小説本文



綾の妖しい瞳を見つめて、私はベットから起き上がった。
 綾が全裸のまま窓際のソファーに腰を降ろす。
 カーテンが開いたままの窓の向こうに、宝石のような夜景が見えている。


 「綾 何か面白いアイデアが浮かんだ?」
 タバコに火を着けながら、綾の顔を見つめる。


 「ええ、これならゆうじさんも納得するんじゃないかしら?」
 「えっ 本当!?」


 「ふふ・・・・」
 妖しい笑みと悪戯っぽい瞳が、私を見つめ返す。


 「ゆうじさんは、妄想の中でいつも奥様を甚振るでしょ」
 「ああ・・・」


 「ゆうじさん自らが奥様をSMチックに調教する事もあるでしょうけど、一番興奮するのは見ず知らずの“男”がまゆみ奥様を陵辱する事なんでしょ・・・前に話してくれた“あの小説”のように」
 「ああ そうだね」


 「うふふ・・・」
 綾の笑いに、すぐ一つの考えが浮かんできた。

 
 「まさか綾は、“あの小説”と同じように、ヤクザを連れてこようって言うのかい?」
 「えっ まさか、いくら私でもヤクザに知り合いはいないわ」


 「・・・・・・・・・・・・」
 「えへ、私が確認しておきたいのはね、“男”はダメなんでしょって言う事よ」


 (?・・・・)
 綾が怪しいマダムの様な笑みを浮かべる。
 こんな表情(かお)を見せる時の彼女は、必ず度肝を抜くような事を言ったりする。


 「ゆうじさんは、現実の世界で奥様が自分以外の“男”と交わるのは絶対NGなんでしょ・・・・・だからね“女”に相手をさせるのよ」
 「え? ・・・・ それって・・・・・」
 一瞬意味が理解出来なかった私も、すぐにそれに気が付いた。

 
 「うふ ・・・・ そう、レズよ・・」
 私の心を見透かしたように、綾が微笑んだ。


 (・・・・・・・・・)
 「どう、面白いアイデアでしょ・・・・。 “男”じゃなくて“女”に奥様を調教させるのよ。・・・それならゆうじさんも、我慢が効(き)くんじゃない?」


 綾にはよく驚かされる。
 レズビアン ・・・・ 考えても見なかった事だった。
 確かに“男”が相手じゃなくても、現実の世界で妻が陵辱の末 歓喜の声に震える様を覗く事が出来るかも知れない。
 でも・・・・。


 「でも、それも無理だろ・・・・。まゆみにはレズっ気なんてこれっぽちもないよ。それに、そんな“出会い”も無いだろ」
 私は静かにタバコの煙を吐き出した。


 「うふ、“出会い”なら演出できるわ」
 (えっ!・・・・)
 私の顔に驚きの色が浮かぶ。


 「奥様は普段は比較的自由に時間は取れるんでしょ?」
 「まあ・・」


 まゆみは何年も前からファミレスのパートをしている。
 しかしシフトの関係から、一週間ほど前なら時間を調整する事は出来たはずだ。
 ちなみにそのファミレスが、“あの小説”の中で“森川(おとこ)“と出会った場所だった。


 綾がゆっくり服を身に着けながら話を続ける。
 私達の今夜の時間も、終わりが近づいている。


 「まずは奥様をモデルに誘うのよ」
 「モデル?」


 「そう・・・私が通ってる絵画教室にモデルとして来てもらうのよ」
 (・・・・・・・・・・)


 「モデルの話を切り出すのはゆうじさんよ。奥様の美貌や可愛さを改めて褒(ほ)めてあげて誘導するの。 “歳を取る前・・・今のうちにその姿を残しておこう” って誘うの・・・。 “夫として是非記念になるようなものを残したい” って」
 「・・・・う~ん でもそんなに上手く言えるかな・・・・、それにモデルの事は了解を取れたとしても・・・その後のレズの事は・・・・・」


 「・・・・・・・・・・・」
 「君が考えてるのは、そのモデル仲間か生徒の中にレズの女性がいて、まゆみにモーションを掛けるって言うストーリーだろ・・・・・実際 その教室にレズの知り合いなんているのかい?」


 私の疑心とは反対に、なぜか綾の顔は自信に溢れている。


 「ふふふ・・・」
 綾のその笑いに、何かが閃(ひらめ)いた。


 (まさか・・・・・)


 「そうよ・・・モーションを掛けるのは私よ・・・」
 (!!・・・)
 思わず咥えていたタバコを落としそうになる。
 

 「じゃあ 綾 ・・・君は・・・・」
 「うふ そうなの、私 女もOKなのよ」


 驚く私の前で、綾の子供っぽい笑みが続いていた。