第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 第8話 第9話 第10話 第11話 第12話 第13話 第14話 第15話 第16話 第17話 第18話 第19話 第20話 第21話 第22話 第23話 第24話 第25話 第26話 第27話 第28話 第29話 第30話 第31話 第32話 第33話 第34話 第35話 第36話 第37話 第38話 第39話 第40話 第41話
第31話
早めに家を出た私は、1時間前には目的のマンションの前に着いていた。
まゆみは、もう既にこのマンションの部屋の中に居るのだろうか。
私はそんな事を考えながら、そびえ立つオシャレな建物を見上げてみた。
近くにファミレスを見つけ、そこで時間を潰す事にした。
窓際の席に腰を降ろすと、そこからマンションの姿、そして通りを歩く幾人の人達の姿を見る事が出来た。
平和な日曜の朝だ。
家族連れの姿も見える。
子供の手を引き、ご主人に笑みを向ける婦人。
清純そうに見える顔の裏には、もう一つ別の顔を持っているのではないか。
そう言えばオーダーを取りに来た女性 ・・・ 中年の人妻の雰囲気だ ・・・ あの女性の心の奥底にも卑猥な願望があるのではないか・・・。
私はそんな妄想を頭の中に広げながら時間を過ごした。
11時5分前、私はゆっくり席を立った。
エントランスに入ると免許証を取り出した。
そしてインタフォンで1・9・0・3 ゆっくり丁寧にその数字を押した。
『はい・・・』
小さく透き通るような男の声が返ってきた。
武? ・・・・一瞬その名前が頭に浮かんだ。
私は黙ったまま、手に持ってい免許証をモニターの前で翳(かざ)してみせた。
『・・・・・・』
ガチャリ ・・・ 扉が開いた。
エレベーターに乗ると、⑲のボタンを押し、目を閉じた。
“あの小説” のゆうじにもよく似た場面があった。
“かおり”が『御主人様』と呼んだ男に会う為に、ホテルに行った場面だ。
ホテルとマンションの違いはあるが、どちらもオシャレで豪勢な造りだ。
小説では部屋の中で待っていたのは、“森川”と名乗るヤクザだった。
このマンションの部屋の中で、私を出迎えてくれるのはどんな人物なのか?
ドアの前で部屋番号を確認した私は、一呼吸置いてインタフォンのボタンを押した。
直ぐにガチャっと鍵の回る音がしてドアが開いた。
目の前に男が立っていた。
(・・・・・・・・・)
(・・・・・・・・・)
「近藤ゆうじさんですね」
優しそうな声とそれ以上に優しそうな表情だ。
私が黙ったまま頷いたのを確認すると、男はくるりと背を向け歩き出した。
スマートな体系に黒いタキシードが似合っている。
男の背中に導かれ、私はリビングへと通された。
玄関、廊下、壁、そして所々に飾られた絵画・・・それは見事なまでゴージャスな部屋だった。
ホテルのスイートルームのようなリビングで、私はソファーの一つに腰を降ろした。
(・・・・・・・・・・・・・・・・)
(・・・・・・・・・・・・・・・・)
「あの・・・あなたが・・・武さんですか?・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・いいえ。私は“森川”と言います」
「えっ!!」
「どうかされましたか?」
「い いや・・何でも・・・・」
裏返った私の声に、男が頷いた。
「近藤さんが今言った、“武(たけし)”と言う者はここには参りません。私は森川と言いまして本日の司会をさせていただく者です」
そう言って男が丁寧に頭を下げた。
まるで一流ホテルの支配人の様だ。
私はその言葉に、目の前の50近い男をやっと落ち着いて見る事が出来た。
「近藤さんを御案内する前にいくつか注意点があります。よく聞いて下さい」
(・・・・・・・・・・・・・・)
私は男の顔を見つめ小さく頷いた。
「会場はこの部屋の下です。下と言いましてもこのマンションは、メゾネットタイプといって2層になっているんです。廊下の先にある階段で下に降りてもらいますと、改造した部屋があります」
「改造?」
「はい。元々3つあった部屋の壁を壊して2つの部屋にしました。大きな部屋と小さな覗き部屋です。その2つの部屋は大きな鏡で間仕切りをしています。大きい部屋の方が会場となる部屋です」
「鏡?・・・ですか・・・」
「はい。その鏡と言うのは、会場側から見れば鏡なのですが、覗き部屋から見ればマジックミラーになっているんです」
「マジックミラー・・・・・」
「はい、マジックミラーです。よくSM小説の中に出てきますよね」
男が真顔で答えた。
「近藤さんは、その覗き部屋で今日一日過ごして頂きます。ですから近藤さんは、会場に入る事は出来ません。ただし会場の音や声は覗き部屋の方に聞こえるようにしてありますので安心して下さい。逆に近藤さんの声は向こう側には聞こえる事はありませんので、例え大きな声で叫ぶ事があったとしても、それは向こうに届かないと言う事を覚えておいてください」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それと一番大切な事ですが、本日は4名の女性と7~8人の男性がお見えになっています。皆様素顔を晒されます・・・もし、その中に知ってる顔があったとしても・・・ここで見た事は決して誰にも言わないでください・・・・よろしいですね」
「・・・・・・は はい」
「それと本日の“宴”のテーマは “娼婦館の女”です・・・・」
(!!)
「・・・・・・・・・それでは そろそろ参りましょうか」
男はそう言うと初めてニコッと笑った。
まゆみは、もう既にこのマンションの部屋の中に居るのだろうか。
私はそんな事を考えながら、そびえ立つオシャレな建物を見上げてみた。
近くにファミレスを見つけ、そこで時間を潰す事にした。
窓際の席に腰を降ろすと、そこからマンションの姿、そして通りを歩く幾人の人達の姿を見る事が出来た。
平和な日曜の朝だ。
家族連れの姿も見える。
子供の手を引き、ご主人に笑みを向ける婦人。
清純そうに見える顔の裏には、もう一つ別の顔を持っているのではないか。
そう言えばオーダーを取りに来た女性 ・・・ 中年の人妻の雰囲気だ ・・・ あの女性の心の奥底にも卑猥な願望があるのではないか・・・。
私はそんな妄想を頭の中に広げながら時間を過ごした。
11時5分前、私はゆっくり席を立った。
エントランスに入ると免許証を取り出した。
そしてインタフォンで1・9・0・3 ゆっくり丁寧にその数字を押した。
『はい・・・』
小さく透き通るような男の声が返ってきた。
武? ・・・・一瞬その名前が頭に浮かんだ。
私は黙ったまま、手に持ってい免許証をモニターの前で翳(かざ)してみせた。
『・・・・・・』
ガチャリ ・・・ 扉が開いた。
エレベーターに乗ると、⑲のボタンを押し、目を閉じた。
“あの小説” のゆうじにもよく似た場面があった。
“かおり”が『御主人様』と呼んだ男に会う為に、ホテルに行った場面だ。
ホテルとマンションの違いはあるが、どちらもオシャレで豪勢な造りだ。
小説では部屋の中で待っていたのは、“森川”と名乗るヤクザだった。
このマンションの部屋の中で、私を出迎えてくれるのはどんな人物なのか?
ドアの前で部屋番号を確認した私は、一呼吸置いてインタフォンのボタンを押した。
直ぐにガチャっと鍵の回る音がしてドアが開いた。
目の前に男が立っていた。
(・・・・・・・・・)
(・・・・・・・・・)
「近藤ゆうじさんですね」
優しそうな声とそれ以上に優しそうな表情だ。
私が黙ったまま頷いたのを確認すると、男はくるりと背を向け歩き出した。
スマートな体系に黒いタキシードが似合っている。
男の背中に導かれ、私はリビングへと通された。
玄関、廊下、壁、そして所々に飾られた絵画・・・それは見事なまでゴージャスな部屋だった。
ホテルのスイートルームのようなリビングで、私はソファーの一つに腰を降ろした。
(・・・・・・・・・・・・・・・・)
(・・・・・・・・・・・・・・・・)
「あの・・・あなたが・・・武さんですか?・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・いいえ。私は“森川”と言います」
「えっ!!」
「どうかされましたか?」
「い いや・・何でも・・・・」
裏返った私の声に、男が頷いた。
「近藤さんが今言った、“武(たけし)”と言う者はここには参りません。私は森川と言いまして本日の司会をさせていただく者です」
そう言って男が丁寧に頭を下げた。
まるで一流ホテルの支配人の様だ。
私はその言葉に、目の前の50近い男をやっと落ち着いて見る事が出来た。
「近藤さんを御案内する前にいくつか注意点があります。よく聞いて下さい」
(・・・・・・・・・・・・・・)
私は男の顔を見つめ小さく頷いた。
「会場はこの部屋の下です。下と言いましてもこのマンションは、メゾネットタイプといって2層になっているんです。廊下の先にある階段で下に降りてもらいますと、改造した部屋があります」
「改造?」
「はい。元々3つあった部屋の壁を壊して2つの部屋にしました。大きな部屋と小さな覗き部屋です。その2つの部屋は大きな鏡で間仕切りをしています。大きい部屋の方が会場となる部屋です」
「鏡?・・・ですか・・・」
「はい。その鏡と言うのは、会場側から見れば鏡なのですが、覗き部屋から見ればマジックミラーになっているんです」
「マジックミラー・・・・・」
「はい、マジックミラーです。よくSM小説の中に出てきますよね」
男が真顔で答えた。
「近藤さんは、その覗き部屋で今日一日過ごして頂きます。ですから近藤さんは、会場に入る事は出来ません。ただし会場の音や声は覗き部屋の方に聞こえるようにしてありますので安心して下さい。逆に近藤さんの声は向こう側には聞こえる事はありませんので、例え大きな声で叫ぶ事があったとしても、それは向こうに届かないと言う事を覚えておいてください」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それと一番大切な事ですが、本日は4名の女性と7~8人の男性がお見えになっています。皆様素顔を晒されます・・・もし、その中に知ってる顔があったとしても・・・ここで見た事は決して誰にも言わないでください・・・・よろしいですね」
「・・・・・・は はい」
「それと本日の“宴”のテーマは “娼婦館の女”です・・・・」
(!!)
「・・・・・・・・・それでは そろそろ参りましょうか」
男はそう言うと初めてニコッと笑った。