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 BAR白昼夢ーー。
 目の前、秋葉先生が手に持つ小瓶を、私はジッと見ていた。ソレは確かに、栄養ドリンクの瓶にしか見えなかったが、中身は『シンカノシズク』と言う精力剤の一種だとか。


 「どうしたんだね、心配かい?」と、先生が真顔で訊いてくる。
 「え、ええ、あまり聞いた事のない物ですから」
 「ふふっ、まぁ仕方がない。でも、僕達もたまに世話になるけど、後遺症とかは全くないよ。依存する事もないしね」
 「本当ですか」
 「ああ、勿論だよ」


 「先生はソレを、奈美子さ…」と云ってしまったところで、慌てて口を抑えた。
 一瞬、先生の目が光った気がした。
 「…そうか。フムフム、久美子君から聞いたんだね」
 先生の言葉に、私は「すいません」反射的に頭を下げている。
 「いや、いいよ。ただし、他では彼女の名前は出さないように気をつけておくれよ。特に教師連中の間ではね」
 「は、はい、それは勿論です。それに、そんな事を私が吹聴したって分かったら、私の方だって…」
 「そうだな、君の変態性癖が世間にね…それに、君の奥さんの久美子君が変態マゾ女って事もね…」
 「ええっ!!つ、妻がマゾ…女ですって!」
 「ふふふ」
 「せ、先生、それは一体どういう…」
 「聞きたいかい?気になるよね。でも、聞くには…」と、先生が又も小瓶を振っている。やはり“ソレ”を飲まないと聞けないような話なのか。


 「少し飲んでみるかい、勇気を出して。僕も付き合うからさ」
 先生は云うなり、1本のキャップを開けはじめた。
 開いたところでもう1本のキャップも開けて、私に向けて来た。私はそれを恐々と受け取った。
 「じゃあ、もう一度乾杯だ」
 カチリと小さな音がすると、先生はあっさり、というか手本を示すように飲み干した。そして、視線で私に勧めてくる。
 私はゴクリと息を飲むと口をつけ…そして一気に飲み込んだ。


 喉を通った感触は確かに栄養ドリンクか。覚悟していたほどの刺激は全くない。そんな私の様子を見てか「寺田君、どうだい何もないだろ」と先生が笑っている。
 「では、話に戻ろうか。ええっと、何の話をしていたんだっけ、寺田君」
 如何にもの教師の口調に聞こえて、一瞬生徒の気分になった気がした。
 「え~っと、久美子の、しゃ、社会体験のところでした」と告げた瞬間、視線の端で小さな光が瞬いた。その光の流れを追い掛けると、それは天に昇り、光の雫となって降ってきた。
 あぁ…雫…コレが神華の雫か…。


 「寺田君」
 声に前を向き直れば、優しそうな先生の顔だ。
 「そう社会体験、な~んて堅苦しい話じゃなくて、久美子君がオマンコを濡らす話だよ」
 「アーーーッ、そ、そうでした!それを聞きたかったんでシュよ」と声が変だ、と思ったが気にならなかった。それどころか、背中の後ろからモワモワと高鳴りが湧いてきた。
 眼の前では、先生の口がパクパク開いたり閉じたりしていた。口の中からは言葉が舞い上がって行くのが見える。
 その言葉は宙で文字となり、私の頭の中に降りて来た。


 ーー寺田く~ん、半年ほど前に久美子君から相談があったんだよ…。
 ーー彼女は君がストレスを抱えてると心配してたっけね~。
 ーー彼女自身も職場のストレス、夫の心配、彼女も疲れていたみたいだよ…。
 ーーだから機をみて、奈美子と夫婦として借りてるマンションに呼んであげたんだよね…。
 ーーそこで、僕達のセックスを見せてあげるって云ったら、驚いていたよ…。
 ーーでも、僕達は気にせず裸になったんだ…。
 ーー久美子君はどうしてそんな事が出来るのかと聞くから、夫婦だからと答えたよ…。
 ーー僕達の姿を見て、どうすれば寺田君に寄り添えるか考えてごらんって云ってね…。
 ーーそれから僕達は久美子君に撮影をお願いしたんだよ…。
 ーー僕と奈美子は色んな格好でシャブリあったり舐めあったりしたね。うん、見せつけるようにね…。
 ーー奈美子がアソコを拡げると、久美子君は撮影をしてくれてたね。おそらく、久美子君も自分のアソコを濡らしてたと想うよ…。


 ーー奈美子のヤツも最初の頃は他人に見せるなんてと恥ずかしがってたけど、あの薬のせいか、元々持ってた資質のせいか、大胆になってきてね。友達の前で平気で尻の穴まで見せていたよ…。
 ーー僕のアソコも異様に膨らんでね。ソレで奈美子をヒーヒーいわせてたよ…。
 ーー久美子君は時おり撮影を忘れて、僕達の絡みに魅入られる事があったね…。
 ーー僕達も調子に乗って、やった事のない体位を披露したよ…。
 ーー押し車って知ってるかい?後ろから挿入したまま歩くんだ。奈美子は四つ足で、僕は腰を前に突き出すようにしてね。久美子君もやってみたいと思ったんじゃないかな…。
 ーーそれと、僕のアレが奈美子のアソコに入っている所を近くから撮らせたりもしたね…。
 ーーその映像を、プレイの後に三人で視たりもしたね…。
 ーー他には仮面を着けてプレイしてるところを撮った日もあったね…。
 ーー久美子君もだんだんと慣れてきたけど、毎回生殺しで辛かったんじゃないかな…。
 ーーん、久美子君と僕が“本番“をやったかって?
 ーーフフフ、さぁそれはどうだろうか…。
 ーーまぁ、そうやって色々と妄想してるだけでも楽しいんじゃないかな…。


 ーーだけど、僕の勃(た)ちが悪くなってきてね。ふふっ、歳には勝てないって事だね…。
 ーーそんな時“あの人達“を知ってね、お願いに行ったんだよ…。
 ーー実際に相手をしてくれたのは若い人だったね…。
 ーーその彼とは色んなプレイをやったよ…。
 ーー僕の前で奈美子がその彼とプレイする処を見るのは刺激的だったな…。
 ーーその彼は日によって手を変え、品を変えて楽しませてくれたよ…。
 ーー僕自身にも新たな発見があったよ。自分の中にSとMが同居してるって分かったしね…んんっ!?。
 ーー寺田君!?


 「どうした寺田君?」
 「ヒッ、ヒィーーッ!ヒィーーッ!ヒィーーッ!」
 「おいっ、寺田君!」
 「………」


 頭の奥で、色んな顔が現われては消えていた…久美子、奈美子さん、秋葉先生、渋谷君、それと仮面の女…。
 と、誰かが私の名前を呼んでいる…。
 やがて、瞼がゆっくり開いていき…暗い天井が目に付いた。
 天井に“言葉”が、いくつか舞って見えた。それが今度は、黒い雫となって消えていく。あぁ… “黒子”のような雫だ。
 すると、身体が揺れている事に気が付いた「寺田君、大丈夫かい」先生が私の身体を揺すっていたのだ。


 私は2、3度頭を振って、ゆっくりと椅子の背もたれから身体を起こそうとした。
 「わ、私は一体…」
 「ああ、話を聞かせてたら、急に痙攣が起きたみたいに震え出したんだよ。…大丈夫かい」
 「は、はぁ…」
 「頭が痛いとか、気持ち悪いとかは?」
 「え、ええ、大丈夫みたいです」と口にしたが、頭はまだボォっとしている。
 「ちょっと待ってておくれ。冷たい水を持って来るから」
 そう告げて、先生がカウンターの中へと入って行った。その後ろ姿に、先生はあの“薬”を本当に飲んだのだろうか、そんな疑問が重い頭を横切った。
 私は瞬きをして、一度目を瞑った。
 目を閉じた私の耳に、ガチャガチャと氷の音が聞こえてきた。先生が製氷器から取り出しているのか。その音の合間をプチプチと“黒子”が弾け飛んでいる。


 やがて先生が戻って来て「寺田君、まだ、ボォっとしてるみたいだけど、本当に大丈夫?」と、水差しと氷の入ったグラスを置いてくれた。そして、波々と注いでくれる。私は頭を下げて、それを飲み干した。
 先生は私の様子を観(み)ながら「もう1杯くらい飲んでおこうか」と云って、空になったコップに注いできた。
 「これには何も入ってないからね」
 その言葉にむせ返りそうになりながらも、続けて飲み干してみた。
 胃の奥に水が染み渡って暫くすると、身体が熱くなってきた。そして、額の辺りから汗が吹き出る感触を覚えた。
 「発汗が来たら、スッキリすると思うよ」と、先生が頷いている。


 「でも寺田君、今日はこの辺で止めておこうか」
 「いや…あの、実は黒子が」
 「黒子!?」
 「はぁ、そうなんです、黒子なんです。さっき黒子が降って来たんですよ。それで…」
 先生は私を心配げにシゲシゲと覗きこんできた。それでも私の口は止まらなかった。
 「あのお…先生の彼女、奈美子さんの右の耳たぶの下に、黒子なんてありませんよねぇ」
 私自身も何故そんな質問を口にしたのか、理由など理解できなかった。先生を見れば、目が真ん丸と拡がっていた。初めて見る先生の表情(かお)かもしれない。


 「寺田君、君はやっぱり面白いところがあるなぁ」
 「あ、いや、すいません…」
 「………」
 「ま、不味かったでしょうか…」と言い掛けたところで「いや大丈夫だよ。うん、君はやっぱり面白い人だ」と呟きが聞こえた。
 私は先生のその顔を暫くの間、見詰めていたのだった。