小説本文




 私は神田先生の横を歩きながら、前方に立ち並ぶビル郡を見据えていた。周りでは、この日も普通の主婦にしか観(み)えない熟年女性や、意味ありげなカップルが行き交っている。


 「 “あそこ”は行った事があるんだよね」
 前を向いたまま、先生が顎をしゃくった。
 「え、ええ」
 「うん、優作君の“仕事”に付き合って、覗き役をやってくれたんじゃろ」
 「そ、そうなんです」
 「ふふっ、その覗きの相手が秋葉君夫婦だったと知った時はビックリしたじゃろ」
 「は、はい、それはもう…」
 私はそこまで口にしたところで、頭に浮かんだ疑問を訊く事にした。
 「あのぉ、訊きたかった事があるのですが、よろしいでしょうか」
 先生は前を向いたまま頷く。
 「秋葉先生から悩みの相談を請けた時に、疑似夫婦だとは分からなかったのですか。嘘の告知を受けたとは思わなかったのでしょうか」
 「ふふふ、そんな事か。確かに最初会った時、彼は“妻“と言う言葉を使っていたが、彼が離婚してる事は以前から知っていたからね」
 「え、そうなんですか!」
 「ああ、優作君には細かい事まで教えなかったが、私は知っていたんじゃよ。さっきも云ったが、狭いコミュニティだからね。それに“奥さん”の方も教師じゃったし」
 「あっ!」
 「そう、それを分かってて彼の相談に乗って、色々と提案をしてきたわけじゃよ」
 「あぁ…」
 その時、先生の足が止まった。
 「さぁ、着いたぞ」
 いつの間にか、目の前には昨日も見たばかりの雑居ビルだ。


 神田先生がゆっくりエントランスへと入って行く。私はその背中に声を掛ける。
 「中に秋葉先生がいるんですか」
 「いや、少し遅れて来る事になっておる。けど“準備”は整っておるから」
 告げ終えた先生の表情(かお)には、意味深な笑みが浮かんでいた。その先生がエレベーターのボタンを押す。
 到着したエレベーターに乗り込めば、更に緊張が高まってきた。
 「なぁに、今日はさっきも云ったが教師連中の狭いコミュニティで、皆が性癖を共有し合う為の一歩じゃよ」
 先生の言葉の意味は、咄嗟には理解出来なかった。だが、性的な催しが行われる事は覚悟出来た。勿論、その予兆は感じていた事なのだが。
 やがてエレベーターは目的の階に止まり、再び怪しい入口を潜る事になった。


 事務所の様子は記憶通りで、殺風景な部屋の中を、一人の若者がパソコンと向き合っていた。以前にも見た事のある彼だ。その彼は先生に「ちわっス」と頭を下げると直ぐに又パソコンに向いてしまう。
 「寺田先生、彼は上野君といって、前から私らの仕事を手伝っておる子なんじゃ」
 先生は彼を紹介したつもりなのだろうが、その上野君とやらは上目遣いに私を見ただけだ。私は軽く頭を下げながら、奥に進む先生を追った。


 狭い通路のようなスペースには、これも記憶通りの大きな鏡があった。
 「やっと着いたな。あぁ、膝が痛い」
 先生が膝を摩ってから、鏡の横のスイッチに手をやった。
 パチパチっと光が瞬き、鏡がスーッと透けていく。あの時と同じように、向こう側に部屋が現われた。
 中を覗いた私は、あっ!と声を上げた。そこに全頭マスクの女がいたのだ。


 「神田先生…これは」
 「ふふふ、どうしたね。想定内の事ではないのかね」
 あぁッ…噤んだままの口から、唸りが溢れる。
 「さて、この顔だけ隠して、一糸も纏わぬ姿を曝しているのは、どこの誰じゃろうなぁ」
 先生の言葉を訊くまでもなく、私の目は部屋の中の裸体に引き寄せられている。


 「さっそく女に“客人”が来た事を教えてやるか」
 そう呟いた神田先生の手には、スマホが握られていた。そして、落ち着いた様子で掛け始める。向こう側では、全頭マスクの女がスマホを手に取った。
 ガラス窓を挟んでやり取りを始めた二人。私はその両方を交互に見た。先生の口からは小さな声で『寺田君が…楽しみに…』と聞こえて来る。
 女の方は俯き気味にコクコク頷いている。その素振りからも緊張が窺える。
 「さぁ、この女の勇気と覚悟を拝見しようか」と、先生がスマホを閉じながら告げてきた。


 女がスマホをベッドに置いて、ガラス窓ギリギリの所まで進んで来る。女の目の前は一面鏡で、そこには自分の卑猥な姿が映っている筈なのだ。
 私は息を詰めて女を見つめる。女の裸体は妻とそっくりだ。ひょっとして女は…いや、やはり久美子なのか、と秘めていて想いが頭を過ぎった。
 今朝いきなり“急用“が出来たからと出掛けた妻。久美子は、同じストレスを抱える同種の教師の為に、その身を捧げる決心をしたのだろうか。その覚悟を示す振る舞いを、夫の私の前で行おうとしているのか。
 女ーー久美子(?)がその場で足を拡げていき、膝を張ってガニ股開きで中腰だ。両手は首の後ろで組まれて、あの夜の妻と同じ格好…そう、マゾ気質の女が、不自由な姿勢で無抵抗の意思を示す姿だ。


 「ん、どうした寺田先生。女と奥様を重ね合わせておるのかな」
 「ううッ、この女性はやっぱり…」
 「さぁ、どうじゃろうな。まぁ、始まったばかりじゃし楽しみにしてなさい」
 「………」
 口を閉じた私の前では、女が腰を廻し始めている。そのぎこちなさも、妻とそっくりだ。
 私は更に前へと顔を寄せた。鼻の頭がガラス窓にあたる。そこで抉るように目の前の肉体を見詰める。
 豊満な乳房も記憶通りのものだ。その下の剛毛も。パンツの中、私のアソコが硬くなってきた。
 と思った時だ。女の舌がニュルっと伸びて、宙を舐め回し始めた。そして両手で、胸の膨らみを鷲掴んで揉み出した。時おり股間の剛毛を掻き分ける。突起を弄り、膣穴にも侵入を始めた。これは完全に自淫の構図ではないか。
 朱い唇が艶めかしい。その唇が、堪らないわ、そんな言葉を吐いている、ように映る。


 女の揺れは、ますます激しさを増していった。腰が左右上下に揺れて、乳房もユサユサ揺れている。そして遂に、その身体がガラス窓に突っ伏した。
 しかし女は、そのまま乳房を押し着けた。乳房はそこで、グリグリ擦り付けられていく。潰れた乳房の中心、乳輪は目玉のようだ。股間の恥毛も、海藻のようにへばり付いている。
 頭の中で記憶が蘇る。これは、あの夜の“ヤモリ”だ!


 息を付くのも忘れたように、私は女の痴態に魅入られていた。
 やがて女がクルッと背を向けた。いや、尻を向けた。
 今度は中腰で尻を押し当ててきた。女は後ろ向きで、股座の中心をガラス窓に擦り付けるのだ。
 ガラス窓に貼り付いた女のアソコはアワビのようで、そのグロさは奇妙にエロチックだ。
 目を凝らせば、女のソコが濡れている。変態的な姿を曝して、早くもビショビショにしているのだ。


 「ふふふ、どうだね、この女、あなた好みの変態女かね?」
 その声に顔が跳ね上がった。
 「ふふっ、分かってると思うが、この女(ひと)も教師なんじゃよ。こうやって自分の性癖を満たして、自身のストレスも解消しておるが、免疫も付けているのじゃよ」
 「免疫、ですか?」
 「そうじゃよ。さっきも云ったが、いずれこの女にも協力してもらって、教師仲間の“欲”を満たしてやるんじゃ。そう、性欲をじゃ」
 「そ、それはひょっとして、性的な事件などを起こさないように、一種の捌け口にでもしようと考えているのですか」
 「ふふっ、あなたも分かってきたじゃないか。その通りだ。この女も、ようやく理解をしてくれてね。しかしその為には、ある程度の免疫を付ける必要があるわけじゃよ」
 「その実習みたいなものなのですか、コレは…」
 「ああ、その通りじゃ。それにな…おっ」
 先生の声に前を向き直れば、女の臀部の揺れが激しくなっている。ガラス窓にディルドでも着けて、擬似セックスをしているようだ。
 「女も高まってきておるな。では、そろそろ寺田先生の出番じゃな」
 ええッ!その声に衝撃が走り抜けた。私を呼んだのは、そういう事だったのか…。


 「さぁ、ここで脱いで行くか?中でも良いぞ」
 先生の表情(かお)を見れば、愉しげな笑みが浮かんでいる。だが、有無を言わさぬ感じだ。
 「どうしたね。あの“薬”がないと出来ないかね?」
 ううっ!その瞬間、頭の奥で、甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな匂いが広がった、気がした。
 「寺田先生、さぁこの女との“契り“を見せておくれ」
 あぁ、久美子…。
 「あなたも、本当は私らの仲間になりたいのだろ。そんな事は分かっておるんじゃ。さぁ、ここらで覚悟を決めるのじゃ」
 私は黙ったまま、先生の顔と黒マスクの女を交互に見た。やがて身体が、フラフラとマジックミラーのドアへと進んだ。振り返る事もなく中に入って行ったのだ。


 私が中に入っても、妻の方は中腰の姿勢のままで、鏡に股座を擦り付けていた。朱い唇からは、呻き声が漏れ聞こえてきた。そう、声は向こう側には聞こえないが、ここでは聞こえるのだ。
 やがて妻が、私に気づく。しかし、驚いた様子もなく腰を上げると近づいてきた。そして、黙ったまま私の手を取った。
 手を引かれて、鏡の際へと私達は進む。鏡には自分の姿がハッキリと映ってみえる。間違いなく私は今、あのマジックミラーの部屋の中にいるのだ。向こう側にいる神田先生は、私達夫婦の姿をどんな気持ちで覗くのだろうか。
 妻の方は、視られている事など頭にないのかもしれない。その妻が跪き、私の股間に唇を寄せてきた。久美子…私は聞こえないほどの小さな声で呟いた。


 ズボンのベルトがカチャカチャと外されていく。その音が妙に生めかしい。妻はまるで、餌にありつくように私のパンツを降ろしていく。
 下半身を曝した私は、チラリと鏡に横目を向けた。遂に私は、自身の濡れ場を他人様に見せるのだ。そんな私の一物は半勃ちで、久美子が匂いを嗅いでいる。
 黒マスクの口元から覗く唇が堪らなく厭らしい。その唇が私のソレを咥え込んだ。
 ジュルジュルと厭らしい音が零れ出る。唾液に塗(まぶ)される気持ち良さは記憶通りだ。しかしそれとは別に、身体の中に怪しい高鳴りが沸いてくる。ミラー越しとはいえ、他人に見られているという事が快感なのだ。
 頭の奥では、以前に読んだ寝取られ小説のシーンが浮かんでいた。夫婦揃って痴態を曝すシーン。こうなったら、犯(や)らねば、ならない。そんな想いが駆け登ってきた。アソコが痛いほど硬くなってくるではないか。


 妻の手を取り、立ち上がらせた。そして身体を、シッカリ抱きしめる。そして口づけだ。薄目に横を観(み)れば、鏡の中に怪しい夫婦がいる。
 プハっと唇を離して、妻の両手を鏡に着けさせた。そして軽く腰を引く。中腰で突き出た丸い臀部を見下ろせば、その丸味が、好きにして下さい、と訴えてる気がして屈み込んだ。そして割れ目を拡げてやる。ソコの奥は既に、ネットリと液まみれだ。その様に私のアソコがピクピクと波を打つ。私は硬度を携えたソレを握って立ち上がった。上着に手をやり、脱いでいく。
 やがて、鏡に映ったのは共に全裸姿の私達。二つの裸体を視ると、ゾワゾワと身体が震えてくる。しかし、これこそが待ち望んでいたトキメキではないのか。視れば、鏡の中の顔が醜く歪んでいく。あぁ…これが私の本当の顔なのだ。


 私は妻の臀部を一打ちした。さぁ久美子、覚悟を決めて一緒に白黒ショーだ。私達が変態夫婦である事を世間に知ってもらうのだ。
 それッ!心の中で気合いを入れて、泥濘に肉棒を突き刺した。
 「んーーッ!」朱い唇から、何とも言えない呻き声が上がった。この後に及んで、声漏れを気にしているのか。妻こそ、まだ恥じらいを覚えていると言うのか。
 それでも私は、妻の様子など気にせず腰を振り始めた。
 鏡の中では、怪しい黒マスクの女を犯す私。心の奥から、言いようのない興奮が湧いてくる。あぁ、私は…私も変態で間違いなかったのだ。この意識こそ待ち望んでいたものに違いない。勿論、妻と一緒という事が何よりの喜びなのだ。さぁ久美子、早く厭らしい声を上げてくれ。そして素顔を曝してくれ。


 額からは汗がポタポタと丸い尻へと落ちて行く。その汗を掬って、不浄の穴に塗りたくってやる。そして穴を拡げてやる。
 「久美子、尻(ケツ)の穴が丸見えだよ」
 鏡の中、卑猥な言葉を吐いた男の口元が歪んでいる。そうなのだ、声は向こうに聞こえないから、どんな厭らしい言葉だって吐けるのだ。
 「見えるよ久美子、僕のがオマンコに入ってるところが丸見えだ!」そう叫んで、腰に強度を加えてやった。
 「どうだ久美子、気持ちいいかい!」
 それでも久美子は、ウンウンと呻き声を漏らすだけだった。
 そんな妻の耳元に顔を寄せて囁いた「久美子の厭らしい声を聞かせておくれ。スケベボクロも見せておくれ」
 私は妻の顎の辺りからマスクの中へと指を送り込んだ。そして捲り上げる。と、あんッ!声が上がった。
 それでも私は腰を打ち付けながら、マスクを鼻の上へと捲り上げた。
 「いやーんっ」今度は、悲鳴が部屋中に響き渡った。同時にそれは、私の胸に衝撃となって伝わった。
 今の声は!