小説本文



それから1ヶ月以上が過ぎた。
 週に1~2度、まゆみはモデルに行くと言って出かけている。
 平日の昼や夜であったり、土曜 日曜のどちらかであったり。
 しかし、本当はあれ以来1度もモデルをしていない事を私は知っていた。
 綾の話によると、2人の密会の場所は、都内のシティホテルだそうだ。
 さすがに女2人でラブホテルには入れないだろう。
 

 綾とまゆみの密会が増えるにつれ、私と綾の情事の回数が減るのは仕方なかった。
 2人が会った次の日には、綾からソッと紙切れが手渡された。
 《昨日はご馳走様でした》
 綾はそのうち自分達の交わりをこっそり撮影して、私に見せると言っていた。
 

 そしてある日・・・・。
 外回りから戻った私のデスクの上に、A4サイズの封筒が置かれていた。
 某大手のメール便だった。
 差出人は・・・・“近藤まゆみ” ・・・ 妻の名だ。
 しかしピンときた。
 封筒を上から触った手触り ・・・ 間違いなく中身はDVDだ。


 綾 ・・・ 思わずフロアを見渡し、彼女の姿を捜してしまう。
 手の込んだやり方を、綾は大好きだ。
 私はそれをこっそり持ってトイレに向った。
 個室に入り便座に腰を降ろす。
 綾とまゆみが関係を持って、もう1ヶ月以上だ。
 綾は遂に2人の交わりの様子をビデオに撮る事が出来たに違いない。
 私は急いで封を切った。


 中からはDVDが1枚。
 そしてA4のコピー用紙。
 そのコピー用紙の真ん中辺りに僅か一行。
 ~一人寝の貴方に~


 私の顔から思わず笑みが零(こぼ)れた。
 3年ほど前 “ある人”からもらった“ある小説”。
 その小説の中にも出てきた場面だ。
 小説の中で主人公である“私”が、受け取ったCD DVDに同封されていた紙に書かれていた文字 ・・・・ ~一人寝の貴方に~
 綾は、昔 私が話した“あの小説”のこんなシーンを覚えていたのだ。
 私の中に堪(こら)え切れない興奮が湧いてきた。


 そ日の夜。
 私はDVDをカバンに納め、ある24時間営業の漫画喫茶に入った。
 ここのパソコンでDVDを見るためだ。


 個室のソファーに腰を降ろした私は、早速そのDVDをセットした。
 大きなヘッドフォンを付けると起動音が聞えてきた。
 たしか“あの小説”の主人公“ゆうじ”も妻のDVDを見る場面があった。
 それは望んで見た妻の痴態ではなかった。
 今夜の私が見る物は、長らく望んでいた妻の痴態 ・・・・のはずだ。


 画面が明るくなった。
 白い清潔感が溢(あふ)れる壁紙。
 大きな窓。
 レースのカーテンが掛かった窓の向こう、明るい太陽の下に高層ビルのシルエットが見える。
 昼間のシティホテルだ。


 レースのカーテンの前には、一人の女性が背中を向け景色を眺めている。
 画面が少し揺れ、ガタガタという音が聞えてアングルがピタッと決まった。
 カメラが固定されたようだ。


 気配に女性の顔が振り向く。
 スラットした薄い栗色の髪。
 その毛先が僅(わず)かに肩に届いている。
 ニコッと笑った左の頬(ほお)に片笑窪(かたえくぼ)が出来る。
 まゆみ・・・・。


 まゆみの姿は、エナメルグレーのタンクトップ。
 そして下は黒いパンティー1枚。
 子供を産んで少しふくよかになった身体。
 二の腕、腰、尻、太もも ・・・ 程好い肉が付いた身体は、いかにも熟女といった味のある色気を醸(かも)し出している。


 ゴクリ ・・・ 私は早くもツバを飲み込んだ。