小説本文



 ホテルの外は、まだまだ寒さの残る春の夜だった。
 綾と別れた私は、一人駅への道を歩いていた。
 ラウンジの席を立つ前、綾は言った。
 『その娼婦館をこっそり覗ける様だったら課長を呼ぶね。ダメだったらそこの様子をビデオに収められないか“あの人”に頼んでみるから』


 綾はおそらく“あの方”  “あの人”と呼んだ人間に、その娼婦館とやらに連れて行かれた事があったのだろう。
 “あの方” ・・・ 綾には私以外にも “愛人”? がいたのだろうか。
 私たちは割り切った大人の関係なのだから、綾にも私以外の男がいたらいたでそれは構わないのだが。
 それにしても底知れぬ綾の凄さだ。


 私は気付いた時から、女性を甚振り、陵辱する妄想を持っていた。
 そしてそれとは別に、もし自分の妻が見知らぬ男に寝取られ、陵辱、調教されたら、その時の自分はどうなってしまうのだろう?どんな気持ちになってしまうのだろう? ・・・・・そんな興味を持つようになっていた。
 変った妄想、変った性癖 ・・・ これらを持ち合わせている私は、間違いなく世間一般で言う“変態”の部類に属するのだろう。
 今回私の妻は、綾と言う“女”に陵辱、調教された・・・そして今もされている。
 そして次は“女”に買われようとしている。
 私は妻を女に“寝取られた”男なのか?
 綾が前回私に聞かせたまゆみとの“絡み”の話し ・・・ そしてつい今しがた聞かされた話し。
 たしかにその時、私は興奮を覚えた。
 イスに座ったまま股間が熱くなり、いきり勃つのがわかった。
 そしてオナニー、SEXの禁止に耐えようとする我慢がなぜか快感だった。


 もし・・・・。
 もし・・・・妻の相手が女でなく男だったら。
 その“快感”はどうなる?
 怒りに変るのか?
 それとも今以上の快感に変るのか?


 いや・・・・。
 やはり有り得ない。
 やっぱりまゆみと“男”との交わりは有り得ない。
 私が許さないはずだ。
 まゆみは“綾と言う“女”に身体を許したが・・・。
 男には・・・・・・。


 


 その茶封筒が私に届いたのは、3週間後の昼間のオフィスだった。
 差出人の名は、近藤まゆみ ・・・ 又 綾の遊び心だ。
 中には1枚のDVD.
 それとA4サイズのコピー用紙が1枚。
 そのコピー用紙の真ん中辺りにわずか一行。
 ~娼婦館の女~


 フー ・・・ それを手に取った私は、大きく息を吐き出した。
 どうやら私が、その様子をその場で覗く事は不可能だったようだ。
 だが、ここにこのDVDがあると言う事は、その様子を撮影出来たと言う事だ。


 この3週間、綾の命令?で私は、SEXはもちろんオナニーもしていない。
 会社にはポーカーフェイスの綾がいる。
 そして家には相変わらず“女優”の妻がいた。
 1枚目のDVDで子供たちに向かってメッセージを吐いた妻も、この3週間 家では見事な母親を演じていた。
 あの映像の中の女は、実は妻に似たAV女優だったのではないか?
 綾が今まで私に聞かせた数々の“絡み”の話し・・・それらは綾が私を“おちょくる”為の作り話だったのではないのか?
 そんな考えが浮かんでしまうほど、家の妻は普段と何一つ変らなかった。
 しいて言えば、以前よりも綺麗になった ・・・ と言うところか。
 では身体つきは? ・・・ それは分からない・・・・2年近くSEXをしていないのだから。


 この日の夜もDVDを鞄に収め、前回と同じ漫画喫茶に行った。
 DVDをセットしてヘッドフォンを着けると、お決まりの起動音が聞こえてきた。
 画面に現れたのは大きな扉だった。
 普通の一軒家より、遥かに高い天井。
 その床から天井まである薄い緑に塗られた続き間。
 カメラはその扉の中心を捉えるように固定されているようだ。


 しばらくして画面左右からパラパラと人影が現われた。
 数えたところ人数は5人 ・・・ 全て女性だ。
 これが綾が言った“買う側”の女達か? ・・・ 当然まゆみの姿を見る事は出来ない。
 

 女達の年齢は30後半から50以上もいるのではないか。
 正面からの顔は確認しずらいが、綾が言った通りみんな品があり、それなりの地位がある女性に見える。
 その中の一人に見慣れた顔があった。
 綾だ。
 オフィスで見る落ち着いたスーツではなく、白っぽい清楚なシャツに下はフレアー気味の水色のスカート。
 そして耳には一度も見た事のない大きなイヤリングが光ってる。
 他の女性達は薄いグレーのスーツを着た者、青っぽいワンピースを着た者 ・・・ やはり落ち着いた感じの洋服が多いようだ。


 女達の中で一人だけ飛びぬけて背の高い者がいる。
 しばらくすると、この背の高い女が、何事か声を掛けた。
 その女の声に、他の者達が周りを取り囲むように集まった。
 この背の高い女性が、この場を仕切る“ママ役”なのだろうか。


 ママがその輪の中から離れると、他の4人が横一列に並び、そしてママが扉に手を掛けた。
 ゴクリ ・・・ 私はツバを飲み込んだ。
 私のその音を聞いたわけではないが、一呼吸おくとその女が扉をゆっくり開き始めた。


 あっ! ・・・ 画面中央、開いた扉の向こうに女が立っていた。
 それ以上に驚いたのは、その女達は全員全裸だった事だ。
 私の目の前、いや 画面中央一列に4人の女が綺麗に一列に並んでいる。
 私は直ぐに、その中にまゆみを見つけようとした。


 その時、画面がいきなりズームした。
 誰かがカメラを操作したのだ。
 綾は画面の中で全裸の女達を眺めている。
 と言う事は、間違いなく誰かがカメラを操作しているのだ。


 私の中に別の緊張が湧いてきた。