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第30話
薄暗いベッドの中で、妻の口から出た思いがけない言葉ーー寝取られ。
妻がそこにあるパソコンの履歴から“夫”の決して人様には云えない性癖を知ってしまった事は事実で、それをこれから、改まって口にされると思って私の心は震えていた。
「アタシ…あなたの履歴からエッチな寝取られ小説を幾つか読みました。その中に『寝取られで興奮を味わいたいのなら“妻の一人語りに限る”』と言う1文がありました」
予期せぬその一言に、鼓動が跳ね上がった。確かにその文章は覚えている。
「男の人の中に、そういう趣向を持った人がいる事も知りました」
「………」妻は趣向と口にしたが、それこそが“癖”だ。そして“持った人”とは間違いなく私のような人間の事だ。
「それを今から語りますので…聞いて下さい…」
妻の語尾が微妙に震えていた。彼女も緊張しているのだ。
ゴクリと息を飲み込み、恐々隣の妻を覗いた。しかし、その表情は影になって分からない。
「以前の事なんですけど…実はアタシ、職場の上司のような人と親密な関係になった事がありました…」
いきなりのその言葉に、心臓が縮み上がった。もしや妻は、過去をカミングアウトでもするつもりなのか。
「その人は当時、課長で結婚もされていらっしゃいました。だけど奥様とは上手くいっておらず、色々と悩んでおられました」
あぁ…。
「最初はアタシが仕事を教えて貰ってる立場だったのですが、そのうちにアタシも“彼”の悩みを聞くようになりました」
妻が無意識にだろう『彼』と口にしていた。それに学校の事を『職場』、学年主任の事を『課長』と教師特有の隠語で云っていた。自然と癖(クセ)が出たのか。
「彼…いえ、その人とは何度かプライベートでもお酒を呑むようになりまして…」
「………」
「ある時、アタシもその人もストレスの絶頂の時があって…」
「………」あぁこの展開は…。
「それで、酔った勢いでホテルに…」と、妻が苦しそうに口にした。私はンググっと声に出ない呻きを上げている。
「それからその関係が…」
妻が間をおき、こちらを窺ってくる気配だ。私の方は口を利こうにも粘りついて上手く開きそうにない。
「あなた…」
妻の呼び掛けは、表情を読み取れない私への問い掛けか。
唾を飲み込んで私は「つ、続けて」と、何とか口にした。私の方も昨日、いや日付けが変わってるとしたら一昨日になるが、浮気をしてしまっているのだ。ここで妻の告白を聞かないわけにはいかない。
「はい。それで、その関係が暫く続きまして、その人は離婚していなかったから不倫の関係です」
妻の口から『不倫』と言う言葉を耳にすると、身体に電気が走った気になってしまう。
そして…まさか妻は、それを純愛と想っていたりして…とも考えてしまう。
「関係が続いていきますと、その人は別の顔も見せるようになりまして…その手のホテルに入ると、普段とは全く違う顔を…」
あぁ、それもまた寝取られ小説によくある話ではないか。
「ええ、とても口には出せないような卑猥な事を…」と云って、妻が私を見上げた…気がした。
私は妻の暗い輪郭を見詰めながら頷いた。そうなのだ。私のどうしようもない癖が、その卑猥な内容を聞きたがっているのだ。
「あぁ…あなた…◯◯◯◯のですね」
妻の語尾が“よろしい”のですね、と聞こえて、私はもう一度頷いた。
「彼は…」
あぁ、またも“その人”が『彼』に変わった。それだけで身構えてしまう。
「彼は、アタシが見た事もない卑猥なランジェリーをネットで取り寄せて、それを持って来るようになったんです」
あぁ、頭の中にアレが浮かぶ。おそらく…いや、間違いなくアブノーマルなやつだ。
「ええ、黒や赤のSMチックなブラやショーツです。彼はソレをアタシに着せて色んな格好を…」
「あぁ、そ、それはどんな格好…」
私の反応に、妻の身体が密着してきた。そしてサワサワと私のお腹辺りを擦り始めた。
「はい、テーブルの上に乗ってカエルみたいな格好をした事もありました。犬の格好になって廊下を歩いた事もあります」
「あぁ、ほ、他には…」
「はい、ストリップをやらされた事もありました」
「ス、ストリップ!」
「ええ、彼の前で一枚ずつ脱いでいくんです。ブラを外してオッバイをこう押し上げまして…。次にショーツを…はい、お尻を向けて、突き出して…ユックリと下ろしていくんです」
「あぁ…」
「彼はその間、何も言わずにジッと見てるだけなんです。アタシはそれだけでモジモジしてくるんです」
「………」
「それで、暫くしますとアタシの方から、媚を売るような声が出てしまうんです」
「ううッ、そ、それはどう言う…」
「あぁっん、それを…云うんですか」
「ああ、た、頼むよ」
「…あなたってやっぱり」
その時、妻の手が私の股間に触れた。ソコはいつの間にか硬くなっている。
妻は一呼吸おいて「あぁ、告(い)いますわね…はい、もっと見て欲しいです…アタシの恥ずかしい姿を…って」
「ああっ、そんな事を云ったのか!それでやったのか、その恥ずかしい格好を…」
「えっええ、背中を向けたまま足を拡げまして、手を床にぐーっと下ろしていきまして…」
あぁ、それは“例”の格好ではないか。
「アタシって身体が軟らかいじゃないですか。それで膝を曲げずにピタッと手を着けたんです」
「あぁ…そして“彼”がソコを…」拡げたのか…と聞こうとしたが声は途切れてしまっている。
それでも妻は、私の意図を察知したのか「いえ、彼は命令をしてきたんです」
あぁ…と言う事は。
「はい、ストリップですから、自分で拡げろと」
「うっ!じゃあ自分でソコを!」
「はい、お尻の肉を両手で外側から掴みまして…グイッと」
あぁ!その格好は記憶の中のエロ画像そのものだ。
「か、彼はそれでどうしたの」
「彼は最初は黙って見てるだけでしたわ。でも…」
「でも?」
「はい。ずっと黙ったまま見られてますと、身体がムズムズしてきまして、何か言葉を掛けて欲しくなってきて…お願いしたんです」
「そ、それはどんな…」
「ええ、エッチな、ひ、卑猥な言葉を…」
「そ、それは、具体的にどんな言葉だったの…」
「い、云うんですか」
「あ、あぁ…うん」
「あぁ…はい。彼は『久美子、ア、アソコが濡れてるぞ。どこの事か分かるよな』って」
「そ、それで」
「はい。オ、オマンコです。久美子の厭らしいオマンコです、って」
「い、云ったんだね…云ってしまったんだね」
妻の久美子は私より先に、オマンコ…その四文字を男に聞かせていたのだ。
ショックを感じた私だったが「ほ、他には」と恐々ながら次の言葉を誘っている。
「彼は向きを代えるように言いまして、こっちを向いてMの字でしゃがめと」
んあぁっ、それも分かる。分かってしまう。それもエロサイトで何度も視てきた画像と同じ画(え)だ。
「それで、言われるまましゃがみましたら、片手を付いて腰を浮かせろと。はい、それで片方の手で拡げろと。そのままソコを指をVの字にして拡げるんだ、と」
「そ、それもやったのか!」
「はい、すいません。その時は頭がボォっとしてまして、いいなりでした」
あぁ、その時の妻は“その男”の傀儡だったのか。と思ったところで改めて思い出した。その彼氏も私達と同じ教師なのだ。
「いいなりのアタシは、色んな事を受け入れました。はい、オモチャです」
「オモチャ!?」
「はい、彼は大人のオモチャと呼ばれる性具もネットで買ってたんです」
「久美子はソレを使われたのか!」
「はい、とても大きくて休まる事の知らないやつです。ソレをアソコに…」
「そ、ソレを受け入れて…」
「はい。それをアソコに突っ込まれたり、時にはソレを咥えさせられたまま下の口では」
んぐっ、久美子が『下の口』なんて表現を。
「く、久美子はその責めを感じてたんだな。そうだろ?」
「はい、とても感じてました。何度も天国に昇る気分でした」
「そ、そんなにか!」
「ええ。でも、その肉体的な責めもそうなのですが、言葉で厭らしい事を言われたり、言わされると身体が熱くなって、頭の中が真っ白になるんです。それに変態チックな格好を無言で見詰められてると、アタシ自身も堪らなくなるんです」
「ああ、それはさっきも言ったストリップの事だな」
「ええ、それもありましたが、露出を」
「えっ露出!…露出って」
「はい、彼との関係が進んで行くうちに新しい刺激を求めあうようになりまして」
ううっ、それにしたって露出とは…。それと『求めあう』とは、どう解釈すればいいのだ。その時の二人は主従関係の元、性への深淵を歩んでいたとでも言うのか。
私の心は重石がぶら下がってる気分だった。それでも私は、もう一つ気になっている事を聞く事にした。勿論、勇気を振り絞ってだ。
「そ、それでまさかだけど…二人の中に他の男を呼ぶ…って事は」
告(い)ってしまって私は、意味が伝わったかと考えた。
しかし…。
「それは貸し出しとか複数プレイの事ですよね」と妻から確認の問いではないか。
その瞬間、あーーーッ、身体が痙攣が起きたかのように震えだした。なぜ、そんな言葉を軽々と!
さすがの私も、一気に血が昇った。思わず身体を起こして「ひょ、ひょっとしてやったのか!おい!」と妻の顔を睨み…つけようとしたが、彼女の表情(かお)は暗がりの中だ。
それから暫く、部屋の中に私の荒い息遣いの音だけが流れた。妻の方も黙り込んでしまっている。口にした事を後悔しているのだろうか、と思った時だ。
闇の中から、ふふふと奇妙な笑い声が聞こえてきた。勿論、発したのは妻だ。
その笑いが次第に大きくっなっていき、そして…。
「あ、あなた…ププッ、じょ、冗談なんですよ。ふふふ」
「え!?」
「は、はい、すいません。今の話しは嘘です。アタシじゃありませんからね」
「なっ、ど、どう言う事?」
「うふふ、実は造り話…知り合いから聞いた話なんですよ。それを自分に置き換えて…」
あぁ…まさかそんな…。久美子まで渋谷君と同じように造り話を。
「ほ、本当に?」
「…はい」
「じゃあ、今のは誰の話なの」
「………」
妻は私の問いに、一瞬迷った様子だった。すると彼女の手が私の下腹部のソレを握った。
そして「あなたのココ…こんなに硬くなってますネ」
「………」
「やっぱり“妻の一人語り”は効くんですね」
「アアッ!」
「うふふ、でも今の話は云ったようにアタシの話ではないんですよ」
「だ、だから、誰かって…」
「えへ、あなたって口は堅かったですよね」
「あ、ああ」と、ぎこちなく頷いた。私の様子に妻は苦笑いを浮かべた感じだ。
「では、絶対にナイショですよ」
と、妻から新たな話しを聞かされたのだった。