小説本文




  「じゃあ、神田先生の下でやってきた“仕事”の話を一つしましょうか。信じられないかもしれませんけど、全部実話なんですよ」


 ここは都内のとあるシティホテルの一室。現役国語教師の私、寺田達夫(テラダ タツオ)38歳の目の前、神田先生の横に座る若者ーー渋谷優作(シブヤ ユウサク)君が話し始めた。


 「その時、お相手したご夫婦は二人とも教員で、中学で先生をやってると仰ってました。歳はご主人が50歳。奥様は一回り近く下だと聞いた気がします。呼ばれたのはご自宅のマンションで、そこの寝室が“プレイ”の場所でした」
 一息で告げると彼は、よろしいですかと目で訊いてきた。私は黙ったまま頷いている。


 「その日の依頼は、こんな感じでした。少し前から御主人がストレスで勃(た)ちが悪くなってきたので、妻を代わりに満足させてくれ。妻も仕事のイライラで欲求不満だから遠慮なくやってくれと、こんな内容のものでした」


 彼が口元を閉じて、もう一度こちらの顔を覗き込んできた。彼の目は、この手の話に付いて来られますかーーそんな事を問いかけてくる感じだ。私は緊張気味に頷いた。


 「プレイの条件として言われたのは、ゴムは着けないでくれ。それとアナルへの挿入はダメ。その二点だけでした。後は好きなように犯(や)ってくれと。『妻の嫌よ嫌よ』は君ならちゃんと理解できるよねと、御主人はそんな事も仰ってました」


 『ゴム』『アナル』、彼が自然と吐き出した言葉の生々しさに、胃の辺りがスウッと冷たくなった気がする。


 「部屋に入りますと挨拶はそこそこに、僕は直ぐに上着を脱ぎました。はい、シャワーも浴びず、それは奥様もそうだったと思いますけど、汗の臭いなんか気にせず抱きしめました。キスをしたら、奥様はチラッと旦那さんの方を気にした感じでしたが、こっちはお構いなしでブチュ、クチュって嫌らしい音を聞かせてやりましたよ」
 彼の言葉遣いが、いきなり『御主人』から“旦那さん”に変わっていた。それに合わせて鋭さも加わった感じだ。


 「上半身裸の俺は、さっそく奥さんのシャツから脱がせました。胸はそれなりの大きさで、ソレが漆黒のブラに包まれてましたよ。スカートを脱がせる時は、股間と尻の割れ目を軽く触ってやりました。奥さんの頬が一瞬ポッとしたけど、そのはにかんだ様子は俺のサディスティックな癖に火を着けましたね」
 又も彼の言葉、『僕』が“俺”に、『奥様』が“奥さん”に変わっている。自ら口にした通りサディスティックな癖が顔を出してきたのか。


 「俺は奥さんの背中に回って、身体を旦那の方に向けてやりました。旦那はソファーに座って余裕を見せてる感じだったけど、内心はドキドキだったと思いますよ。奥さんは俯いてましたけど、今度は後ろから唇を奪ってやって、胸をガバって鷲掴んでやりました。そのままたっぷり揉んでやると、眉間に皺を寄せて困った表情(かお)をしてましたね」


 頭の中には既に、彼が語るそのシーンが浮かび上がっていた。我々教師誰もが感じる病的なストレス。それの解放の為に信じられないような妄想を立てる人達。その妄想を遂に、実行したのがきっと渋谷君の話に出て来た教員夫婦だ。
 私の場合はストレスから逃げるように向かったのがネットの世界だった。そして直ぐに、エロの誘惑に引き込まれた。視まくったのは、妻と同じ年頃の女性の嫌らしい画像や動画だった。もちろん妻には話せる事ではない。が、その“妻”が見ず知らずの男の手管に奴隷へと調教されていくものには異様な興奮を覚えた。まさかこの手の話に、自分自身がのめり込むとは思いもしなかったが、とにかく信じられないような興奮を覚えるようになっていたのだった。他にも、夫婦の体験談や小説なんかも読むようになって、初めて『寝取られ・寝取らせ』という言葉を知った。自分がどっちのタイプかを考えたりもしたが、不思議なもので、その日によって“癖”が変わるようだった。
 私はそれらの寝取られ小説を自分達夫婦に置き換えて、妄想を膨らませるようになった。もし、私と同じ教師という聖職に就く妻が、現実世界で変態チックな調教を受けていると考えたら…。


 と、声がした。
 「寺田先生、大丈夫ですか。訊いてらっしゃいますか。ボオっとしてませんか」
 ハッとして顔を上げると、渋谷君が心配そうに見つめている。
 私はゴメンナサイ…大丈夫です、訊いています、と頭を下げた。
 それにしても目の前の彼、渋谷君の顔を改まって見つめてみると、幼い気もするし理知的にも観(み)える。体付きだって特別にゴツイ感じではない。身長は私より少しあるので175位か。体重はどうだろう、63の私よりもう少しある感じか。そんな彼だが、神田先生から説明があったように、心に闇を抱えた教師の為に“お助けマン”や“男売春”をしているのだ。何でも2年前に予備校を辞めて“この世界”に来たのだとか。
 私はそんな怪しい連中に“相談事”をしているのだ。


 「先生、続けますね。それで、奥さんのスカートも脱がせてやったわけです。ショーツはブラとお揃いで漆黒のセクシーな物でした。俺はそこで一旦、奥さんを跪(ひざまず)かせてジーンズを脱ぎました。奥さんの目の前には俺の股間ですよ。勿論、その時はそれなりの硬さです。それから奥さんの手を俺のパンツの両端に掴ませて…分かりますよね。奥さんの意思で下ろさせたんです」


 彼が口にする『奥さん』、その言葉が聞こえる度に、頭の中には妻の姿が浮かんでくる。そう、私と同じ教職に身をおく妻の久美子(クミコ)37歳だ。
 その妻が若い男の足元にMの字にしゃがみ込んで、牡のシンボルをうっとりした表情(かお)で見上げるのだ。ソレにお仕えする自分を想像して、アソコを濡らすのだ。


 「…先生、何か想像してますか。ふふふ、続けますよ」
 心の中を指摘されて、ハッとした。いつもの癖で無意識に妄想を立ててしまっている。


 「奥さんのフェラチオは、まあまあでしたね。緊張もあったと思いますけど、ちょっとぎこちない感じでした。でもそんな事は気にせず、口元を旦那の方に向けてやりましたよ。その奥さんの髪型はショートボブっていう短めのやつなんです。それが頬っぺたに掛かる部分をかき上げて、向こうに良く見えるようにしてやったんです。旦那の方はクールを気取ってる感じでしたけど、段々と前屈みになってきましてね。こう、グッと乗り出した感じになったんですよ」


 ショートボブ、その単語を聞いた瞬間も妻の顔が浮かんでいた。そう、妻の久美子と同じ髪型なのだ。妻は薄い茶髪なのだが、それもあってか実際の歳、37よりも遥かに若く見られるのだ。


 「奥さんは徐々にフェラチオに夢中になってきましてね。そのうちフンフンと鼻を鳴らし始めました。ああ、この奥さんMだなって分かりましたね」
 (あぁ…エムって…)
 「旦那の方もソワソワし始めましてね。その目はマゾ…たぶん夫婦そろってのマゾだと思いましたよ」
 そう云ったところで、彼がチラリと神田先生の顔を見た。まさかこの期に及んで、夫婦の性癖を語る事に伺いでもたてたのか。見れば、神田先生の方は静かな笑みを浮かべている。その雰囲気は教え子の自慢話を心地よく聞いてる感じか。


 「ある程度シャブって貰ったところで、さっそく挿(い)れる事にしましたよ。チンポを抜いて奥さんを立たせました。後ろからブラを外しまして、その次はショーツ。マンコに触ったら案の定ビショビショでしたね。ああ、やっぱりこの奥さんは変態気質のマゾ女だと思いましたね。初めての男でシャブりだけで濡らしてたんですから」
 (ウウウッ…変態気質って…)
 「ん、何か気になりますか?妄想でも湧いてきましたか」
 「あ、い…いや、続けて下さい」
 ホテルのこの一室は、いつの間にか彼の言葉に支配されていた。そう、私の精神も遥か年下の彼 、渋谷君に弄(もてあそ)ばれているのだ。


 「俺は犬の格好で犯(や)ろうと思ってましてね。ええ、マゾ気質の女にはお似合いじゃないですか」
 彼の口調に私は無意識に頷いている。


 「ベッドの端に手を付かせてね、尻(ケツ)を叩いてやりました。ヒッて声を上げただけで素直なもんですよ。背中を軽く押してやると、いそいそとベッドに上がりましてね。何も言わないのに四つん這いですよ。おまけに尻(ケツ)を無防備にググッと突き出してくるし。大きさは90位はあったんじゃないかな。因みに胸は85位だったかな」


 意識の奥では妻の久美子と、その奥様の姿がシンクロしていた。そう、妻の胸のサイズも尻の大きさも同じ位だ。とは言っても、妻はポッチャリという風でもない。若い頃には体操をやってて、37歳になった今でも引き締まった体付きなのだ。


 「いいですか」
 その声に我に返れば彼 、渋谷君がジッと見つめている。私はコクリと頷いた。
 「四つん這いになった奥さんのその姿は絶景でしたね」
 ああ、四つん這いの裸の女性の姿を『絶景』と呼んだのは分かる気がする。


 「そう、腰をグッと張って首筋から背中が弓を張ったみたいになってね。その先でデカい尻が突き上がっててね。尻肌も綺麗なもんですよ。破(わ)れ目の奥の秘密の部分…そのグロさも良い味を出してたと思います」


 あぁ、又も妻の姿が浮かんで来る。その奥様の隣で同じように四つん這いの格好で、尻を突き上げた妻の姿だ。


 「俺は尻の横に立って破(わ)れ目を旦那に向かって拡げてやりましたよ。たぶん挑発する目付きで、こっちに来いよって云ったと思います。ああ、言葉には出してませんよ。目で云ったんですよ」
 彼の口振りは女の扱い…いや、夫婦の扱いに長けてる感じを思わせる。私は息を詰めて次の言葉を待っている。


 「マンコを拡げてますとね、旦那がソファーから降りて近くまで寄って来たんです。ええ、虫が蠢くみたいにね。そこから屈んでアソコを見上げるんですよ。何度も見てきた筈のソコが新鮮に観(み)えたんでしょうね。至近距離から抉るように見てましたよ」
 そこで言葉を切った彼の目が“あんたも見たいかい”、と問い掛けてる気がする。


 「奥さんの破れ目をもう一度グイって拡げました。ケツの穴まで左右に引っ張られて、マンコも中まで丸見えです。そこに上から唾を垂らしてやったんです。唾液がアナルから破れ目に流れるのを見て、軽く指を入れてやりました。瞬間、ヒィーーって声をあげました。たぶん逝ったんですね、あれ」
 淡々と話す彼の表情(かお)の中には、サディスティックな色が見て取れる。
 私の顔には早く続きを訊きたい…そんな興奮の色が滲み出ている。


 「俺もベッドに上がりましてね。コレを握って旦那に見せつけてやりました。今からコレで、奥さんをヒーヒー言わせてやるぞ、って感じです」
 彼が自分の股間を指さしている。
 「先っぽをググッと挿(い)れると、直ぐに向こうから飲み込んで来ましたよ。奥まで突き刺すと、アアアーーッて凄い声を上げて早くも絶頂ですよ。俺も嬉しくなって煽りを入れてやりましたよ」
 「あぁ、それは何て…」
 「ん、ええ。奥さん、マンコの中 トロトロじゃん、欲しかったんでしょ若い男のチンポが、って」
 「あぁ…それで」
 「へへっ。奥さんはガクガク頷きながら良いわ良いわって唸るだけですよ。だから俺、ケツをパチーンって打ってやりましたよ。その瞬間、ハアーーンって鳴きを上げましてね。その声は媚びが混じったもの。そう、マゾ特有のものでしたね」
 「だ、旦那さんは…」
 「ん、旦那は何か呻いてましたね。インポ気味のアソコが反応したんじゃないですか」
 「あぁ…じゃあ効果が…」
 「さあ、その時は分かりませんでしたよ。俺は尻(ケツ)を向けて奥さんと犯(や)ってる最中ですから」
 「そ、そうですよね…」
 「ええ。それでね、俺は出し入れを速めてズボズボやらしい音を立ててやりましたよ。チラッと後ろを見たら、旦那の顔が結合の部分の直ぐ近くですよ。俺の金玉にも息が掛かる位です。俺の方はまぁ慣れたもんで、奥さんに煽りを入れてやるつもりで教えてやりました」
 「あ、な…なんて」
 「ん、旦那さんが見てるよッ。旦那がマンコに若いチンポが入ってる所を近くから覗き込んでるよッてね」
 「ウアッ…で、奥さんの反応は…」
 「イヤァンーって叫びましたけど、それこそアレですよね『妻の嫌よ嫌よ』ってやつですよね」
 「…そ、そうでした」
 「へへっ。俺はそのまま旦那の視線を股間に感じながらガンガン突いてましたよ。こう見えても俺、持続力には自信がありますからね」
 そう云って彼はまた、神田先生に顔を向けた。教え子が自分の成果を自慢してる感じか。


 「暫くバックを続けてたんですけどね。今度は一旦抜いて奥さんをソファーに連れて行きました。奥さんはトロ~ンとした顔してましてねぇ。ソファーの前でもう一度キスですよ。今度の奥さんは凄かったですよ。向こうから貪って来ましてね。舌は入れて来るわ、零れ落ちる唾液まですくい取るわですよ。旦那も新鮮だったでしょうね、奥さんの変貌が」
 ゴクリと私の喉がなった。その音を訊いてか彼がニヤリと笑う。


 「次はどんな形の交わりだったと思います?」
 「あ、ええ…っと」
 「へへっ、次はですね、俺がソファーに座って奥さんに背中を向けさせて跨がって来させたんですよ。体重をこっちに預けて貰って、分かりますよね。背面座位ってやつですね」
 私には初めて耳にした名前の気がしたが、頭の中にはそのイメージが浮かんでいた。もちろん女は妻の久美子だ。久美子が若い男の胸に背中を預け、相手の両手で腿を下から持ち上げれた格好で突かれるのだ。男の剛直に串刺しにされ、下からの突き上げに身体を上下させながら喘声を吐き出すのだ。


 「うん、そうですよ先生。今想像した通り下から突き上げてやったんですよ」
 ウアッ!まさかの彼の指摘に私は呻き声を上げてしまった。彼は私の頭の中までお見通しなのか。
 そんな彼が話を続ける。
 「俺は奥さんの腿を両手で持ち上げなら御開帳ですよ。もちろん俺の“コレ”を突き刺したままです。今度は俺達も旦那の顔がハッキリ見えます。俺は腰を揺らしながら奥さんの耳元で云ってやりました」
 「あぁ、今度はなんて…」
 「ほら、今どんな事してるか旦那の顔を見ながら教えてやりなよって。自分のマンコがどうなってるか、インポ亭主に教えてやれって」
 「そ、それで奥さんは…」
 「最初は首を横に振りましたよ。でも、それも『嫌よ嫌よ』ですよ。腰をガツンと突き上げてやると、首を縦に振りましたよ。それで云いましたね」
 「な、なんて…」
 「へへっ、アタシのオマンコ突かれてますッ。若い男のチンポに突かれて喜んでますッ。欲しかったんですよアタシ。こんな変態的なセックスしたかったんですッ、てね」
 「あぁ、あぁ…く、久美子…」
 口から無意識に妻の名前が零れ落ちた。そんな私を見てか彼がニヤリと笑う。


 「まぁ、その後は云われた通り中に射精(だそう)かと思ったんですけど、見ると旦那さんがパンツを脱いでまして、アソコがおっ勃(た)ってるんですよ。僕も本来の仕事の意味は忘れていませんから、直ぐに抜いて選手交代です。その後の僕はカメラマンです」
 そう云うと彼はニコリと笑った。今度は無邪気な笑みだ。


 「はい、御主人と奥様の交わりがキチンと記録に残るように、お二人が絶頂を迎えるまで撮影を続けさせて頂きました」
 彼がそこにいない御夫婦に頭を下げるようにペコリとした。その隣では神田先生もニコニコ頷いている。
 私の方はこの場の空気が変わった気がしてスッと息を吐いた。
 彼達の“仕事”の一例は訊いた。間違いなく変態教師の夫婦だった…。
 さあ、私の相談の本題はこれからだ。
 そう、ここからなのだーー。