいか、演出なのか、そんな事を考える余裕など無くなっている。それより、鷲掴みされたような胸の痛みが限界に達しているのだった。この女の正体を確かめたい。しかしそれは、恐怖でもある…。


 「他にはどうですか」
 「…そういえば、部屋の中に便器があって…そこで」
 「ほお、当時のSMホテルにも“晒しの便器”があったんですね。そこでどんな事を?」
 「それは、和式便器で、…部屋の中二階みたいな所にあって…そこにしゃがんだんです」
 「ふふふ、その姿が目に浮かびますよ。貴女の尻は、その頃も豊満だっんですかね」
 「たぶん…そこで、お尻が先生の目の前で…アタシの前には鏡があって、目を反らさずに鏡の中の自分の顔を見ろと…」
 「その様子も、写真に撮られたんでしょうねぇ」
 「は、はい…」
 「ところで、避妊なんかはどうしてたんですか」
 「あぁ、避妊は…コンドームをしないのが、普通で」
 「ほおっ!」
 Yさんの声と同時に、周りからも驚きの声が上がった。しかし、その中で私だけが、過呼吸のような息づかいを続けている。
 「避妊はしなきゃと、思ってたんですが…でも気持ちが…」
 「ふふっ、良かったんですねぇ」Yさんが薄く嗤って、そして、カサカサと用紙を弄る音がした。
 「ええっと、まだまだ訊きたい事はありますが、時間の事もあるので、最後の質問です」
 私は無理して唾を飲み込み、視線を影絵に向け直した。
 「今のご主人との事です。はい、夫婦関係についてです」
 その瞬間、私は再び息を詰まらせた。その私の背中に、隣から手が当てられた。由紀子さんが仮面の奥から、嬉しげな眼差しを向けている。


 「ご主人はどういう方ですか」
 「しゅ、主人は、普通の…」
 「普通とは、真面目な人と言う意味ですか」
 「…はい」
 「では、セックスはどうですか?セックスも真面目ですか」
 周りの連中から、笑いが漏れて聞こえた。ここには、真面目なセックスなど無いに等しいのか。
 「どうなんですか、夫婦間のセックスは?」
 「…ノ、ノーマル、です」
 女の答えに、先ほど以上の笑いが起こった。私は被害者意識か、顔を俯けてしまう。
 「貴女ぁ、ノーマルなセックスだったら満足した事なんてなかったでしょ。どうですか、ずっと欲求不満だったでしょ」
 「………」
 「あらら、黙り込みましたか…。じゃあ、質問を変えますね。結婚してから浮気をした事はありますか?」
 「い、いえ…」
 女のその返事の瞬間、一斉にええーっと、揶揄するような声がそこかしこから上がった。
 「一度も浮気した事がない?!でも、信じます。私も以前は、真面目な時期がありましたからね」
 戯けの混じったYさんの声に、ヤジのような朗らかな声がして、私がそっと隣を見れば、由紀子さんが口を押さえて嗤っている。この変態夫婦も、以前は絵に描いたような真面目な夫婦だったのだ。
 「では、聞き方を変えましょう。浮気をしたいと思った事はありますか」
 「あぁ、実は…」
 「ふふん、あるんですねぇ。因みに、相手はやっぱり元彼の先生ですか?」
 私は息を詰まらせたまま、影絵を見詰める。


 やがて「うぅん」と、女の咳払いが聞こえた。そして。
 「…先生と、もう一度…」
 私は大きく息を飲み込んだ。それに今の声が、先ほどまでの声質とは違って聞こえた。催眠状態にあった女は、目覚めているのではないのか…。
 「もう一度変態マゾ女として、調教して欲しいとか?」Yさんの嫌らしそうで、深るような声が女に向かう。
 「そ、それは…いや、それは決して…でも…ああっ、わ、分からない!」
 女の口から嘆きの悲鳴が上がった。それを聞き入れた私の身体がブルブルと震え出した。
 私の震えに気づいたか「ふっ、ふふふふ」隣から由紀子さんの笑い声。
 「まあ、まあ、まあ。少し問い詰め過ぎましたかね、すいません」と云って、Yさんがリラックスの意味か大きく息を吐き出す。
 「でもね、私…いや、ここにいる全ての人は、貴女はもう一度調教を受けたい筈だと思ってますよ!ねえ皆さん」
 Yさんが言い切った瞬間、そこら中から、拍手の波が起こった。
 「それとね」大きい影絵が立ち上がった。「実は今日のこの集まりにね、その先生が来てるんですよ!」
 その言葉の瞬間、私は雷に撃たれたような衝撃を感じた。女の影絵も、背筋が伸びた気がする。
 「では、行ってみましょうか。元彼の先生が別室で待ってますよ」Yさんが立ち上がって、手を差し出している。
 私の顔からは、血の気が引いていく。まさか、隣にいた初老の男が妻の元彼だったのだ。


 呆然となっている私の肩が叩かれた。
 ギリリと首を捻ると、由紀子さんの唇がニヤニヤと歪んでいる。
 「貴方と清美さんは、長らく慣れ合いが生じて、倦怠を生んでいたんですもの…な~んて、今さら理屈っぽい事を云うのは置いとくとして、二人がどうなるか見届けに行きましょうよ」
 由紀子さんの口が、パクパクと動いている。何を云っているのだ、この女(ひと)は。それでも云わんとしてる事は、理解出来ていた。妻が隠し持っていたであろう本質に向き合えと云ってるのだ。
 女…間違いなく妻が、スタッフらしき男に背中を押され、遠ざかって行く。と、私の腕が掴まれた。そして引かれる。私の足がフラフラと動き出した。背中にはフロア中の視線を感じる。連中は私の事をどう思っているのだろうか。


 「では皆さん、こちらでは次の催しを始めたいと思います」Yさんが次のショーの説明をしている。「本日大活躍のN子さんが、乱交ショーに登場ですよ」
 背中にYさんの声が降りかかってくる。
 「それとT子さん。何と初参加の彼女も、勇気を出して乱交ショーに参加です。さあ、我はと思う方は、前の方にお集まり下さい。それと、N子さんはレズにも挑戦したいそうです。その気のある女性がいたら、遠慮せずに」
 フラフラと足が進む私に、Yさんの声が遠ざかっていく。やがて、私はある部屋の前に立ったのだった。