小説本文




 ガラス窓の向こう、マンションの上には丸い月がある。その月が放つ光は、いつから私を照らしていたのだろうか。ふっとそんな疑問が頭を過ぎると、何処かで声がしていたーー。


 あなたーー。
 確かに『あなた』と聞こえて、私は我に帰った。
 瞬きすれば中腰の妻だ。その腰と私の股間が密着している…と気付いた瞬間、ヌルっと膣(つま)の中から“私”が滑るように抜け落ちた。その先っぽからは、残り香が床に垂れ落ちて行く。
 あぁ、私は射精していたのか。あれは夢ではなかったのだ。


 私はブルッと頭を一振りした。ガラス窓に手を当てながら、妻がこちらを振り返っていた。妻の様子は、どことなくバツが悪そうな感じだ。
 今見た夢の中では、私は間違いなく久美子をサディスティックに弄(もてあそ)びながら、快楽を与えた筈だった。だが、現実ではきっと早漏(はや)かったのだ。目の前の妻は、満足しなかったに違いない。


 私の足がフラフラと後退ると、そのままベッドへと倒れ落ちた。
 下半身をだらしなく拡げたまま天井を見上げる。ふうっと息を吐くと、頭に浮かぶのは、情けないーーいつもの言葉だった。
 そんな私に妻が寄って来た。裸の妻だ。いつガウンを脱いだのか、私が脱がせたのか、それさえも記憶にない。


 「あなた…」
 朱い口唇から微かなアルコールの匂いだ。そうだった。久美子はシャワーを浴び、酒を飲んで部屋に来ていたのだ。妻なりに酒の力を借りたかったのだと、今更ながら想えた。
 何か云いたそうな妻に「久美子は…満足してないよな…」私の口が自虐的で投げやりな言葉を呟いた。
 それでも妻は、顔を寄せたまま一旦口元をギュッと結んで「あの厭らしいサイト…」と口にしたかと思うと、チラリと机の上のパソコンに目を向けた。
 私は、あぁっと息を飲み込んだ。その私に妻が続ける。
 「アタシも…◯◯◯みますわ…」
 その言葉はよく聞こえなかった。が、喉の奥がゴクリと鳴った。見れば妻が両足を拡げて行く。
 肩幅以上に拡がったところで、四股でも踏むかのように屈んでガニ股開きだ。そして、両手を首筋の後ろで組んだかと思うと胸を張った。
 唖然とした私だったが、身体が引き寄せられるように起き上がって行った。正面に向き直れば、妻の姿は“アレ”だ。
 寝取られサイトで読んだ小説ーー秘密クラブの淫靡なショーの舞台で、奴隷宣言をした人妻と同じ格好だ。
 妻は私が視てきたエロサイトの中から“あの”小説を見つけたのだ。そして読んだに違いない。


 私はその小説の“その”場面を思い浮かべようとした。
 首筋がキューッと熱くなって来る。同時に意識の奥から、小説の中の怪しい司会者の声が蘇って来たーー。


 ーーさぁ奥さん、その格好で腰を振りながら答えて貰おうか。奥さんはどんな女なんだ。
 その声に妻が頷く。
 『あぁぁ、チ、チンポが好きな変態女ですぅ』


 ーーふふっ。じゃあ奥さん、今夜はこの舞台の上でどんな事をしたいんだ。
 『ううぅ、チ、チンポを嵌めたいです。ズコズコとアタシのマンコに嵌めて貰いたいです』


 ーーチンポを嵌めたいだって。皆さんが見てる前でかい。
 『ぁぁ、そ、そうです。み、見て下さい!アタシの恥ずかしい姿を…』
 そこまで言ったかと思うと、突然ガニ股開きの膝がガクンと崩れ落ちた。


 崩れた肢体がハーハーと息を吐く。常夜灯の灯りの下、白い身体が震えている。
 その妻に「く、久美子…」大丈夫かい…と声を掛けようとした瞬間「あ…あなた…アタシ…」
 妻が背中を向けてゆっくり立ち上がろうとする。そして中腰になったところで、膝と膝を合わせて「み、見ててくださいね…」妻が臀をこちらに向けたかと思うとグイッと突き出した。


 「あなた…こんな格好…好きなんですよね…」
 ううっ、思わず息を飲んでしまう。
 「こんな画像が何枚もありましたよね…」
 あぁ、確かに何度も視てきたエロ画像と同じだ。


 ベッドから降りて私は、屈んで顔を近づけた。豊満な臀が震えている。その割れ目に手をやり拡げてやる。その奥では、アワビのようなアソコがグロい動きをしている。
 我慢しきれず私は、ソコに顔を埋(うず)めるとジュバジュバ、ジュルジュルと不乱に舌を抉り込んだ。鼻先をアナルに押し込みながら、割れ目の奥を唇で唾液まみれにしてやる。
 「あぁッ、んぐぐっ、気持ちいいッ、う、後ろからも!」妻から嘆きの声が上がった。


 私は腰を上げて、妻の手を取った。彼女がフラフラとベッドに寄って行く。ベッドに膝を乗せようとしたところで“ソコ“に目がいった。妻の耳たぶの下に、黒子(ホクロ)を観(み)たのだ。
 その瞬間『~スケベボクロみたいなもんだろ』訊き覚えのある声が降ってきた。
 その声に押されるように、私の手が妻の背中を押した。彼女が四つ足をついて犬の格好になっていく。
 あぁ、その姿も…。
 記憶の奥から浮かんでくるのは、やはり変態小説の文句だ。そう、これこそ主に全てを捧げる服従の格好なのだ。あぁ、妻の巨尻が好きにして下さいと鳴いている。
 だが、このベッドーー舞台に上がれば二人が性のショー芸人なのだ。 “お客様”の前、夫婦で白黒ショーを演じて笑って貰うのだ。それこそが快感なのだ。
 私は上着を脱ぎ去り、妻と同じように全裸になった。二人で恥部を曝すのだ。


 いつの間にやら、先ほど夢精したソレが異様に硬くなっている。久美子は…と割れ目の奥に指を挿(い)れるとビショビショだ。
 「あなたぁ…早くこの格好で…」
 妻のソコが怪しい液体で濡れ光っている。私は肉棒を泥濘の中心に当てがった…と思った瞬間には飲み込まれていた。そして気づけば、腰を振っていた。
 ズンズンと最奥へと突いてやる。奥に充てては、そこを捏ねくり回してやる。そして又、激しさを増してやる。突きながら指で割れ目を拡げてやれば、アナルを凝視した。


 「く、久美子…今、シッカリと見てるんだよ、久美子の尻の穴を…」
 「いやーーんッ!」
 部屋中に悲鳴が響き渡った。その叫びには間違いなく歓喜の響きが混じっている。
 妻は若い頃、尻の穴を見られるのが嫌で、この格好(かたち)での交わりを避けていたのだ。それが今は、この有り様だ。


 「ああ見えるよ!久美子のケツの穴がヒクヒクしてるところが」
 「は、恥ずかしいッ!」
 「でもいいんだろ!気持ちいいんだろ!」
 「は、はい!」
 「どこが気持ちいいか口に出して云うんだっ!ぼ、僕は、チンポが!」
 「イヤんッ、あなた!」
 「オラッ久美子は!」
 私の腰が自分でも信じられない速さで、妻の最奥を襲っていた。額、身体中からは汗が滴り落ちていく。


 「ほら!」
 「あうッ!アタシ…アタシはオ、オマンコが!」
 それを聞いた瞬間、汗が一斉に蒸気するのが分かった。遂に妻が、その四文字を口にしたのだ。私が口にさせたのだ。
 そしてその瞬間、私の物が膣(つま)の奥で爆発を迎えたのだった。


 放出し終えた後は暫く弛緩が続き、私はその余韻を天に昇る気持ちで噛み締めていた。妻の方は突伏した格好で、身体を震わせている。
 その横に倒れ込み、妻の肩を抱く。そのまま天井を見上げていると、徐々に落ち着きを取り戻してきた。酒も抜けきり頭の中が冷静になってきたのだ。
 その時、んんっと妻が寝返りを打つようにこちらを向いた。その顔は私が影になって輪郭が定かでない。


 その暗がりの中から「…寝取られって…」と絞り出たその言葉に、突然身体が落下していく気配を感じた。
 あぁ…それは闇…そう、暗い淫欲の闇の中に吸い込まれて行く気がしたのだった。