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第32話
妻との衝撃的な一夜を過ごしてから、4日が経った。
その4日間の中には、清々しい朝を迎える事が出来た日もあった。それは決まって、前日の夜に久美子が再び“妻の一人語り”をしてくれた時だった。
その時の妻は、少しばかりの酒を呑んで、アルコールの力も借りながら私のエロ履歴にあった変態女を演じてくれるのだった。
私は自分のエロ履歴を視られていた事が、結果的にはケガの功名となって、思わぬ恩恵を受けるようになったわけだ。
とは言っても私の真面目な性格は“歳の差夫婦”の奈美子さんとセックスしてしまった負い目を忘れる事はなかった。
それともう一つ気になっている事があった。
妻が先日の日曜、M駅の【BAR 白昼夢】で、秋葉先生に相談をしたその詳しい内容だ。
妻はどこまで私の変態気質を教えたのだろうか。秋葉先生に限って、私が変態である事を世間に吹聴するとは思えないが、小心者の私はやはり恐いのだ。妻から秋葉先生の不倫事実と、その“プレイ”の内容も少しは知ったつもりだったが、それもどこまで本当かは分からない。
この数日間、妻と床を一緒にした時も、私は心の何処かに小骨が刺さった気持ちでいたのだった。
金曜日。考えた末、私は秋葉先生と会って直接話しをしてみようと決めた。
早速昼休みに知り合いの教師仲間達に、メールで秋葉先生の連絡先を尋ねてみた。私の記憶が正しければ、先生は隣町の中学で教頭の職に就いている筈だったが、直接学校に電話するのは控える事にしていた。
妻に聞けば携帯番号やメールアドレスも分かるのだろうが、やはり彼女には聞きづらかったのだ。
そしてその日の夕方、予期せぬ事に先生本人からショートメールが来たのだった。
《寺田君
ご無沙汰しています。
僕の連絡先を探していたみたいですね。
急ぎの用件でも出来たのかな。
僕の方は明日明後日のどちらかなら時間はとれるから、よかったら連絡してみて下さい。
では。 秋葉洋司》
私は暫し、そのメールを何度か読み返した。
私からのメールを受け取った誰かが、先生に直接私の携帯番号を教えたのだろうが、今更そこを追求する気はなかった。それよりも緊張が先に立つ自分だった。いざ会った時には、どういう風に話しを切り出そうか。
と考えても、今のところ作戦などは思いつかない。こちらも先生の弱みーー不倫事実に変態気質を知っているのだからと自分に言い聞かせていた。
おそらく先生の方は、私が妻の久美子から連絡先を聞かなかった事に疑念を持った筈だ。私はそれなりに考えて返信を送る事にした。
《秋葉先生
寺田です。ご無沙汰しております。
実は妻の事で相談したい事があります。
明日の土曜日か日曜日、どちらでも構いませんのでお時間を頂けませんでしょうか。
詳しい事は会った時にお話ししたいと思います。
よろしくお願いいたします》
目的を“妻の事”とした事で、先生からも妻にこの件が伝わる事はないだろうと自分を納得させていた。
やがて返信が来た。
《承知しました。
では、明日の土曜日13時にM駅の北口改札で待ち合わせましょう》
M駅とあった事には多少の驚きと同時に、やはりと言うどこか納得の気持ちが生まれていた。
私はこの日の夜は“妻の一人語り”を聞く事もなく、明日の事を考えながら眠りについたのだったーー。
ーー土曜日。
今朝も比較的気持ちよく朝を迎える事が出来た私だった。
顔を洗いリビングへと向かって、妻に「おはよう」と声を投げ掛けた。
久美子はいつも通りに家事をしていた。返って来た「おはようございます」の声にも明るい響きが含まれていた。
妻の手が一休みした時だ。
「あのさぁ久美子の今日の予定は?僕の方は、また古本屋に行くつもりなんだよね」と若干声が震えた気がしたが、何とか言葉にしていた。
「そうですねぇ、アタシの方は」と云いかけたところで「あ、ひょっとして奈美子さんと体操教室?」と割って尋ねてしまった。
「は、はい、その予定です。でも、奈美子はお休みなんで一人で…」
何処と無く緊張を感じる妻の言葉だったが、私はシッカリと頷き返していた。その私に彼女が続ける。
「でも、午前中は家にいます。実は仕事が溜まってて持ち帰ってるんです。だから家で」
その言葉にも私は頷いていた。最近では教師が持ち帰った書類等を紛失する事が何度とあって、極力事務仕事は学校内で済ますようにと御用達のある学校が増えているらしい。しかし、私や妻が勤める学校はその点、少し緩かったのだ。
私はもう一度頷き「頑張って」と声を掛けていた。
昼前になると少し早いが家を出た。仕事をしてる妻に昼食の用意をしてもらうのも申し訳なく、外で食べようと思っていたのだ。
家からM駅までは乗り継ぎがスムーズに行けば1時間ほど。この日も問題なく目的地に着く事が出来た。
改札を出て、北口でラーメンでもと足が向きかけた私だったが、何故か気持ちは南口の方に惹かれていた。
やはり“悪“の魅力に取り込まれていたのか、フラフラとした足取りは南口のエスカレータに向かったのだった。
ロータリーに降りてスマホで確認すれば、約束の13時まではまだ余裕がある。私は何時かのように、この辺りを探索する事にした。
少し歩けば、神田先生の事務所のある古い雑居ビルの前にやって来た。
事務所といっても、中にはマジックミラーの部屋があって、そこを病的な趣向の持主達に時間貸しをしたりしているのだ。その利用者の大半は恐らく、教員達なのだろう。こうしている間にも、訳ありのカップルがビルに入って行くのではないかと奇妙な緊張を感じていた。帽子にサングラス、それに何時かの私のように変な髪型の人はいないか。私はそんな事を気にしながら暫くそこに立っていたのだ。
ふと気づけば、一人歩きの女性の姿が目に付く。歳は妻と同じく位かもう少し上か、いわゆる熟女の部類に入る人達だ。
あぁ、ひょっとしてこの女性は人妻売春を…と思ったところで、記憶の中から何時かの女店主の言葉が甦って来た。
ーーみんな訳ありだけど…。
ーー家に帰れば普通の主婦だし。
ーー倦怠期の…あっちの方だって凄いのよ。
ーー旦那にやった事のないサービスだって…。
ゴクリ、私は知らずに唾を飲み込んでいた。その目の前を又、人妻風の女性が通り過ぎて行く。しかし、その女性は隣の体操教室があるビルに入って行った。そう、ここにジッといたら妻が教室にやって来てしまう。古本屋に行ったはずの私がいたら、おかしな事になる。
と、その時グウっと腹が鳴った。丁度よい頃合いだ。今のうちに腹を満たしておくのだ。
駅の方に踵を返せば、あの店の事が浮かんでいた。例の女店主がいる店だ。妻との遭遇を考えれば北口に行くべきだろうが、私は恐いもの見たさで、もう一度その店に行く事にした。
今日のその店は、それなりの混み具合だった。女店主の姿はあったが、流石に客の対応で忙しそうだ。
私は手っ取り早く済まそうと、土曜日もやってるランチを注文した。
頼んだ定食がきたところで、改まって客の様子を探る。今日は多種多様な客層だ。若いカップルに中年カップル、一人でドリンクを飲んでる中年女性がいれば、それを見詰める私のような中年男もいる。流石に家族連れの姿は見受けられない。
食べ終わって、食後のコーヒーに口を付けながら時間を確認する。あと少ししたら、ここを出発しよう。そう思いながら、窓の外を眺めてみた。視界に映るのは朽ち果てた感じのビル群だ。
あれらのビルの中では、どんな人間模様が織り成されているのだろうか。当然、性的な行いも絡んでいる筈だ。
そんな事を考えながら外を見ていると、あの夜のマジックミラーの部屋の様子を思い出した。
ヤモリみたいに裸体をガラス窓に貼り着けて揺すっていた女ーー “歳の差夫婦”の奈美子さんの姿は衝撃的だった。あれが私と同じ教師と知っていたから、尚更その衝撃は強烈だった。あの女性が職業的売春婦だったら、あそこまでの驚きはなかった筈では、とも考えてしまう。
そして、未だに私はあれが妻の久美子だったらと妄想してしまう時がある。そしてそんな時は、きまってアソコが硬くなっているのだった。
あぁ、私はやっぱり生粋の変態男だ。
いや…。
それでも…。
これから会う秋葉先生にだって、それなりの変態性癖があるのだ。と、期待している私がいる。
先生は、妻の友人の奈美子さんを実際のところ…どんな風に…調教しているのだろうか…と、無意識に二人の関係を妄想しようとしている。
あぁ、秋葉先生との話はどんな風になるのだろうか、武者震いが湧いて仕方がない。